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ショタコンですが、何か?

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 ある日、不思議な光景を見た。
 その人物は柱の陰に隠れて、何やら前方の様子をつぶさにうかがっていた。
 何をしているのか気になった俺は、忍び足でその人物に近づいた。
 腰まである長い髪をしたその人物は、どうやら女性のようであり、さらに近づいてよくよく見ると、ヒロインの一人であるオリビア嬢であった。
 ハアハアと口で荒い息をしており、とても普通の状態には見えなかった。
 気になって彼女の視線をたどると、そこには中庭でギルバードと模擬戦をしているロランの姿があった。
 おかしい。ロランをストーキングしていた奴らは全員漏れなく排除したはずである。それこそ、男女問わず。
 そしてその中にはオリビア嬢はいなかった。
 これが事実だとすると、俺達が必死に犯人を捕まえているにもかかわらず、彼女は見事にその網をかいくぐり、ロランをハアハア言いながら観察していたということになる。
 これはこれで放置しておくとまずい気がする。ここは一人でも御用改めをするべきだろう。
 
「オリビア嬢、こんなところで何をしているのかな?」
 
 突然後ろからかかった声に、オリビア嬢が飛び上がった。そしてそこに俺がいるのを確認すると、顔色がサッと青色に変わった。
 
「ああ、大丈夫だよ。今のところは別に罰しようとかはないからさ。あまりにも熱心にロランを見ていたから、ちょっと気になって声をかけてみたんだよ」
 
 ますます顔色が悪くなるオリビア嬢。
 
「申し訳ありません。ロラン様がおびえていることは分かっているのです。私もやめようと思い、何度も身を引きました。ですが、ロラン様の笑顔が瞼の裏に浮かんで、脳裏から離れないのです。ですからこのように、絶対にバレないように気配を殺して密かに見守っていたのです」
 
 一気に話したオリビア嬢だが、ロランを追いかけるために、誰にも気づかれないまで気配を無くすことができるようになるとか、暗殺者かな?
 
「なるほど、そこまでロランのことが好きなのですね」
「ええ、そうですわ。あんなに可愛い男の子を逃すだなんてありえませんわ。ああ、可愛らしいロラン様」
 
 可愛らしいロランを見ながら顔を上気させるオリビア嬢は、どうやら筋金入りのショタコンのようである。早くもその目はロランに向けられていた。
 そのとき、柱の傍にいた俺に気がついたようで、ギルバードとロランがこちらに手を振りながらやってきた。
 
「尊み!」
 
 自分に向かって笑顔で手を振ってもらえたものと勘違いしたオリビア嬢は、そう言うと、鼻血を垂らしながら倒れた。
 こちらにやってきたギルバードとロランがその光景を見て驚いた。
 
「殿下、これは一体!?」
「こっちが聞きたいよ。どうもこの子はロランの大ファンみたいだよ」
「ええ!? ぼくですか?」
 
 クリクリとした可愛いお目々をパチクリとさせるロラン。そういうとこだぞ。
 ひとまず俺達はオリビア嬢を医務室に運び込むことにした。

 
「なるほどねぇ~、重度のショタコンというわけね。推しの笑顔に絶えきれなかったというわけね。アタシにもその気持ち、よぉ~く分かるわ~」
 
 あの後、余計な誤解を生まないようにと、すぐにモニカ達にことの次第を話した。
 最近は一緒にいることの多い淑女四人衆に話すと、すぐに医務室まできてくれた。
 
「あの、シャーロット嬢、ショタコンって何ですか?」
「あら~、知らないのね? ショタコンって言うのはね、アナタのような幼くて可愛い男の子が好きな人達のことを言うのよ」
 
 ツンツン、とロランを突くシャーロット嬢。ロランはその言葉にブルッと震えた。
 ショタコンを知っているということは、シャーロット嬢も転生者。ハッキリわかんだね。
 と、そのとき、オリビア嬢が目を覚ました。
 
「う~んここは……。ハッ! 皇太子殿下! もしかして私、不敬罪でギロチンですか!?」
 
 なんでやねん。何だかイザベラ嬢のときの対応が変な風に伝わっているらしい。
 それに、ギロチンという処刑器具はこの世界には存在しない。つまり、オリビア嬢もそういうことだ。
 心配そうに淑女四人衆がこちらを見てくる。
 実に心外である。まるで俺がそんなことをやりかねない、と思っているかのようだ。
 
「オリビア嬢、そんなことをするつもりはありませんよ。ですが、ロランを追いかけるのなら、コソコソするのではなく、堂々としたらどうですか? その方がロランもビクビクせずに生活を送れると思うのですがね」
 
 ね? とロランの方を向く。視線の先に憧れのロラン様がいることに気がついたオリビア嬢は、慌てて毛布を頭からかぶって身悶えている。重症のようである。
 
「オリビアちゃん、自分の気持ちを押し殺すのは良くないわ。そうやって陰でコソコソやってもロランちゃんに思いは伝わらないし、逆にロランちゃんが離れていってしまうかも知れないわよ?」
 
 シャーロットの言葉にビクリと毛布が動いた。動揺しているらしい。
 推しに嫌われる。それは俺にとってモニカにそっぽを向かれることと同義であり、想像しただけでも恐ろしかった。
 動揺した俺は思わずモニカを見た。そしてモニカとバッチリ目と目が合ってしまった。
 モニカはそのまま俺の隣に寄り添い、手を握ってくれた。
 もしかしてだけど、モニカも俺と同じことを思ったのかも知れない。
 俺はその手を強く握り返した。
 モソモソとオリビア嬢が毛布の間から顔を出した。その目には決意の光が灯っていた。
 
「ロラン様、お慕い申し上げておりますわ。どうか、どうか私をロラン様の奴隷にして下さい!」
「えええー!」
 
 ロランが悲鳴を上げた。
 それもそうだ。お気の毒ですが、この国には奴隷制度はない。近隣国にも、東国にも存在しない。
 急にそんなこと言われても、とロランの顔にハッキリと書いてあった。助けを求めるようにシャーロット嬢を見るロラン。
 それに気がついたシャーロット嬢は、ワタシに任せて! とばかりにバチンとウインクをした。
 ロランが震えたのが分かった。ちょっとロラン君、さすがにそれは酷くないか?
 
「オリビアちゃん、いきなり奴隷にしてくれなんて、そんなことを言われたら、いくら心優しいロランちゃんでも困ってしまうわ。それで、どうかしら? とりあえず二人とも、お付き合いから始めてみてはいかが?」
 
 極めてまともな意見である。
 どうやらシャーロット嬢はかなりの常識人であるようだ。少なくともオリビア嬢よりかは安心できる。
 ロランの方も満更ではなさそうだったので、二人はとりあえずお付き合いから始めることになった。
 その後、学園では、二人が仲良く手をつないで歩いているところをたびたび目撃されるようになった。
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