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聖女ソフィア

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 バディア辺境伯がお風呂に入る時間を見計らって一緒に入ることにした。密談をするならお風呂の時間がちょうど良いだろう。それにバディア辺境伯と一緒にお風呂に入るならば、エレナ嬢がお風呂場にやって来る可能性が極めて低くなる。

「すみませんね、バディア辺境伯。無理を言ってしまって」
「いやいや、気にしておらんよ。むしろ、こちらは大歓迎だよ」

 二人で体を洗ってから湯船につかる。ソフィアは一人でお風呂に入れるかな? 念のため、補助の使用人をつけてもらうことにしよう。

「バディア辺境伯、先ほどのお話なのですが、エレナ嬢を連れていくのは無理だと思います」
「私も同じ意見だよ。この領地から出たことも数える程しかないのだ。それがいきなり長旅など、まず無理だろう」
「心中お察しします。恐らくですが、ソフィアに対抗しているのだと思います。ソフィアが一緒に行くから、エレナ嬢も一緒に行くと言っているものかと」
「そうだな」

 天井を見上げるバディア辺境伯。子を持つ父親も大変だな。しかもあのオババの孫だ。一度言い出したら、親の意見でも耳に入れなさそうである。どうしたものか。
 要するにソフィアがついて来なければ、エレナ嬢もついてこないと言うわけだ。それなら、なんとかここにソフィアを置いておく作戦に切り替えた方が良いかも知れない。

「バディア辺境伯、聖女としての仕事がどこかに転がっていませんかね?」
「聖女としての仕事? そうだな、知り合いの貴族に聞いてみることにしよう。呪いで困っているのはラザーニャだけではないかも知れないからな」

 あの黒いクリスタルが他の街で使われているとは考えられないが、どこかの魔族がかけた呪いによって苦しんでいる人間はいるかも知れない。特に貴族になれば、その可能性はグッと高くなる。その呪いの解呪にソフィアを差し向ければ、私は一人旅になる。それならば、エレナ嬢もついてくるとは言わないだろう。

「どうでしょう、この作戦?」
「なるほど、良いかも知れない。表には出ていないが、裏で呪いに苦しんでいる貴族はいるはずだ。需要はあるだろう。我が辺境伯と聖女の間につながりがあることも示すことができる」

 バディア辺境伯は乗り気のようだ。あとはソフィア次第だけど、「聖女ソフィア」を気に入っているようなのでうまくいく可能性は高い。いやむしろ、聖女様として頼まれれば行かざるを得ないだろう。
 これで方針は決まったな。あとは解呪の依頼が来るまで時間を稼ぐだけである。
 二人でひそかに乾杯するとその日を待つことにした。



 数日後、バディア辺境伯に手紙が届いた。もちろん、聖女ソフィアによる解呪を希望する趣旨の手紙である。私とバディア辺境伯はひそかにほくそ笑んだ。

「ソフィア様に手紙が来ておりますよ」
「手紙? だれからじゃ」

 手紙を読むソフィアのほほ笑みが強くなった。どうやら聖女ソフィアモードに入っているようである。勝ったな。カビルンバとじいやにはちゃんと言い聞かせてある。ソフィアが出向くときには補佐役としてじいやが同伴することになっている。

「ソフィア、何が書いてあるんだ?」
「どうやらわらわの力を必要としてる人がおるようじゃの」
「ほほう、どうやら聖女ソフィアの名前はかなり広まっているようだな」
「そのようじゃの」

 悪い感触ではなさそうだな。元々ソフィアはあまり人間には興味を持っていなかった。それが崇拝されるようになったことで、「人間は守るべき者」と変化したようである。これからの時代には実に良い傾向である。

「それじゃ、ソフィアはそれをなんとかしないといけないな。聖女ソフィアの力を必要としている人がいる」
「確かにそうじゃが……レオニートはどうするつもりじゃ?」
「その間に四天王を探すことにするよ。カビルンバの力を使えば、ある程度の場所は絞れると思う。じいや、ソフィアのことを頼めるか?」
「お任せ下さい。これでも常日頃から人間社会について学んでおりますので」

 じいやは子亀の姿になったことで、人から恐れられることがなくなった。それを良いことに、じいやは人間社会のことをもっと良く知るために、あちこちに出かけていたのだ。

 どうやら元々人間には興味があったらしい。腹ぺこ状態のときに人間の魔力を求めていたのはそのせいでもあったようである。まことに迷惑な話だ。次に腹ぺこ状態になる前には、ぜひとも何かしらの対策を講じてもらいたいものである。

「む、それもそうじゃな。四天王を見つけるのにはそれなりに時間がかかるじゃろうしな。ここは手分けした方が良いじゃろう。カビルンバも分裂できることじゃしな」

 なんとか納得していただけたようである。バディア辺境伯の方を見てうなずいておく。あとはエレナ嬢だな。そこはバディア辺境伯がなんとかしてくれるだろう。

 ソフィアの移動に使う馬車はバディア辺境伯が用意してくれていた。もちろん、ソフィア専用の馬車である。ソフィアはめっちゃ喜んでいた。聖女ソフィアには、当然のことながらバディア辺境伯からのえりすぐりの使用人がつくことになっている。まさに至れり尽くせりだな。

 そんな感じでソフィアは呪いで苦しむ人のところへと向かって行った。単純で良かった。これでしばらくは時間を稼ぐことができる。その間に四天王の問題を片付けることにしよう。

「バディア辺境伯、私も四天王の捜索に向かいます」
「うむ。何かあったらすぐに連絡をしてくれ。できる限りのことはするつもりだ」
「ありがとうございます」
「あの、私も……」

 エレナ嬢がズズイと体を寄せてきた。そこですかさずバディア辺境伯が待ったをかけて来た。夫人も一緒だ。

「エレナ、お前の気持ちは分かる。だがな、ソフィア様がいない状態でそのようなことするのは、抜け駆けになるのではないかな?」
「抜け駆け……」
「そうだ。エレナももう一人の貴族なのだ。裏でコソコソと動けば、それこそ、エレナに呪いをかけた人物と何ら変わることがない。違うかな?」

 う、とひるむエレナに夫人が追い打ちをかける。

「そうよエレナ。あなたはバディア辺境伯の娘として、正々堂々と戦わなければならないわ」
「お母様……分かりましたわ。レオ様が戻ってくるのをここで待つことにしますわ」

 やるじゃん……!
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