17 / 44
イーリス・デン・アウデン男爵令嬢①
しおりを挟む
翌日、母上の機嫌は落ち着いたようである。良かった。このまま父上が帰って来るまでおとなしくしておこう。火に油をそそぐようなまねだけはしないようにしなければ。
そんな今にも爆発しそうな母上のご機嫌を取りながら過ごすこと数日。何やら外が騒がしくなってきた。父上が帰って来たようである。すぐに玄関へと迎えに行った。玄関にはすでに母上の姿があった。さすが母上、素早い。
鎧を身につけたままの姿で父上が急ぎ足でこちらへと向かって来た。やけに急いでいる感じだけど、どうかしたのかな?
「お帰りなさいませ」
俺たちは声をそろえて出迎えた。母上も父上の急いだ様子に気がついたようであり、不安そうな顔をしている。
「喜べ、テオドール。お前の新しい婚約者が見つかったぞ」
ヒュッ、と俺は息を飲んだ。父上はうれしそうな顔をしているが、対する俺はいまだに前回の失恋が尾を引いている。完全にトラウマになっているのだ。今は女性のことは考えたくない。ミケのおなかに顔をうずめてハアハアしていたい。
そんな俺の様子に気がついたのか、隣に座っていた母上が、バシン、と俺の背中をたたいた。
「しっかりしなさい。あなたはもう、以前のあなたとは違うのよ」
母上は笑顔で言った。確かにそうだ。以前とは明らかに見た目は変わっているはずだ。でもね、中身は同じなんですよ。豆腐メンタル。それが今の俺にふさわしい二つ名なのかも知れない。
ミケに癒やしてもらおうと手を伸ばしたら、シャッっと引っかかれそうになり、プイッとそっぽを向かれた。……もしかして、俺の新しい婚約者の登場に嫉妬してる? それはそれで困ったなぁ……。
「父上、その方とは政略結婚なのでしょうか?」
「ああ、そうだ。だが、向こうからの申し出だぞ。ぜひテオドールの妻に、と」
……確か前回も向こうからの申し出だったよね? 父上は自信ありげな顔をしていたが、こちらは非常に不安である。
この国では政略結婚が当たり前。むしろ恋愛結婚をすること自体がありえない。そのことは良く分かっている。分かっているが、それでも前回婚約破棄されたんだよねー。あ、また心の傷が開きそう。ミケ~、痛っ!?
「そんな不安そうな顔をするな。相手はアウデン男爵の長女、イーリス嬢だ。先日のテオドールの活躍を聞いてな、「ぜひとも婚姻を」とアウデン男爵が言ってきたのだよ」
アウデン男爵が? 先日の戦いでは、俺はすぐに帰らされたため、アウデン男爵に会うことはできなかった。しかし、父上から俺の話は聞いていることだろう。……もちろんアウデン男爵領の一部を破壊してしまったことも。
「あの、本当に大丈夫なのですか?」
「ハッハッハッハ! 森の一部を破壊してしまったことを気にしているのか? その心配は要らんぞ。むしろ使える領地が広くなったと喜んでいたくらいだ。魔物の脅威も減ったことだしな」
ハッハッハともう一度父上が笑った。どうやらあちら側は怒ってはいないようである。
「それに、我がモンドリアーン子爵家とアウデン男爵家のつながりが強くなれば、万が一のときに双方で援軍を送ることができるからな」
「それに、アウデン男爵と一緒に気兼ねなくお酒が飲めるようになるからでしょう?」
母上がチクリと言った。そう言えば父上が「アウデン男爵とは旧知の仲」とか言ってたしな。なるほど、酒飲み仲間だったと言うわけか。父上の視線が泳いでいる。どうやら図星だったようである。
そんな今にも爆発しそうな母上のご機嫌を取りながら過ごすこと数日。何やら外が騒がしくなってきた。父上が帰って来たようである。すぐに玄関へと迎えに行った。玄関にはすでに母上の姿があった。さすが母上、素早い。
鎧を身につけたままの姿で父上が急ぎ足でこちらへと向かって来た。やけに急いでいる感じだけど、どうかしたのかな?
「お帰りなさいませ」
俺たちは声をそろえて出迎えた。母上も父上の急いだ様子に気がついたようであり、不安そうな顔をしている。
「喜べ、テオドール。お前の新しい婚約者が見つかったぞ」
ヒュッ、と俺は息を飲んだ。父上はうれしそうな顔をしているが、対する俺はいまだに前回の失恋が尾を引いている。完全にトラウマになっているのだ。今は女性のことは考えたくない。ミケのおなかに顔をうずめてハアハアしていたい。
そんな俺の様子に気がついたのか、隣に座っていた母上が、バシン、と俺の背中をたたいた。
「しっかりしなさい。あなたはもう、以前のあなたとは違うのよ」
母上は笑顔で言った。確かにそうだ。以前とは明らかに見た目は変わっているはずだ。でもね、中身は同じなんですよ。豆腐メンタル。それが今の俺にふさわしい二つ名なのかも知れない。
ミケに癒やしてもらおうと手を伸ばしたら、シャッっと引っかかれそうになり、プイッとそっぽを向かれた。……もしかして、俺の新しい婚約者の登場に嫉妬してる? それはそれで困ったなぁ……。
「父上、その方とは政略結婚なのでしょうか?」
「ああ、そうだ。だが、向こうからの申し出だぞ。ぜひテオドールの妻に、と」
……確か前回も向こうからの申し出だったよね? 父上は自信ありげな顔をしていたが、こちらは非常に不安である。
この国では政略結婚が当たり前。むしろ恋愛結婚をすること自体がありえない。そのことは良く分かっている。分かっているが、それでも前回婚約破棄されたんだよねー。あ、また心の傷が開きそう。ミケ~、痛っ!?
「そんな不安そうな顔をするな。相手はアウデン男爵の長女、イーリス嬢だ。先日のテオドールの活躍を聞いてな、「ぜひとも婚姻を」とアウデン男爵が言ってきたのだよ」
アウデン男爵が? 先日の戦いでは、俺はすぐに帰らされたため、アウデン男爵に会うことはできなかった。しかし、父上から俺の話は聞いていることだろう。……もちろんアウデン男爵領の一部を破壊してしまったことも。
「あの、本当に大丈夫なのですか?」
「ハッハッハッハ! 森の一部を破壊してしまったことを気にしているのか? その心配は要らんぞ。むしろ使える領地が広くなったと喜んでいたくらいだ。魔物の脅威も減ったことだしな」
ハッハッハともう一度父上が笑った。どうやらあちら側は怒ってはいないようである。
「それに、我がモンドリアーン子爵家とアウデン男爵家のつながりが強くなれば、万が一のときに双方で援軍を送ることができるからな」
「それに、アウデン男爵と一緒に気兼ねなくお酒が飲めるようになるからでしょう?」
母上がチクリと言った。そう言えば父上が「アウデン男爵とは旧知の仲」とか言ってたしな。なるほど、酒飲み仲間だったと言うわけか。父上の視線が泳いでいる。どうやら図星だったようである。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る
竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。
子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。
ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。
神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。
公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。
それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。
だが、王子は知らない。
アレンにも王位継承権があることを。
従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!?
*誤字報告ありがとうございます!
*カエサル=プレート 修正しました。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜
ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……?
※残酷な描写あり
⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。
ムーンライトノベルズ からの転載です。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない
カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。
一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。
そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。
ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!!
その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。
自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。
彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう?
ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。
(R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします)
どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり)
チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。
今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。
ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。
力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。
5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます!
5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます!
5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)>
5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります!
5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる