上 下
8 / 44

危機一髪!②

しおりを挟む
 翌日、俺たちはブクブクに太った俺の体を何とかするべく、訓練場へとやってきた。もちろん昨日の夜は何事もなかった。
 体格差と種族差! この二つの壁を乗り越えない限りは一線を越えることはないのだ。それにしても、守護精霊って暖かかったんだな。思わぬ発見だ。しかも、お日様の匂いがするんだ。

「それでミケ、俺は一体どうすればいいんだ?」
「簡単だよ。全力で魔法を撃ち続けるのさ。体が壊死するくらいにね」

 それはまずかろうて。確かに脂肪と言う名の「魔力の塊」を燃焼させる必要があるとは思うけど、さすがにそれはやり過ぎなんじゃないかなぁ。だがまあ、ミケの指示に従うしかないか。昨日の夜、「絶対に痩せさせるから!」と鼻息も荒く息巻いていたからな。相棒としてそれに応えてやらねばなるまいて。

 ミケに言われた通り、俺は魔法を撃ち始めた。右手、左手。交互に連続魔法弾を放つ。それを見ていた魔導師たちが何事かと驚きの目で見ていたが、そんなの関係ねえ。そんなもの無視だ無視。俺は一刻も早く痩せなければならないのだ。

 魔法弾は無属性の魔法であり、単に魔力だけを弾として放出するという、極めて効率の悪い魔法である。普通であればそんな非効率な魔法の使い方はせず、魔力に属性を付与して効率よく魔法を使う。だが今の俺は魔力を少しでも多く消費するために、あえて非効率な方法を採用しているのだ。

 それから毎日、絞り出すように魔力を出し尽くした。それに従って、俺についていた脂肪も段々とそげ落ちていった。当然、両親からは心配された。

「テオドール、あなた大丈夫なの?」
「ブリヒッタの言う通りだ。随分と魔法の訓練をしているようだが、そのままだと体を壊しかねないぞ」
「大丈夫ですよ。ミケがちゃんと見てくれていますから。な、ミケ?」

 俺は足下で丸まっているミケに声をかけた。だがしかし、返事がない。まるで屍のようである。

「ミケ?」

 まったく反応がないミケをテーブルの上に引っ張り出した。両親がギョッとした顔つきになった。これまで両親は、俺がミケを連れていても特に何も言ってこなかった。
 しかしさすがに、「動物をテーブルの上にあげるだなんて、何て非常識なんだ」と思っているのかも知れない。だがミケは守護精霊なので動物ではない。よってテーブルの上にあげても問題ない、と思う。

「どうしたんだ、ミケ? どこか体が悪いのか?」

 もしかして体調不良? 守護精霊も風邪を引くのかな? そんなことを思っていると、ミケがハァ、と一つため息をついた。

「テオ、分かってやっているのかな?」

 半眼でこちらをにらむミケ。分かって? 何のこと?

「シャ、シャベッター!!」

 両親が声をそろえて叫びながらお互いに抱き合った。両親だけではない。その場にいた使用人たちも声をあげた。
 なるほどね。確かに冷静に考えるとミケはしゃべる猫だったわ。こりゃうっかり。そして大事なことを両親に言うのを忘れていたのを思い出した。こりゃうっかり。

 ミケは「うっかり八兵衛もビックリだよ」とつぶやいていた。うっかり八兵衛ってだれだよ……。って言うか、「気がついていたなら早く言ってくれよ」とミケを問い詰めたら、「内緒にしているのかと思った」と反論してきた。どうやらお互いにホウレンソウが足りなかったらしい。これは反省しないとね。
 ホウレンソウの確認、ヨシ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...