11 / 137
第一章
弟子入り志願①
しおりを挟む
二階級昇進の話の後、ダナイはDの文字が書かれた冒険者証明書を受け取り、ブラックベアと道中で倒した魔物の魔石、薬草の束を冒険者ギルドで売却すると宿へと戻った。今、ダナイの手元には約十万Gという大金が握られている。
夕食と風呂を済ませると、ようやくリラックスすることができた。
気軽に小銭を稼ぐつもりが思わぬ事態となり、気がつかないうちに緊張が張り詰めていたのだろう。肩の力が抜けて緊張感がほぐれたのを感じていた。ダナイは金庫にお金を入れると、布団の上に仰向けになり、これからの方針を改めて考えた。
聖剣を作るからにはイーゴリの街で一番の鍛冶屋に弟子入りしたい。明日からは街一番の鍛冶屋を探すところから始めないといけないな。
そう思ったところで『ワールドマニュアル(門外不出)』が頭の中で答えを出した。
問)イーゴリの街で一番の鍛冶屋は誰か?
答)鍛冶屋ゴードン・モルチャノフ
節操ねぇなあと思いつつも、ひとまず人捜しの目処が立ったので良しとすることにした。ここは異世界、自分の常識が通用しない世界なのだ。深くは考えないことにした。なるようになるさ。そう思うと、急に眠気がダナイを襲った。
翌日、ダナイは鐘の音と共に目を覚ました。昨日は気がつかなかったのだが、どうやら定期的に鐘の音で時刻を知らせているようだった。ダナイは小銭と冒険者証明書を掴むと一階にある食堂へと向かった。
クリスに朝食の注文を頼むと、ついでとばかりに尋ねた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、ゴードンという鍛冶屋を聞いたことがあるかね?」
「ゴードン? うーん、聞いたことないなあ」
思い出そうとしていたが、どうやら記憶の中にはないようだった。これは女将にも聞いた方が良さそうだと思っていたところに、都合良く女将がやってきた。ダナイはクリスと同じ質問をしたが、知らないという答えだった。何だか雲行きが怪しくなってきたぞ、と思いつつ、ダナイは二人にお礼を言った。
街へと繰り出したダナイは『ワールドマニュアル(門外不出)』に頼るべきかと思ったが、ここは一つ自力でやってみて、それでも駄目ならそれに頼ることにした。せっかく異世界に来たのに、何から何までそれに頼り切るのは気が引けたのであった。
情報が集まりそうなところと言えば冒険者ギルドだろう。ダナイはさっそく冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは多くの冒険者達で大変賑わっていた。昨日訪れたときは昼頃であり、それほど人が居なかったのだが、時間帯でこんなにも違うのかと内心驚いていた。どうやら冒険者の朝は早いらしい。もっとゆっくりできるかと思っていたダナイは出鼻を挫かれた形となった。
忙しいところ申し訳ないな、と思いつつダナイは冒険者ギルドの職員に声をかけた。
「ちょっと聞きたいんだが、ゴードンという鍛冶屋を知らないかね?」
「鍛冶屋ゴードンですか? ちょっと待って下さいね」
そう言うとギルド職員はこの街の地図を取り出した。地図上で見るイーゴリの街はダナイが予想していたよりも広かった。おそらく適当に街中をふらついていたら見つからなかっただろう。
「ここが冒険者ギルドです。そしてここが鍛冶屋ゴードンですね。武器を買いに行くつもりですか? どうも最近はゴードンの具合が良くないようで、もしかしたら取り合ってもらえないかも知れません。念のため、別の武器屋も紹介しておきましょうか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう。さっそく行ってみることにするよ」
これは困ったぞ。ダナイは内心ヒヤリとしている。もし、具合が悪くて鍛冶屋としての技術を教えてもらえない状態だったらどうするべきか。不吉な考えが頭をよぎったが、今は一刻も早く彼に会うべきだと道を急いだ。
大通りから小道に入り、そこからいくつかの裏通りを行くと、目の前に「鍛冶屋ゴードン」の名前が見えて来た。しかし、店の扉は固く閉ざされていた。ダナイは一縷の望みをかけて扉を叩いた。すると中から一人の老婆が出てきた。
「ゴードン・モルチャノフさんにお願いがあって参りました」
ダナイはその老婆をジッと見つめた。ダナイの真剣な表情に何かを感じ取ったのか、少し目を見開くと部屋の中へと案内してくれた。案内された場所には一人の白髪交じりの眼鏡をかけた老人が居た。
「どちらさんかね?」
ゴードンは優しい声色でダナイに尋ねた。ダナイは間髪を容れずに土下座の体勢をとって、額を床に擦りつけた。
「私はダナイと申します。どうか私を弟子にして下さい!」
有名な職人に弟子入りするならば、誠心誠意頼むしかない。そう思っているダナイは、弟子にしてもらうまではこのまま梃子でも動かないつもりでいた。
「ダナイさん、ひとまず顔を上げて下さい」
ゴードンの言葉に反して、ダナイは決して頭を上げなかった。ゴードンは何とかダナイの顔を上げさせようとしていたが、ついに根負けした。
「分かりました、ダナイさん。あなたを弟子として認めましょう」
その言葉に、ダナイがパッと顔を上げた。その目は爛々と輝いており「ありがてえ!」としっかりと書いてあった。ゴードンはハァとため息を吐いた。
改めて店内を見渡すと、ダナイが案内された部屋は居住区のようであり、奥に扉が二つと、先ほど通り抜けてきたカウンターのある店側があった。工房は店側にあるのだろう。この部屋からは工房がどのようになっているのかを知ることはできなかった。
夕食と風呂を済ませると、ようやくリラックスすることができた。
気軽に小銭を稼ぐつもりが思わぬ事態となり、気がつかないうちに緊張が張り詰めていたのだろう。肩の力が抜けて緊張感がほぐれたのを感じていた。ダナイは金庫にお金を入れると、布団の上に仰向けになり、これからの方針を改めて考えた。
聖剣を作るからにはイーゴリの街で一番の鍛冶屋に弟子入りしたい。明日からは街一番の鍛冶屋を探すところから始めないといけないな。
そう思ったところで『ワールドマニュアル(門外不出)』が頭の中で答えを出した。
問)イーゴリの街で一番の鍛冶屋は誰か?
答)鍛冶屋ゴードン・モルチャノフ
節操ねぇなあと思いつつも、ひとまず人捜しの目処が立ったので良しとすることにした。ここは異世界、自分の常識が通用しない世界なのだ。深くは考えないことにした。なるようになるさ。そう思うと、急に眠気がダナイを襲った。
翌日、ダナイは鐘の音と共に目を覚ました。昨日は気がつかなかったのだが、どうやら定期的に鐘の音で時刻を知らせているようだった。ダナイは小銭と冒険者証明書を掴むと一階にある食堂へと向かった。
クリスに朝食の注文を頼むと、ついでとばかりに尋ねた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、ゴードンという鍛冶屋を聞いたことがあるかね?」
「ゴードン? うーん、聞いたことないなあ」
思い出そうとしていたが、どうやら記憶の中にはないようだった。これは女将にも聞いた方が良さそうだと思っていたところに、都合良く女将がやってきた。ダナイはクリスと同じ質問をしたが、知らないという答えだった。何だか雲行きが怪しくなってきたぞ、と思いつつ、ダナイは二人にお礼を言った。
街へと繰り出したダナイは『ワールドマニュアル(門外不出)』に頼るべきかと思ったが、ここは一つ自力でやってみて、それでも駄目ならそれに頼ることにした。せっかく異世界に来たのに、何から何までそれに頼り切るのは気が引けたのであった。
情報が集まりそうなところと言えば冒険者ギルドだろう。ダナイはさっそく冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは多くの冒険者達で大変賑わっていた。昨日訪れたときは昼頃であり、それほど人が居なかったのだが、時間帯でこんなにも違うのかと内心驚いていた。どうやら冒険者の朝は早いらしい。もっとゆっくりできるかと思っていたダナイは出鼻を挫かれた形となった。
忙しいところ申し訳ないな、と思いつつダナイは冒険者ギルドの職員に声をかけた。
「ちょっと聞きたいんだが、ゴードンという鍛冶屋を知らないかね?」
「鍛冶屋ゴードンですか? ちょっと待って下さいね」
そう言うとギルド職員はこの街の地図を取り出した。地図上で見るイーゴリの街はダナイが予想していたよりも広かった。おそらく適当に街中をふらついていたら見つからなかっただろう。
「ここが冒険者ギルドです。そしてここが鍛冶屋ゴードンですね。武器を買いに行くつもりですか? どうも最近はゴードンの具合が良くないようで、もしかしたら取り合ってもらえないかも知れません。念のため、別の武器屋も紹介しておきましょうか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう。さっそく行ってみることにするよ」
これは困ったぞ。ダナイは内心ヒヤリとしている。もし、具合が悪くて鍛冶屋としての技術を教えてもらえない状態だったらどうするべきか。不吉な考えが頭をよぎったが、今は一刻も早く彼に会うべきだと道を急いだ。
大通りから小道に入り、そこからいくつかの裏通りを行くと、目の前に「鍛冶屋ゴードン」の名前が見えて来た。しかし、店の扉は固く閉ざされていた。ダナイは一縷の望みをかけて扉を叩いた。すると中から一人の老婆が出てきた。
「ゴードン・モルチャノフさんにお願いがあって参りました」
ダナイはその老婆をジッと見つめた。ダナイの真剣な表情に何かを感じ取ったのか、少し目を見開くと部屋の中へと案内してくれた。案内された場所には一人の白髪交じりの眼鏡をかけた老人が居た。
「どちらさんかね?」
ゴードンは優しい声色でダナイに尋ねた。ダナイは間髪を容れずに土下座の体勢をとって、額を床に擦りつけた。
「私はダナイと申します。どうか私を弟子にして下さい!」
有名な職人に弟子入りするならば、誠心誠意頼むしかない。そう思っているダナイは、弟子にしてもらうまではこのまま梃子でも動かないつもりでいた。
「ダナイさん、ひとまず顔を上げて下さい」
ゴードンの言葉に反して、ダナイは決して頭を上げなかった。ゴードンは何とかダナイの顔を上げさせようとしていたが、ついに根負けした。
「分かりました、ダナイさん。あなたを弟子として認めましょう」
その言葉に、ダナイがパッと顔を上げた。その目は爛々と輝いており「ありがてえ!」としっかりと書いてあった。ゴードンはハァとため息を吐いた。
改めて店内を見渡すと、ダナイが案内された部屋は居住区のようであり、奥に扉が二つと、先ほど通り抜けてきたカウンターのある店側があった。工房は店側にあるのだろう。この部屋からは工房がどのようになっているのかを知ることはできなかった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる