上 下
43 / 44

任務、完了

しおりを挟む
 うん、悪いんだけどさ、まだ終わってないんだよね。そんな余裕な態度を取っていると、足下をすくわれちゃうよ? しょうがないやつらだな。

「まだ終わってはいないぞ。あいつを倒すまで気を抜くな」

 俺の言葉にハッとなった騎士たちは再び顔を引き締めた。そうそう、その調子、その調子。そしてどうやら俺が指揮を執っていることに気がついたようである。魔族がこちらをジロリとにらみつけた。

「小賢しいやつだな。まさかこんな建物を用意しているとはな。だが、まだまだ詰めが甘いようだな。この部屋さえ出てしまえば、俺様の勝ちだ。お前たちではこの俺様を倒せまい? どうする? もし見逃してくれるのならば、今回のところは見逃してやろう」

 見逃して欲しいと言っている時点で、どうやら相当追い詰められているようである。無力化した魔族では武装した兵士たちに囲まれている状態を打破する力はないだろう。
 そして魔族からすると、俺たちは「魔族を倒すすべを持っていない」と思っているようである。

 でもな、こっちには魔族を倒す手段があるのだよ。見せてやろう、人間をやめた俺の力を!

「せっかくの誘いだが、見逃すつもりはない。悪いがここで消えてもらう」
「面白い、やってみろ。そして絶望に身をよじるがいい!」

 まさか自分が倒されるとは思っていない魔族は、自信満々にそう言い放った。

「それじゃ、遠慮なく。エナジードレイン!」
「ギェピー!」

 みるみるうちに魔力を俺に吸い取られて縮んでゆく魔族。絶望に身をよじりながら、何か言いたそうに口を陸にあがった魚みたいにパクパクさせていたが、ついに言葉にはならなかった。

 そしてあとには何も残らなかった。あの魔族を形作っていたものすべてが魔力でできていたようである。まあ、イケメンにも姿を変えられたみたいだったし、ある程度好きなように姿を変えられたのだと思われる。

 今考えて見れば、かなりのイケメンだったもんな。この世の奇跡かと思われるくらいの美形だった。イケメン死すべし、慈悲はない、と思うくらいには。

 俺が今回の作戦終了を告げるべく声をあげると、大きな歓声があがった。みんなが肩をたたき合って喜んでいる。そんな歓声が外まで聞こえたのだろう。国王陛下に殿下たち、そしてイーリスとミケもやってきた。

「テオ様、無事に作戦は終了したみたいですわね。お疲れ様でしたわ」
「ま、テオなら楽勝だよね。べ、別にテオのこと、心配してたわけじゃないんだからねっ」

 イーリスが笑顔で迎えてくれた。そしてなぜかミケはツンデレっぽくなっていた。多分心配してくれていたのだろう。俺はミケを抱きかかえてイーリスの元へと進んだ。

「良くやってくれたぞ、テオドール。そなたのおかげでこの国が救われたことは間違いない。この功績は必ず評価しよう」
「ハッ! ありがとうございます、国王陛下」

 俺はその場で平伏した。隣でイーリスも平伏している。これにて一件落着だな。良からぬたくらみをしていた魔族はいなくなったし、当分この国は安泰だろう。俺もいるしね。


 後日、俺たちは国王陛下に呼ばれた。王城の豪華な応接間には緊張した面持ちをした父上の姿があった。

「父上、それほど緊張する必要はありませんよ。国王陛下も殿下も、気さくな方ですから」

 それを聞いた父上は「ハア」と大きなため息をついた。

「それはテオドール、お前だからだよ。私はそこまで国王陛下たちとは親しいわけではない。それに今回の手柄のほとんどはテオドール、お前の功績だろう? 私がもらうのはどうかと思うのだが……」

 う、父上が余計な心配をしている。そんな心配は要らないのに。何せ俺はまだ正式に社交界デビューしていないのだ。よって、父上から爵位を譲り受けるわけにはいかない。今しばらくは父上に頑張ってもらわなければならないのだ。

 それに欲を言えば、当分の間は爵位にはつきたくない。しばらくの間は自由気ままに過ごしたいと言うのが本音である。イーリスとミケを連れて、国中を観光したいしね。行きたい場所もてんこ盛りなのだ。

「ほら、父上。ため息ばかりついていると、母上が心配しますよ」
「む、それもそうか」

 ようやく父上が男の顔に戻った。いくつになっても妻には良いところを見せたいようである。その気持ち、分かるな~。今回の魔族討伐作戦を引き受けたのも、イーリスとミケにかっこいいところを見せたいと言う側面もあったしね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能を装って廃嫡された最強賢者は新生活を満喫したい!

えながゆうき
ファンタジー
 五歳のときに妖精と出会った少年は、彼女から自分の置かれている立場が危ういことを告げられた。  このままではお母様と同じように殺されてしまう。  自分の行く末に絶望した少年に、妖精は一つの策を授けた。それは少年が持っている「子爵家の嫡男」という立場を捨てること。  その日から、少年はひそかに妖精から魔法を教えてもらいながら無能者を演じ続けた。  それから十年後、予定通りに廃嫡された少年は自分の夢に向かって歩き出す。  膨大な魔力を内包する少年は、妖精に教えてもらった、古い時代の魔法を武器に冒険者として生計を立てることにした。  だがしかし、魔法の知識はあっても、一般常識については乏しい二人。やや常識外れな魔法を使いながらも、周囲の人たちの支えによって名を上げていく。  そして彼らは「かつてこの世界で起こった危機」について知ることになる。それが少年の夢につながっているとは知らずに……。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...