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なんかの木の実

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「それじゃ、殿下に許可をもらってきますね。何だかものすごく嫌な予感がしますが」
「……テオドール殿、よろしく頼みます」

 アウデン男爵も嫌な予感がしているのだろう。しかし、何とか解決したい。今回はどうやらそちらの思いの方が勝ったようである。
 俺はすぐに空間移動の魔法を使って王都へと飛んだ。そしてすぐに戻ってきた。殿下を仲間に加えて……。だから嫌だったんですよ!

「おお! あれはウワサに聞くイグドラシル! 何という壮観な眺めなんだ。切り倒すのがもったいないくらいだよ」

 感慨深そうに殿下が言った。殿下が登場したことで周囲の方々はひれ伏すことになった。ああ、もう、やりにくい。どうやら俺が仕切らなければならないようである。

「それでは殿下、リストラ山に生えたイグドラシルを切り倒してもよろしいですね?」

 どうやらマジであの木の名前は「イグドラシル」と言うらしい。完全にミケのでまかせと言うわけではなかったようである。たまたま合致しただけの可能性が非常に高いわけだが。

「キミたちが集めた情報からしても、あの木が何かしらの原因であることは間違いないだろう。もったいないが、許可しよう」

 俺たちは頭を下げた。これで後顧の憂いなくあの木を切り倒すことができるぞ。

「テオ様、あんなに大きな木が倒れたら、周囲に被害が出ませんか?」

 どうやらイーリスの中でも、俺があの大樹を切り倒すことに何の疑問も抱かなくなったようである。慣れって怖いね。そして実際にそれができるのだから、俺って怖いよね。

「確かにイーリスの言う通りだね。どうするの、テオ?」
「あれだけ大きな木を周囲に被害を出さずに切り倒すのなら、「カッターサイクロン」を使わざるを得ない!」
「カッターサイクロンだって!?」

 ミケが驚いた様子で叫んだ。いやこの魔法、ミケが教えてくれた魔法だよね? 何でそんなに驚いているのだろうか。まさか、この魔法も使ったらアカンやつなの!?

「知っているの、ミケちゃん!?」
「カッターサイクロンは無数の風の刃を標的の周囲に展開して、それを何度も何度も標的にぶつけ続ける魔法だよ。標的は無数の刃に切断されて、跡形も残らないはずだよ! まさかあの有名な「カッタートルネード」の上位版を持ち出すなんて……!」
「ミケちゃん、「カッタートルネード」って、何?」
「え? あ、えっとぉ……」

 まーたミケが適当なことを言ってるよ。イーリスに突っ込まれてタジタジになっているミケ。そんな目でこちらを見てもムダだぞ。絶対に助け船は出さない。たまには痛い目に遭ってもらわないとまたやりかねないからな。

 そんなグダグダな空気になりながらも、俺たちは一路、イグドラシル討伐に向かった。とは言ったものの、イグドラシルは魔物でも何でもないんだけどね。……ないよね?


 近くまで来たが、本当に大きい。これだけの大樹が一夜にして現れるとか、一体どうなっているんだ? イグドラシルと会話ができたら良かったのだがそう言うわけにはいかないだろう。

「ここから先は俺とミケだけで進みます。他の方は後方で待機しておいて下さい」

 リストラ山の麓でアウデン男爵たちとは別行動を取る。殿下によると、この山は魔境ではないらしいのだがそれでも野生生物はいる。万が一のことがないための処置である。それに魔法を使ったときの邪魔になりそうだしね。

「テオ様、ご武運を」
「ありがとう、イーリス。行ってくるよ」

 そう言って山の中へと入って行った。山に入ってすぐに分かった。山に生えている植物の元気がない。まるで栄養を根こそぎ何かに持っていかれているようである。どうやらイグドラシルが悪さをしているのは間違いないようだな。

 山を登ること小一時間。俺たちは大樹イグドラシルの元にたどり着いた。近くから見るイグドラシルは高い壁である。すごく壮麗な木ではあるが、異常事態の原因となっているならやるしかないな。

「ミケ、周囲に何か問題はないかい?」
「うーん、特になし! 動物たちもテオのヤバい気配に気がついたのか逃げて行ったよ」

 それはそれでちょっと悲しい気もするが……まあ、邪魔者がいないみたいなのでヨシとしよう。

「それじゃ行くよ。カッターサイクロン!」

 大樹の周りを巨大な竜巻が包み込む。そしてそこから現れた、無数の風の刃が次々と大樹を切り分け、小さな木片へと変えていった。そして大樹が半分くらい削られた辺りで、突如大樹が小さな木片と一緒に消失した。

 目標を失ったカッターサイクロンは機能を停止する。一体何が起こったのだろうかとミケと顔を合わせていると、風が収まったあとに大きな黒光りする石があることに気がついた。

「これは……魔石?」
「そうみたいだね。これだけ大きい魔石はそうそう見ないね」

 魔石とは魔物が体内に生成する代物である。しかしその魔石は、今のところ何の役にも立たないゴミである。こんな大きなゴミを残されてもねぇ……って、そうじゃない。

「ミケ、魔石が残ったと言うことは、あの木は魔物だったってことじゃないのか!?」
「……多分そうなるね。植物系の魔物は普通にいることだし、ありと言えばありなんじゃないの? でも何で消えたんだろ? 普通は残骸があるはずなのに……」

 ミケが首をかしげている。どうやら初めて見る現象のようである。確かに魔物を倒しても死体は残るもんね。と言うことは、イグドラシルの木は魔石はあるけど魔物じゃない、と言うことなのかな? サッパリ分からん。

「とりあえず証拠の品としてこの大きな魔石は持ち帰って行くとしよう。ん? 何だこれ? 何かの木の実?」

 そこにはほのかに光る桃色の実が落ちていた。見たことがない種類の実だな。どうしよう。見なかったことにしておくか? 俺がスルーしようと決めたそのとき、声が聞こえてきた。

「ちょっとあんた! 無視しないで助けなさいよ!」
「うっわ、なにこれ! 木の実がしゃべった。キモッ!」

 ミケが気持ち悪そうにその実をツンツンと突いている。確かに良い気持ちはしないな。
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