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第二章

魔道具屋ミルシェ②

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 そのままブラブラと眺めていると、浄化の魔道具を展示しているスペースにやって来た。そして売られている浄化の魔道具を見て内心驚いた。
 思っていたよりも随分と大きい。四人で座るこたつくらいの大きさをしている。どうしてこんなに大きいんだと首を傾げると、しまった! とばかりに額をパチンと叩いた。

「そうか!」
「どうしたの?」
「魔方陣は大きいほど効果が強くなるんだよ。マリアの浄化の魔道具があのサイズで済んだのは「効果増幅」の魔方陣と、「節約上手」の魔方陣を組み込んでいるからだったのを忘れてたぜ」

 そうだった、そうだった、と納得していると背後から誰かが近づいてきた。その気配を感じバッと振り返る二人。

「今のお話、詳しく聞かせていただいても?」

 そこには眼鏡をかけた一人の女性が立っていた。訝しげに見ていると、その人物は自己紹介を始めた。

「私はこの店のオーナーのミルシェです。以後お見知りおきを」
「俺はダナイ。こっちはリリアだ。それで……」
「もしかして、浄化の魔方陣を作り出しただけでなく、閃光玉と拡声器、それに湯沸かしの魔道具を開発した、あのダナイさんですか!?」

 ミルシェのテンションがメーターを振り切った。目を輝かせ、ダナイに近づこうとしたその間に、リリアが体を滑り込ませ仁王立ちした。早くもその柳眉が吊り上がっている。

「私の旦那様に、何の用かしら?」

 誰が聞いても分かるほどの棘のある言い方に、ミルシェは我に返った。一歩下がると頭を下げた。

「奥様、申し訳ありません! 同じ魔道具師として、お話を聞きたいと思いまして失礼な態度を取ってしまいました。よろしければ、奥でお話を聞かせていただきたいのですが」

 ミルシェの丁寧な態度に矛を収めたリリア。どうする? とダナイに聞いた。

「そうだな、他の魔道具師と仲良くなっておくのも良いかも知れないな。他にも用があるから長居はできないが、それでもいいなら構わないよ」
「ぜひお願いします!」

 そう言うと、二人を奥の商談スペースへと連れて行った。ミルシェはお茶を出すように従業員に指示を出すと、待っていられないとばかりに口を開いた。

「先ほどのお話ですけど、「効果増幅」と「節約上手」という魔方陣があるというお話でしたが……?」
「ああ、あるよ。と言うか、知っているんじゃないのかね?」
「いえ、どちらも初めて聞く魔方陣ですわ。そのような補助的な魔方陣があることを聞いたのも初めてですわ」

 どうやら火を出すなどの実際の現象を引き起こす魔方陣は広く知れ渡っているようだが、何の効果か分かり難い魔方陣は、闇に埋もれてしまったようである。
 おそらく、魔道具を開発している人達が「この部分がなくても使えるぜ! 仕事が減ってラッキーだぜ!」とか何とか言って削っていったのだろう。その結果が今の魔道具の小型化を妨げることになっているとダナイは予想した。

「知っておくと魔道具を小型化できて便利だぞ。その分、一つの魔道具を作るのに手間がかかるがな」

 ダナイの言葉を聞くミルシェの眼差しは真剣だった。一言も聞き漏らすまいとするその姿勢にダナイは好感を持った。

「俺の設計した魔道具は売れてるかな?」
「それはもう。閃光玉は冒険者の方達が毎日のように買っていきますよ。閃光玉のお陰で命拾いした方も多いみたいです。今では一人一個は持つのが当たり前のようになってますよ」

 どうやら自分の作った魔道具は、冒険者達の安全装置として無事に機能しているようだ。悪い気持ちはしなかった。
 
「拡声器の方は商人達に非常に人気が高いですよ。何せ、自分の商品を大声でアピールすることができますからね。喉を痛めなくて済むから助かっている、というお話をよく聞きますよ」

 ミルシェはまるで自分が開発した商品のように嬉しそうに話していた。それを聞いていたリリアもダナイの作った物が売れていると知って機嫌が良くなっていた。

「そんなに売れているなんて思わなかったわ。イーゴリの街ではあまり見かけなかったものね」
「こちらで作った物を流通させる話は出ているんですが、何せここだけでもすぐに売り切れてしまいますからね。周辺の街まで届くには今しばらくはかかりそうです」

 どうやらイーゴリの街で見かけないのは魔道具師が作っても、すぐに売り切れているからのようだ。

「ところで、ダナイさんはどこかにお店を持っていたりするんですか?」
「いや、店は持ってないな。何せ、魔道具師になったばかりだしな」
「魔道具師になったばかり? それでこれだけの腕を持っているのですか! 信じられません」

 ミルシェが目を見開いた。それを見たリリアはニンマリとしている。

「そうなのよ。ウチの旦那様は凄いのよ~」

 上機嫌であった。しばらくうつむいたミルシェは、意を決したかのように頭を上げた。

「ダナイさん、私の店の専属魔道具師になりませんか?」
「専属魔道具師? それになると何か良いことがあるのか?」
「ええ、もちろんですよ。あなたが作った魔道具の保証人なります。それに、魔道具ギルドで設計図を売ると、そのときだけお金がもらえますが、専属魔道具師になって、新しい魔道具を登録してもらえれば、売れた分だけ定期的にお金をお支払い致します」

 定期的にお金が入ってくるのはありがたい。もちろん、売れる魔道具が作れれば、という話ではあるが。魔道具ギルドって要らないんじゃないかなぁ、と思いもしたが、きっと資格認定とかで必要な機関なのだろう。どうりで設計図などを売りに行ったときに機嫌が良かったわけだ。

「そうだな、魔道具の情報が入ってくるだけでも御の字か。分かった。ミルシェの店の専属魔道具師になることにしよう」
「ありがとうございます! ダナイさんが専属魔道具師になってくれるなら、百人力ですよ」

 大げさだなぁと思いつつも、頼りにされるのは嬉しかった。

「それじゃさっそく新しい魔道具を登録しておくか。そうだな、このどこでも持ち運べる防音の魔道具なんてどうだ?」
「持ち運びできる防音の魔道具!? それは聞き捨てなりませんね」

 こうしてダナイが売った持ち運びできる防音の魔道具は機密事項を話すことが多い貴族や、各種ギルドに高値で売れた。
 犯罪に使われ難くするために値段を割高に設定した。だが、それが逆に高級品と見られたようで、それを持っていることが貴族としてのステータスとなったようである。防音の魔道具の値段は鰻登り。もの凄い利益を上げることになったのだった。
 もちろんライザーク辺境伯からも最高品質のものを依頼された。
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