上 下
69 / 137
第三章

Bランク冒険者になる

しおりを挟む
 砦の防衛は思った以上に長期戦になっていた。数えてみると、一ヶ月近く砦で過ごしていた。宿にいるときはそれなりにリラックスしているつもりであったが、色々と我慢してるものは溜まっているみたいだった。
 
 それは俺だけではない。リリアもアベルもマリアも同じだったのだろう。防衛戦が終わるとすぐに「帰ろう、帰ろう、家に帰ろう」と大合唱した。

 帰り際に立ち寄った領都では、安全になった西の砦の近くにある町に戻るべく、避難民達が移動を開始していた。
 砦に向かって進む多くの人達とすれ違いながらも領都に着くと、俺達冒険者は歓迎された。防衛戦が失敗に終われば次はこの領都が魔物の襲来に遭うことになる。それが冒険者達の活躍によって未然に防がれたのだ。冒険者達の株はまた一つ上がったことだろう。

 領都で一泊してから帰るつもりでいると、領主のライザーク辺境伯から晩餐のお誘いが来た。俺達が泊まっている宿は、領都に来た初日からお世話になっている宿だ。大変ありがたいことに、ライザーク辺境伯がいつでもこの宿を使っても良いとお墨付きをくれたお陰で、領都に来たときはタダでこの高級宿に泊まることができるのだ。

「この宿に泊まるとライザーク辺境伯様に情報が筒抜けになるわね。まあ、それでもこの宿は本当に素晴らしいし、文句はないんだけどね」

 夜の時間を邪魔されることになったリリアは、そう言いながらもちょっと残念そうだった。何せこの宿には個人で借りることができる貸し出し風呂があるのだ。おそらくそれを期待していたのだろう。

「ライザーク辺境伯様に呼ばれたんじゃ仕方がないさ。どのみち挨拶せずに帰るのはどうかと思っていたところだしな。ライザーク辺境伯様にはいつもお世話になっているからな」
「確かにそうだね。辺境伯様は新型馬車のできが気になってるんじゃないの?」

 出かける準備をしながらアベルが聞いてきた。確かにありえる話だ。俺が西の砦の防衛に参加していたから、馬車作りが遅れているのではないかと気になっているのだろう。そこはイーゴリの街にいる残りの四人衆に期待するしかないな。多分完成してると思うけど。

 みんなの準備ができるころ、迎えの馬車が宿の前にやって来た。まるで図ったかのようである。


「疲れているところを済まないね。どうしても直接礼が言いたくてね」

 ライザーク辺境伯はいつものように気さくに接してくれた。もう会うのも何度目だか分からない。俺達も大分この空気には慣れて来ていた。
 晩餐会にはライザーク辺境伯夫妻と嫡男のクラース様が同席している。

「まずは乾杯しよう。皆の無事と、この領都を守ってくれたことに感謝を」

 全員がグラスを掲げ乾杯した。一口飲んだだけでも分かるもの凄くいいお酒だ。これはリリアを監視しておかないと、またへべれけになるぞ。

「砦からの報告書には全て目を通したよ。四人とも大活躍だったそうだな。即座に役に立つ魔道具をその場で作る発想力と言い、ゴブリンキングの首を一太刀で刎ねる剣技と言い、素晴らしな」

 掛け値無しのライザーク辺境伯の喜びように照れ隠しの頭をかいた。辺境伯曰く「ダナイ達がいなければ、もっと長期戦になり、最後は疲弊してしまい砦は危なかっただろう」とのことだった。数ヶ月程度で済んだのは運が良かったのかも知れない。

 その後もライザーク辺境伯がしきりに褒める者だから、みんな恐縮しきってしまっていた。砦の防衛戦の話は興味を引いたようであり、そこで起こった珍事件なども含めて非常に楽しい晩餐となった。


 数日後、俺達はようやく我が家のあるイーゴリの街へと帰ってきた。共に帰ってきた他の冒険者達と一緒に、まずは冒険者ギルドに報告を行った。

「無事に戻ってきたか。砦の防衛が上手く行ったと言う話はここまで届いているぞ。本当にみんな良くやってくれた。報告書に基づいて正式な報酬を準備するから、しばらくは疲れた体を癒やしておいてくれ」

 ギルドマスターのアランは一人一人をねぎらい、副ギルドマスターのミランダは報酬の取りまとめに忙しそうだった。俺達は報告が終わると早々に家へと帰った。

「あー、やっぱり家が一番だわ!」

 家が大好きマリアはお気に入りの俺が作ったソファーに寝転ぶとすぐにダラダラし始めた。

「ちょっとマリア、まずは片付けなさい。洗濯物も洗わないといけないし、一ヶ月も家を空けていたから、あちこちホコリだらけでしょ」

 やれやれ、とリリアがマリアを促す。その姿はお姉さんと言うよりかは、完全にオカンである。疲れてはいたが、ホコリだらけの家でくつろぐ気にはなれなかった。すぐに掃除を始めた。アベルも動き出したようである。

 旅の片付け、家の掃除が終わると、すでに辺りは暗くなり始めていた。久しぶりの台所で鍋の用意をした。すぐに作れるし評判も良いので、疲れているときはこの手に限る。みんなそろって食卓を囲った。

「俺達、結構難易度の高い依頼をこなして来たよね?」
「そうだな。でっかいイノシシに首無しデュラハン、大盗賊ガロン狩りに砦の防衛。なかなか良い感じじゃないのか?」
「もしかして、Bランク冒険者になったりしちゃう?」

 マリアが目を輝かせて聞いてきた。目がキュルンとしていて何とも可愛い。思わずほっこりとしていると、リリアが半眼を向けてきた。違うんだよ、リリア。やましい気持ちは何もないんだよ。

「冒険者ランクが上がるかは、ギルドの判断次第だな。それよりもアベルの剣を何とかしないといけないな」

 アベルの剣は先のゴブリンキング討伐で悲鳴を上げていた。もう一回魔法剣を使ったら間違いなく折れる。それどころか、普通に使っていてもいつ折れるか分からない。早急に別の武器を用意する必要があった。

「そこまで痛めていたのね。魔法剣なんて使える人はあまりいないから、全然気がつかなかったわ」
「リリアの意見はもっともだ。普通の人じゃ、これだけ剣がボロボロになっていることに気がつかないよ。俺みたいに鍛冶屋だからこそ分かることさ」
「でも、どうするの? ミスリルの剣を作るにしても、ミスリルなんて見たことないわよ」

 リリアがコテンと首を傾げた。何その可愛い仕草。ずっと見ていたい。カメラが、カメラがここにあれば……。

「ミスリルについては師匠に聞いてみようと思う。何とか手に入ればいいんだが……」

 この話をアベルは心配そうに聞いていた。もはやアベルには普通の剣では耐えきれなくなっていた。何とかしなければアベルはさらに上を目指すことができない。

 悶々とした状態で眠りに就こうとしたのだが、リリアも悶々としていたようで、寝かせてはもらえなかった。もちろん、隣の部屋の住人も眠れなかったはずである。


 ****


 王都の冒険者ギルド本部ではBランク冒険者への昇格者選定が行われていた。Cランク冒険者とBランク冒険者の間には大きな隔たりがあった。
 Bランク冒険者になると、冒険者として正式に国に認められることになるのである。これは貴族にとっての準男爵扱いに近いものであった。そのため、Bランク冒険者への昇格は本部でのみ決定される。口利きによって決めたとしたら、その責任は即座に問われることになるのだ。

「ビッグボーア、デュラハン、ビッグバイパーの討伐に砦の防衛ではゴブリンキングの居場所の特定に、ゴブリンキングの討伐。Bランク冒険者への昇格には十分な功績でしょう」

 その場にいた全員が満場一致で頷いた。

「このアベルというのはAランク冒険者のイザークの弟だそうだ。それならば大丈夫だろう。彼らの昇格を認めよう」

 こうしてダナイ達はBランク冒険者へ昇格することが決まった。この決定はすぐに国王陛下へも届けられた。

「ほう、あの者達がBランク冒険者に昇格したのか。まさか冒険者としても一流の力を持っているとはな。これはこの者達のことを気にとめておかねばなるまいな」

 国王陛下は冒険者ギルドから届けられたその手紙を見ると、すぐに側近を集め、今後のことについて話あった。

 こうしてダナイ達の名前は国王陛下達の間でも「ただ者ではない」と覚えられることになったのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

氷河期ホームレスの異世界転生 ~俺が失ったものを取り戻すまで~

おひとりキャラバン隊
ファンタジー
2035年、就職氷河期世代の吉田は、東京の池袋でホームレスをしていた。 第三次世界大戦の終結から10年。日雇いのアルバイトで生計を立てていた吉田は、夜中に偶然訪れた公園で、一冊の不思議な本に出合う。 その本を開いた事がきっかけで、吉田は「意識を向けたモノの情報が分かる力」を手に入れる事に。 「情報津波」と名付けたその力で、世の中の理不尽が人為的に作られた事を知り、それを住処にしていたネットカフェで小説として執筆し、WEB小説のサイトに投稿した。 その夜、怪しい二人組の男がネットカフェに現れ、眠っている吉田に薬を嗅がせた。 そうして息を引き取った吉田だったが、再び目覚めたと思ったら、そこは見た事も無い様な異世界だった。 地球とは比べ物にならない程の未来的な技術に満たされた星で、吉田は「ショーエン・ヨシュア」として成長する。 やがて「惑星開拓団」を目指して学園に入学する事に決め… 異世界、SF、ファンタジー、恋愛。 様々な要素が詰め込まれた濃密で壮大なストーリー。 是非お楽しみ下さい!

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...