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土地の改良

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 そんなわけで、俺たちは再びリストラ山にやってきた。イグドラシルの大木が無くなったおかげで山の頂上付近がはげ山と化している。断じて俺が「カッターサイクロン」の範囲を誤り、刈り取ったわけではない。元からだ。

「一部だけかなり木が無くなっていますけど、大丈夫ですかね?」
「確かにテオドールが言う通りだな。もしかすると土砂崩れを起こすかも知れない。かと言って、木々が育つのを待つ時間はないし……そうだ!」

 どうやら殿下が何か良からぬたくらみを思いついたようである。その目が怪しく輝いている。逃げ出したい。思わず後ずさった俺の両肩を殿下がグワシとつかんだ。

「湖だよ、湖。山頂に穴を掘って湖を作るんだ。そうすれば、そこからジワジワと地中に水がしみこんで行って、川の水量も安定するはずだよ」

 なるほど、確かにそうかも知れない。でも良いのかな? 勝手に湖を作ったりして。まあ、管理しているのは国だし、その責任者の一人である殿下が良いと言っているんだ。大丈夫だろう。

 俺は穴を掘る魔法を使って大きな穴を掘った。そのときに出た土を押し固めて長い杭の形にすると、山が崩れないようにするために何本も地面に挿しておいた。川の護岸工事とかでこんな風なことをやっていたのを見たことがあるから、多分これで大丈夫だろう。

 湖の出来具合を確認すると、すぐに殿下の元へ報告に向かった。俺が完成したことを告げると、ちょっとした騒ぎになっていた。あちらこちらから「もう?」とか、「早くないか?」などの声が聞こえた。

「さすがはテオドールだ。現地を確認してくるので、しばらく休んでいたまえ」

 そう言うと、イグミを肩に乗せた状態で、殿下は護衛を引き連れて穴の視察に向かった。きっと水が入る前の状態を自分の目で確認しておきたいのだろう。殿下は好奇心旺盛だからね。それにいつの間にかイグミとも仲良しのようである。良かったな、イグミ。引き取り手がいそうだぞ。

 しばらくすると、殿下たちが戻ってきた。その顔は満足そうである。どうやら合格点はもらえたみたいである。

「よくやったぞ、テオドール。それでは注水開始だ!」

 殿下が高らかに宣言した。だが、それをやるのも俺である。ヤレヤレだぜ。だが殿下のおかげで一息つくことができた。もう一踏ん張りだな。俺は立ち上がり、殿下に再度確認をとると、雨降らしの魔法を使った。

「スコール!」

 天から大粒の雨が降ってきた。それはあっという間に土砂降りになり、近くにいた俺たちはもれなく濡れ鼠と化した。みんなスケスケルックである。だがしかし、運良く馬車の中にいたイーリスは難を逃れたのであった。残念。

 偵察に行った騎士たちによると、湖は問題なく機能していると言うことだった。それを確認した俺たちはこの地での任務を完了とし、空間移動の魔法でアウデン男爵領へと戻った。


 翌日、俺たちは殿下によって客間へと集められた。俺は一抹の不安を感じ、イーリスやアウデン男爵夫妻の顔色をうかがった。どの顔もとても不安げである。一体殿下は、今度は何を言い出すつもりなのだろうか?

「諸君、この領地の水不足はテオドールの活躍により回避できるだろう。そこで次は……土地の改良だ!」

 ぱちぱちぱち。殿下に頼まれたのであろう後ろに並ぶ騎士たちが、能面のような無表情をしたままそろわない拍手を送った。あとで怒られないのかな? ちょっと気になる。

「殿下、それは一体どう言うことなのでしょうか?」

 恐る恐るアウデン男爵が尋ねた。目の前にいるのが腐ってもカビても殿下なので、頭があがらないようである。貴族って思ったよりも大変そうだな。俺も将来そうなるのかな? 何だか嫌になるな。

「聞くところによると、土地が枯れているそうだな? 当然、土に肥料を与えているのだろう?」
「もちろんです。ですがそれでも、年々土地が痩せていくばかりで……」

 視線を床へと下ろしたアウデン男爵。手の施しようがないと思っているのだろう。だがそれを聞いた殿下は、なぜかうれしそうだ。

「私が研究した結果、作物を育てるには肥料以外にも必要なものがあることが判明したのだ」
「殿下、それは一体――!?」

 アウデン男爵がパッと顔をあげた。殿下は以外と策士なのかも知れない。こう言うパフォーマンスが得意そうだ。為政者だけでなく商人としてもやって行けそうである。

「それはな、土地に含まれる魔力だよ!」
「な、何だってー!!」

 俺とミケが二人で大げさに驚いた。殿下が一つ、うなずきをこちらに返してきた。どうやら合格らしい。良かった。

「それでは殿下、我が領内の土地に含まれる魔力が枯渇してきていると言うことですか?」
「その通りだよ。この魔力を測定することができる特殊な魔道具を使って調べたところ、かなり弱まっていることが判明している」

 殿下、いつの間にそんなことを調べていたんだ。なかなか抜け目がないな。そんな……とアウデン男爵が顔色を青くしている。アウデン男爵夫人も、イーリスも、弟のレオンも同じような顔色をしていた。

「殿下、土地の魔力を回復するすべはあるのでしょうか?」
「ないこともない。だれかが土地に魔力をそそぎ込めば理論上は大丈夫なはずだ。だが、どのくらいの魔力量が必要になるのか見当もつかない。いくらテオドールが優秀な魔法使いだとしても、厳しいかも知れん。それに、どうやら土地の魔力が枯渇し始めているのはここだけではない。国中でその兆候が見られる」
「おお、何ということだ!」
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