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勇者マニア、ベンジャミンの話

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 翌朝、ミューと別れた私はさっそく領主代行の屋敷に向かうことにした。肩にはいつも通り、カビルンバが鎮座している。

「ミューさんが頭を抱えていましたね」
「それはそうだろう。ベッドに入ったらすぐに寝てしまったのだから」
「さすがはレオ様。魔法耐性が高いエルフにも睡眠魔法をかけることができるだなんて」
「な、何を言っているのかサッパリ分からないな」

 半眼でこちらをにらんでいるが、今は知らない振りをしておこう。ヘタレだって? そうさ、私はヘタレさ。ヘタレで何が悪い! 眠っている女の子に手を出すほど野蛮な男ではないぞ。まあ、魔法で寝かせたのは私だけど。

 ミューは自分の魔法耐性に自信があるようだ。私が魔法で眠らせたとは微塵も思ってないようである。だからこそ、自分の落ち度だと頭を抱えていたのだ。これはうれしい誤算だな。これなら何度魔法で眠らせても大丈夫そうだ。

 まずは領主代行と面会するべく予約を入れておく。忙しいだろうからね。あちらの都合が良いときに会ってもらえればいい。
 そう思っていたのだが、門番にそのことを伝えると、すぐに会ってくれた。

「ようこそ、レオニート殿。またあえてうれしいです」
「こちらこそ。またお会いできてうれしいです。忙しくはなかったですか?」
「まあ、それなりには忙しいですが……ところで、何かありましたかな?」

 どうやら私がここを訪れたことで何かあったと察したようである。さすがは領主代行。そのくらい気が利かなければ、貴族たちとはやり合っていけないだろう。
 包み隠さず話すことにした。今は一人でも協力者が欲しい。

「なるほど、世界から魔力が消えているかも知れないわけですね」
「そうです。この眼鏡を装着すれば魔力を見ることができます」
「それではちょっと失礼して……このかすみのようなものが魔力ですか。確かに均一ではなくムラがあるみたいですね」

 物珍しそうに周囲を確認する領主代行のベンジャミン。目には見えないが、世界は魔力で満ちているのだ。
 今度はライトの魔法を使い、魔力の流れを確認している。何事も気になったことを実際に試すのは良いことだ。そうすれば理解も早く進む。

「この辺りはまだ魔力が満ちているため分かりにくいのですが、世界樹の内部ではほとんど魔力がありませんでした」
「世界樹! 本当にそのようなものが存在していたのですね」
「ええ、まあ」

 どうやら人間社会では完全におとぎ話になっており、信じられていないようである。もしかして、存在を教えるのはまずかったかな? 言ってしまったものはしょうがないが。

「レオニート殿は魔力の減少に勇者の出現が何かしらの関係を持っていると思っているのですね?」
「そうです。世界樹が枯れ始めたのと、勇者の出現の時期が重なっているのです」
「なんと! 世界樹が枯れ始めているのですか? それはよろしくないですね。世界樹が枯れれば世界が終わる。そんな話を聞いたことがありますよ」

 始めて聞く話だが、あながちウソではないだろう。世界樹が枯れると言うことは世界から魔力が消えることを意味している。つまり、この世界は魔力なしでは存在できないということだ。

「よろしければ、勇者についてのお話を聞かせていただけませんか? 知っていることなら何でも構いませんよ」
「分かりました。私が知っていることをお話しましょう。魔族社会にはあまり勇者の話は伝わっていないみたいですからね」

 ベンジャミンは淡々と勇者のことについて語ってくれた。その結果分かったことは、ベンジャミンが重度の勇者マニアだったと言うことだ。実家に帰ればさらに色んな資料があるらしい。恐ろしいな。

 もしかすると、魔族の中には魔王マニアもいるのかも知れない。そこにはきっと、ある事ない事が書かれているんだろうな。

「ありがとうございます、ベンジャミンさん。まさか勇者が始めてこの世界に現れた日まで分かるとは思いませんでしたよ」
「いえいえ、このくらい、だれでも知っている情報ですよ」

 そんなわけがない。勇者召喚を行ったなんて、知っている人はほぼいないだろう。それなのにその日時まで分かっているとは……。あとはこの情報をミューに知らせて、世界樹の葉のデータと照合するだけである。日時が一致すれば間違いないだろう。

「それで、勇者召喚を行った国についてですが……」
「ええ、その国はすでに滅んでいますね。原因は作物の不作。外の国から購入するにしても限界があったのでしょう。破産したみたいですね」

 それってもしかしなくても、その国の周辺で魔力がなくなったからだよね? そのことにベンジャミンも気がついているようで、目が合うと大きくうなずいていた。
 その国に住んでいた人たちは別の国に移動したみたいである。九十年くらい前の話だし、色んな国へ移動している。今さら当時の話を聞くのは難しいだろう。

「その国がどこにあったのか教えていただけませんか?」
「もちろんですよ。この大陸のちょうど中央辺りにあった、元は豊かな国ですよ」

 ベンジャミンが指示すると、すぐに使用人が大陸の地図を持って来てくれた。その地図がいつ作られたものかは分からなかったが、ベンジャミンが指し示した場所は緑豊かな場所だった。

 この国か。確か百年前は大陸で一番の力を持つ王国だったはずだ。人間と争っていたときも、強力な騎士団を辺境の地まで送り込んでいた。騎士団の進行を遅らせるために、人間の作った街道を封鎖したりもしたな。今では懐かしい思い出である。

「今はどうなっているのですか?」
「その土地は今は呪われた大地と言われています。勇者発祥の地なので一度訪れようかと思っていたのですが、どうも人手が集まらなくてですね。頓挫してますよ」

 ハハハと困ったかのように笑うベンジャミン。どうやら本気で行くつもりだったようである。だが、だれも賛同しなかったのだろう。もしかすると、今でも何も育たない大地が広がっているのかも知れないな。
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