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衛生兵、出動せよ!
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大丈夫かな? あの騎士の剣でも跳ね返す魔石を指先で思いっきり突くの~? 失敗したら突き指どころじゃ済まなそうなんだけど……。
俺は静かに魔力を人差し指に集中させた。ええい、ままよ!
「破砕点穴!」
全神経を集中させた一撃が、イグミが示した場所を正確に突いた。
ベキッ、と言う、何かが折れたような、嫌な、いや~な音がした。
「指が、指があぁぁあぁああ!」
「て、テオ様しっかりして下さいませ! 衛生兵、衛生兵ー!」
イーリスが急いで衛生兵を呼んでくれた。すぐに衛生兵が回復魔法をかけてくれた。指の痛みが段々と治まってくる。ミケは……肩を震わせて、床をテシテシと何度もたたいている。
「ミケー!!」
ミケはサッとイーリスの後ろに隠れた。くっ、イーリスを盾にするとは卑怯だぞ!
「助けて、イーリス! テオがあんな事や、こんな事をする気よ! エロ同人本みたいに!」
ミケの声にだまされたイーリスがミケを抱きしめて防御態勢を取った。
「テオ様はそんなことはいたしませんよね? ミケちゃんを捕まえて、一体どうするおつもりですか?」
「……毛刈り」
「え?」
「毛刈りじゃー!!」
俺が本当に怒っていることに気がついたミケが土下座で謝罪した。イーリスも間に割って入ったため、今回は許してあげることにした。俺もまだまだ甘いな。
結局巨大な魔石はどうすることもできなかったため、遅効性の土壌回復剤としてそのまま埋めることになった。
それなら俺が無理する必要なかったんじゃないかな?
アウデン男爵領にある魔境の森で、魔物を駆除しながら小さな魔石を大量に集めた。その間に、川の水位はみるみるうちに回復していった。どうやらリストラ山の水事情が元に戻ったことで、リストラ川も元の状態に戻ってきたようである。重畳、重畳。
これでアウデン男爵領だけでなく、リストラ川の川沿いにある耕作地帯も水不足から解消されて、穀物への被害も最小限に抑えられたことだろう。このことにはもちろん殿下も喜んでいた。
そしてその後に行った土地の改良だが、目に見えるほどうまく行った。アウデン男爵領の作物は豊作であり、しかも品質が驚くほど向上していた。
この結果はすぐに殿下に報告され、殿下から正式に全土へと通達された。
もちろんその功績は殿下の物である。リストラ川の水不足を解消したのも殿下であり、世界樹と呼ばれるイグドラシルのイグミをこの国のシンボルとして王城に植えたのも殿下である。
いやー、厄介事をすべて殿下が引き受けてくれて本当に助かった。各種研究の報告書や、リストラ山のことを報告する、と言った面倒くさいことを俺に処理しろ何て言われた日には、「探さないで下さい」との手紙を残して失踪していたことだろう。
「まったく、テオドールは本当に欲がないな。本当に何も要らないのかい?」
「ええ、何も要りませんよ。実際に殿下がいなければ解決できないことばかりでしたからね。殿下の友として、殿下の功績に力添えできただけで十分ですよ」
この功績をきっかけに、殿下は王族として華々しいデビューを飾ることができた。国の内政は殿下に任せておけば大丈夫。そんな声がすでにあがっているほどである。
「テオドール……! 私は今、猛烈に感動しているぞ」
殿下が泣いていた。そんなに友達がいなかったのか。確かに絡まれると面倒くさそうだもんね。でも実際に付き合ってみると、なかなか心意気があって、素直にみんなの意見を受け入れる良いやつなんだけどな。
「おっと、そうだった。テオドール、土地の改良に貢献してくれたアウデン男爵家を子爵に家格をあげようと思っているよ」
「ありがとうございます、殿下。アウデン男爵も、いや、アウデン子爵も喜ぶことでしょう」
ウンウン、と殿下がうなずいている。今回はモンドリアーン子爵家としてはあまり目立った活躍ができなかった。だが、まだチャンスはある。何せ俺と殿下は仲が良いのだ。そのうち運が巡って来るさ。
こうしてイーリスが懸念していたアウデン男爵領の危機は、壊滅的な被害を受ける前に最小限の被害で食い止めることができた。そしてアウデン男爵はその功績が認められてアウデン子爵へと爵位をあげることができた。
このことにはイーリスはもちろんのこと、イーリスの両親も、俺の両親もとても喜んでくれた。それもそのはず。嫁の実家がより強い後ろ盾となってくれたのだ。
正直なところ、家格が同格になったことで父上が嫌がるかなーと思ったんだけど、そんなことはなかった。さすがマブダチ。伊達にしょっちゅう遊びに来てはお酒を呑み交わしていない。母上が愚痴を言っていた。お酒の消費量がマジ半端ない、と。
最近では、義弟のレオンもたびたびうちに来ては、父上の仕事に俺と一緒について周り、知識と見識を深めている。おそらくはそこから得られたものをアウデン子爵領でも応用していくつもりだろう。俺も負けてはいられないな。ライバルとして、とても良い刺激をもらっている。
こうして両家はしばらくの間、穏やかな日々が続いていた。
そんなある日、二メートルほどに成長したイグミからの知らせによって、ちょっとした騒動が起こった。
俺は静かに魔力を人差し指に集中させた。ええい、ままよ!
「破砕点穴!」
全神経を集中させた一撃が、イグミが示した場所を正確に突いた。
ベキッ、と言う、何かが折れたような、嫌な、いや~な音がした。
「指が、指があぁぁあぁああ!」
「て、テオ様しっかりして下さいませ! 衛生兵、衛生兵ー!」
イーリスが急いで衛生兵を呼んでくれた。すぐに衛生兵が回復魔法をかけてくれた。指の痛みが段々と治まってくる。ミケは……肩を震わせて、床をテシテシと何度もたたいている。
「ミケー!!」
ミケはサッとイーリスの後ろに隠れた。くっ、イーリスを盾にするとは卑怯だぞ!
「助けて、イーリス! テオがあんな事や、こんな事をする気よ! エロ同人本みたいに!」
ミケの声にだまされたイーリスがミケを抱きしめて防御態勢を取った。
「テオ様はそんなことはいたしませんよね? ミケちゃんを捕まえて、一体どうするおつもりですか?」
「……毛刈り」
「え?」
「毛刈りじゃー!!」
俺が本当に怒っていることに気がついたミケが土下座で謝罪した。イーリスも間に割って入ったため、今回は許してあげることにした。俺もまだまだ甘いな。
結局巨大な魔石はどうすることもできなかったため、遅効性の土壌回復剤としてそのまま埋めることになった。
それなら俺が無理する必要なかったんじゃないかな?
アウデン男爵領にある魔境の森で、魔物を駆除しながら小さな魔石を大量に集めた。その間に、川の水位はみるみるうちに回復していった。どうやらリストラ山の水事情が元に戻ったことで、リストラ川も元の状態に戻ってきたようである。重畳、重畳。
これでアウデン男爵領だけでなく、リストラ川の川沿いにある耕作地帯も水不足から解消されて、穀物への被害も最小限に抑えられたことだろう。このことにはもちろん殿下も喜んでいた。
そしてその後に行った土地の改良だが、目に見えるほどうまく行った。アウデン男爵領の作物は豊作であり、しかも品質が驚くほど向上していた。
この結果はすぐに殿下に報告され、殿下から正式に全土へと通達された。
もちろんその功績は殿下の物である。リストラ川の水不足を解消したのも殿下であり、世界樹と呼ばれるイグドラシルのイグミをこの国のシンボルとして王城に植えたのも殿下である。
いやー、厄介事をすべて殿下が引き受けてくれて本当に助かった。各種研究の報告書や、リストラ山のことを報告する、と言った面倒くさいことを俺に処理しろ何て言われた日には、「探さないで下さい」との手紙を残して失踪していたことだろう。
「まったく、テオドールは本当に欲がないな。本当に何も要らないのかい?」
「ええ、何も要りませんよ。実際に殿下がいなければ解決できないことばかりでしたからね。殿下の友として、殿下の功績に力添えできただけで十分ですよ」
この功績をきっかけに、殿下は王族として華々しいデビューを飾ることができた。国の内政は殿下に任せておけば大丈夫。そんな声がすでにあがっているほどである。
「テオドール……! 私は今、猛烈に感動しているぞ」
殿下が泣いていた。そんなに友達がいなかったのか。確かに絡まれると面倒くさそうだもんね。でも実際に付き合ってみると、なかなか心意気があって、素直にみんなの意見を受け入れる良いやつなんだけどな。
「おっと、そうだった。テオドール、土地の改良に貢献してくれたアウデン男爵家を子爵に家格をあげようと思っているよ」
「ありがとうございます、殿下。アウデン男爵も、いや、アウデン子爵も喜ぶことでしょう」
ウンウン、と殿下がうなずいている。今回はモンドリアーン子爵家としてはあまり目立った活躍ができなかった。だが、まだチャンスはある。何せ俺と殿下は仲が良いのだ。そのうち運が巡って来るさ。
こうしてイーリスが懸念していたアウデン男爵領の危機は、壊滅的な被害を受ける前に最小限の被害で食い止めることができた。そしてアウデン男爵はその功績が認められてアウデン子爵へと爵位をあげることができた。
このことにはイーリスはもちろんのこと、イーリスの両親も、俺の両親もとても喜んでくれた。それもそのはず。嫁の実家がより強い後ろ盾となってくれたのだ。
正直なところ、家格が同格になったことで父上が嫌がるかなーと思ったんだけど、そんなことはなかった。さすがマブダチ。伊達にしょっちゅう遊びに来てはお酒を呑み交わしていない。母上が愚痴を言っていた。お酒の消費量がマジ半端ない、と。
最近では、義弟のレオンもたびたびうちに来ては、父上の仕事に俺と一緒について周り、知識と見識を深めている。おそらくはそこから得られたものをアウデン子爵領でも応用していくつもりだろう。俺も負けてはいられないな。ライバルとして、とても良い刺激をもらっている。
こうして両家はしばらくの間、穏やかな日々が続いていた。
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