37 / 44
土地の改良
しおりを挟む
そんなわけで、俺たちは再びリストラ山にやってきた。イグドラシルの大木が無くなったおかげで山の頂上付近がはげ山と化している。断じて俺が「カッターサイクロン」の範囲を誤り、刈り取ったわけではない。元からだ。
「一部だけかなり木が無くなっていますけど、大丈夫ですかね?」
「確かにテオドールが言う通りだな。もしかすると土砂崩れを起こすかも知れない。かと言って、木々が育つのを待つ時間はないし……そうだ!」
どうやら殿下が何か良からぬたくらみを思いついたようである。その目が怪しく輝いている。逃げ出したい。思わず後ずさった俺の両肩を殿下がグワシとつかんだ。
「湖だよ、湖。山頂に穴を掘って湖を作るんだ。そうすれば、そこからジワジワと地中に水がしみこんで行って、川の水量も安定するはずだよ」
なるほど、確かにそうかも知れない。でも良いのかな? 勝手に湖を作ったりして。まあ、管理しているのは国だし、その責任者の一人である殿下が良いと言っているんだ。大丈夫だろう。
俺は穴を掘る魔法を使って大きな穴を掘った。そのときに出た土を押し固めて長い杭の形にすると、山が崩れないようにするために何本も地面に挿しておいた。川の護岸工事とかでこんな風なことをやっていたのを見たことがあるから、多分これで大丈夫だろう。
湖の出来具合を確認すると、すぐに殿下の元へ報告に向かった。俺が完成したことを告げると、ちょっとした騒ぎになっていた。あちらこちらから「もう?」とか、「早くないか?」などの声が聞こえた。
「さすがはテオドールだ。現地を確認してくるので、しばらく休んでいたまえ」
そう言うと、イグミを肩に乗せた状態で、殿下は護衛を引き連れて穴の視察に向かった。きっと水が入る前の状態を自分の目で確認しておきたいのだろう。殿下は好奇心旺盛だからね。それにいつの間にかイグミとも仲良しのようである。良かったな、イグミ。引き取り手がいそうだぞ。
しばらくすると、殿下たちが戻ってきた。その顔は満足そうである。どうやら合格点はもらえたみたいである。
「よくやったぞ、テオドール。それでは注水開始だ!」
殿下が高らかに宣言した。だが、それをやるのも俺である。ヤレヤレだぜ。だが殿下のおかげで一息つくことができた。もう一踏ん張りだな。俺は立ち上がり、殿下に再度確認をとると、雨降らしの魔法を使った。
「スコール!」
天から大粒の雨が降ってきた。それはあっという間に土砂降りになり、近くにいた俺たちはもれなく濡れ鼠と化した。みんなスケスケルックである。だがしかし、運良く馬車の中にいたイーリスは難を逃れたのであった。残念。
偵察に行った騎士たちによると、湖は問題なく機能していると言うことだった。それを確認した俺たちはこの地での任務を完了とし、空間移動の魔法でアウデン男爵領へと戻った。
翌日、俺たちは殿下によって客間へと集められた。俺は一抹の不安を感じ、イーリスやアウデン男爵夫妻の顔色をうかがった。どの顔もとても不安げである。一体殿下は、今度は何を言い出すつもりなのだろうか?
「諸君、この領地の水不足はテオドールの活躍により回避できるだろう。そこで次は……土地の改良だ!」
ぱちぱちぱち。殿下に頼まれたのであろう後ろに並ぶ騎士たちが、能面のような無表情をしたままそろわない拍手を送った。あとで怒られないのかな? ちょっと気になる。
「殿下、それは一体どう言うことなのでしょうか?」
恐る恐るアウデン男爵が尋ねた。目の前にいるのが腐ってもカビても殿下なので、頭があがらないようである。貴族って思ったよりも大変そうだな。俺も将来そうなるのかな? 何だか嫌になるな。
「聞くところによると、土地が枯れているそうだな? 当然、土に肥料を与えているのだろう?」
「もちろんです。ですがそれでも、年々土地が痩せていくばかりで……」
視線を床へと下ろしたアウデン男爵。手の施しようがないと思っているのだろう。だがそれを聞いた殿下は、なぜかうれしそうだ。
「私が研究した結果、作物を育てるには肥料以外にも必要なものがあることが判明したのだ」
「殿下、それは一体――!?」
アウデン男爵がパッと顔をあげた。殿下は以外と策士なのかも知れない。こう言うパフォーマンスが得意そうだ。為政者だけでなく商人としてもやって行けそうである。
「それはな、土地に含まれる魔力だよ!」
「な、何だってー!!」
俺とミケが二人で大げさに驚いた。殿下が一つ、うなずきをこちらに返してきた。どうやら合格らしい。良かった。
「それでは殿下、我が領内の土地に含まれる魔力が枯渇してきていると言うことですか?」
「その通りだよ。この魔力を測定することができる特殊な魔道具を使って調べたところ、かなり弱まっていることが判明している」
殿下、いつの間にそんなことを調べていたんだ。なかなか抜け目がないな。そんな……とアウデン男爵が顔色を青くしている。アウデン男爵夫人も、イーリスも、弟のレオンも同じような顔色をしていた。
「殿下、土地の魔力を回復するすべはあるのでしょうか?」
「ないこともない。だれかが土地に魔力をそそぎ込めば理論上は大丈夫なはずだ。だが、どのくらいの魔力量が必要になるのか見当もつかない。いくらテオドールが優秀な魔法使いだとしても、厳しいかも知れん。それに、どうやら土地の魔力が枯渇し始めているのはここだけではない。国中でその兆候が見られる」
「おお、何ということだ!」
「一部だけかなり木が無くなっていますけど、大丈夫ですかね?」
「確かにテオドールが言う通りだな。もしかすると土砂崩れを起こすかも知れない。かと言って、木々が育つのを待つ時間はないし……そうだ!」
どうやら殿下が何か良からぬたくらみを思いついたようである。その目が怪しく輝いている。逃げ出したい。思わず後ずさった俺の両肩を殿下がグワシとつかんだ。
「湖だよ、湖。山頂に穴を掘って湖を作るんだ。そうすれば、そこからジワジワと地中に水がしみこんで行って、川の水量も安定するはずだよ」
なるほど、確かにそうかも知れない。でも良いのかな? 勝手に湖を作ったりして。まあ、管理しているのは国だし、その責任者の一人である殿下が良いと言っているんだ。大丈夫だろう。
俺は穴を掘る魔法を使って大きな穴を掘った。そのときに出た土を押し固めて長い杭の形にすると、山が崩れないようにするために何本も地面に挿しておいた。川の護岸工事とかでこんな風なことをやっていたのを見たことがあるから、多分これで大丈夫だろう。
湖の出来具合を確認すると、すぐに殿下の元へ報告に向かった。俺が完成したことを告げると、ちょっとした騒ぎになっていた。あちらこちらから「もう?」とか、「早くないか?」などの声が聞こえた。
「さすがはテオドールだ。現地を確認してくるので、しばらく休んでいたまえ」
そう言うと、イグミを肩に乗せた状態で、殿下は護衛を引き連れて穴の視察に向かった。きっと水が入る前の状態を自分の目で確認しておきたいのだろう。殿下は好奇心旺盛だからね。それにいつの間にかイグミとも仲良しのようである。良かったな、イグミ。引き取り手がいそうだぞ。
しばらくすると、殿下たちが戻ってきた。その顔は満足そうである。どうやら合格点はもらえたみたいである。
「よくやったぞ、テオドール。それでは注水開始だ!」
殿下が高らかに宣言した。だが、それをやるのも俺である。ヤレヤレだぜ。だが殿下のおかげで一息つくことができた。もう一踏ん張りだな。俺は立ち上がり、殿下に再度確認をとると、雨降らしの魔法を使った。
「スコール!」
天から大粒の雨が降ってきた。それはあっという間に土砂降りになり、近くにいた俺たちはもれなく濡れ鼠と化した。みんなスケスケルックである。だがしかし、運良く馬車の中にいたイーリスは難を逃れたのであった。残念。
偵察に行った騎士たちによると、湖は問題なく機能していると言うことだった。それを確認した俺たちはこの地での任務を完了とし、空間移動の魔法でアウデン男爵領へと戻った。
翌日、俺たちは殿下によって客間へと集められた。俺は一抹の不安を感じ、イーリスやアウデン男爵夫妻の顔色をうかがった。どの顔もとても不安げである。一体殿下は、今度は何を言い出すつもりなのだろうか?
「諸君、この領地の水不足はテオドールの活躍により回避できるだろう。そこで次は……土地の改良だ!」
ぱちぱちぱち。殿下に頼まれたのであろう後ろに並ぶ騎士たちが、能面のような無表情をしたままそろわない拍手を送った。あとで怒られないのかな? ちょっと気になる。
「殿下、それは一体どう言うことなのでしょうか?」
恐る恐るアウデン男爵が尋ねた。目の前にいるのが腐ってもカビても殿下なので、頭があがらないようである。貴族って思ったよりも大変そうだな。俺も将来そうなるのかな? 何だか嫌になるな。
「聞くところによると、土地が枯れているそうだな? 当然、土に肥料を与えているのだろう?」
「もちろんです。ですがそれでも、年々土地が痩せていくばかりで……」
視線を床へと下ろしたアウデン男爵。手の施しようがないと思っているのだろう。だがそれを聞いた殿下は、なぜかうれしそうだ。
「私が研究した結果、作物を育てるには肥料以外にも必要なものがあることが判明したのだ」
「殿下、それは一体――!?」
アウデン男爵がパッと顔をあげた。殿下は以外と策士なのかも知れない。こう言うパフォーマンスが得意そうだ。為政者だけでなく商人としてもやって行けそうである。
「それはな、土地に含まれる魔力だよ!」
「な、何だってー!!」
俺とミケが二人で大げさに驚いた。殿下が一つ、うなずきをこちらに返してきた。どうやら合格らしい。良かった。
「それでは殿下、我が領内の土地に含まれる魔力が枯渇してきていると言うことですか?」
「その通りだよ。この魔力を測定することができる特殊な魔道具を使って調べたところ、かなり弱まっていることが判明している」
殿下、いつの間にそんなことを調べていたんだ。なかなか抜け目がないな。そんな……とアウデン男爵が顔色を青くしている。アウデン男爵夫人も、イーリスも、弟のレオンも同じような顔色をしていた。
「殿下、土地の魔力を回復するすべはあるのでしょうか?」
「ないこともない。だれかが土地に魔力をそそぎ込めば理論上は大丈夫なはずだ。だが、どのくらいの魔力量が必要になるのか見当もつかない。いくらテオドールが優秀な魔法使いだとしても、厳しいかも知れん。それに、どうやら土地の魔力が枯渇し始めているのはここだけではない。国中でその兆候が見られる」
「おお、何ということだ!」
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
無能を装って廃嫡された最強賢者は新生活を満喫したい!
えながゆうき
ファンタジー
五歳のときに妖精と出会った少年は、彼女から自分の置かれている立場が危ういことを告げられた。
このままではお母様と同じように殺されてしまう。
自分の行く末に絶望した少年に、妖精は一つの策を授けた。それは少年が持っている「子爵家の嫡男」という立場を捨てること。
その日から、少年はひそかに妖精から魔法を教えてもらいながら無能者を演じ続けた。
それから十年後、予定通りに廃嫡された少年は自分の夢に向かって歩き出す。
膨大な魔力を内包する少年は、妖精に教えてもらった、古い時代の魔法を武器に冒険者として生計を立てることにした。
だがしかし、魔法の知識はあっても、一般常識については乏しい二人。やや常識外れな魔法を使いながらも、周囲の人たちの支えによって名を上げていく。
そして彼らは「かつてこの世界で起こった危機」について知ることになる。それが少年の夢につながっているとは知らずに……。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる