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第二章

魔道具屋ミルシェ①

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 無事に宿へ戻って来たことに安堵すると、四人を大きな疲労感が襲ってきた。グッタリとソファーやベッドでダラダラし始めた。
 ダナイの隣に腰掛けたリリアが「エネルギー補充」とばかりにダナイの髭をサラサラと梳いている。

「今日はもう出かけるのは無理ね」
「ああ、そうだな。それにしてもなんでマリアはあんなことを言ったんだよ」
「だって、だって。自慢したかったんだもん」

 怒られると思ったのか、口を尖らせて自分は悪くないアピールをしていた。その可愛い仕草に毒気を抜かれたダナイはリリアに倒れかかり、膝枕状態になった。その状態でリリアはダナイの髪の毛をモフモフしながら聞いた。

「ライザーク辺境伯様は「宿代は自分が支払うから、好きなだけ領都に滞在していい」って言ってたけど、どうするの?」
「実はさっきの面会で気になることがあってな」

 その言葉に興味を持ったのか、アベルが身を乗り出してきた。

「気になった事って何?」
「ほら、マリアの持っていた浄化の魔道具を驚いて見てただろ? そんなに珍しいのかと思ってな。俺が作れるんだから、同じ物がすでにあってもいいと思わないか?」
「確かにそうかもね。それじゃダナイは領都の魔道具屋に行ってみたいんだね」
「そう言うことだ。領都でどんな魔道具が売っているのかも気になるしな」

 なるほどね、とアベルが呟く一方で、マリアが疑問を呈した。

「リリアとのデートのときは行かなかったんだ?」
「当たり前だろう。デートでそんな場所に行ったって面白くないだろう?」
「だってよ、アベル」

 アベルはそっぽを向いた。どうやらアベルはマリアとのデートのときに自分の欲望の赴くままに武器屋にでも入り浸ったのだろう。アベルはまだ若い。それも仕方ないかとダナイとリリアは苦笑いした。

「それじゃ明日は自由行動だな。俺は魔道具屋に面白いものがないかを見てくるよ」
「ダナイ、私もついて行ってもいいかしら。それとも、何か不満?」

 慌てた様子で上を見上げた。そこにはたゆんとリリアの双丘が目の前にあった。そのまま目を泳がせながら、目のやり場に困っていると、ニヤニヤした表情のマリアと目が合った。

「い、いやそんなことは全然ないが、ほら、退屈するんじゃないかと思ってな」
「大丈夫よ。その代わり、私の買い物にも付き合ってもらえないかしら?」
「もちろんさ」

 二つ返事をしたものの嫌な予感がヒシヒシとしていた。女性の買い物は長い。それについては前世から知っていることであった。すぐに『ワールドマニュアル(門外不出)』で店をピックアップした。何せ領都はイーゴリの街の何倍もの広さがあるのだ。適当に回っていたら、何日かかるか分からない。


 翌日、四人は二組ずつに分かれて行動を開始した。マリアはアベルと腕を組むと、上機嫌で手を振って歩いて行った。

「それじゃ、俺達も行くとしようか」

 するとすぐにリリアが腕を組んできた。案外負けず嫌いのようである。いい年して腕を組むことになるとは、と思いつつも悪い気持ちはしなかった。

「それじゃ、どっちから先に行こうか?」
「先に魔道具屋に行きましょう。私も気になるわ」

 ダナイはすでにいくつかの魔道具の設計図を魔道具ギルドに売っていた。その設計図を元に、すでに魔道具が生産されていてもおかしくないのだ。どうやらリリアはそれらの売れ行きが気になっているようだった。

 それじゃあそうするか、と二人は調べておいた「領都で行くならここの店」の中に入っていたおすすめ魔道具屋へと向かった。
 領都の大通りから少し裏路地に入ったところにあったその店は、「魔道具屋ミルシェ」という看板を掲げていた。大きくもなく、かと言って小さいわけでもない、どこにでもあるサイズの店だった。

 木の扉を開くと、カランカランという鐘の音が遠くで聞こえ、それに応えて「いらっしゃいませー!」という元気な声が聞こえた。店はそれなりに繁盛しているようであり、何人もの客が魔道具を眺めていた。その中には冒険者らしき姿をした人達もいた。
 彼らが見ていたのはダナイが設計図を売った「閃光玉」であった。

 その姿を捉えたリリアはニヤニヤと口角が上がっていた。そして隣を歩くダナイを見ると耳に口を近づけて小さな声で言った。

「あなたの作品、売れているみたいね」

 その声は弾むように嬉しそうであり、照れくさくて頭を掻いた。
 売られている魔道具の中には「拡声器」の魔道具もあった。それを見たダナイが嬉しくなったのは言うまでもない。
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