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余計な一言

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 室内に移動すると、先ほどまでのお祭り騒ぎとは一変して、静かでどこか高貴な空気になっていた。なるほど、場の空気を変えるためにも、外と、内とで分けてあったのか。
 庭にいるときにも聞こえていたのだが、室内に入るとますます聞こえて来る音楽が大きくなった。

 これはもしかして、ダンスの時間とががあったりするのかな? ダンスなんて踊れないぞ。もちろんソフィアも踊れないはずである。緊張していると、気を利かせた錬金術ギルドのギルド長、ニコラスが「ダンスは踊りたい人だけが踊ることになっている」と教えてくれた。

 良かった。だが言われてみれば当然か。この場には冒険者の姿もあるのだ。あの冒険者たちがダンスを踊れるとはとても思えない。
 だがしかし、このままでは良くないな。これからは何かのときに備えてダンスの練習をしておいた方が良いだろう。ソフィアも含めて。

 室内には予想通り、食事はほとんど置かれていなかった。代わりに飲み物はたくさんあるみたいだったけどね。見たところほとんどがお酒である。ソフィアには飲ませられないな。

「ソフィア、ダメだぞ」
「何でじゃ?」
「それはお酒だ」
「またそうやって子供扱いする!」

 いや、どう見ても見た目が子供なんですけど……。子供にお酒を飲ませるのは良くない。そのくらいのことは魔族の私でも分かる。なんとかソフィアをお酒から引きはがし、オレンジジュースを持って来てもらった。

「これでは子供なのじゃ」
「見た目が子供だから良いんだよ」
「ぐぬぬ、大人の姿になっていれば良かった」
「そんなことをすれば、聖女ソフィアだと分からなくなるぞ」

 どうやら「聖女ソフィア」を気に入っているらしく、この単語を出すとすぐに静かになった。これで当分の間は大人ソフィアにはならないだろう。これはこれで良しとしよう。
 ダンスの時間が始まった。主に踊るのは貴族たちだ。その様子を見ていたソフィアが目を輝かせていた。

「ソフィアも踊りたかったのか?」
「まあな」
「それじゃ、練習が必要だな。今後もこんな機会があるかも知れない。一緒に練習するか?」
「もちろんじゃ」

 うれしそうに笑うソフィア。百年間独りぼっちにさせてしまった罪を少しでも償うことができれば良いのだが。
 結局その日はダンスには参加せずに終わった。次の機会があれば、ぜひともダンスを披露したいところだな。

 パーティーも終盤に差し掛かったころ、アレリード伯爵たちがやって来た。どうやら秘密の話があるようだ。訪れた客のために用意されたていた休憩室へと案内された。

「何かありましたか?」
「あの四天王、ガロリアンについてです」
「……どうなりました?」

 腐っても元四天王。当時はそれなりに交流もあったし、お世話にもなったと思う。当然、気にはなる。本来なら人間との和平を乱そうとした者として処分するべきなのだろうけど、そこまですることはできなかった。

「王都へと送りました。この問題はここだけではすまないでしょうからね。他の生き残りの四天王が同じような考えをしているかも知れません」

 アレリード伯爵がそう言うのはもっともだな。残り三人。何をしているのか気になるのだろう。私も気になる。だがどこにいるのかも分からない。カビルンバの監視にも限界があるからね。常に見張っているわけにもいかないだろうし。

「それで、レオニート殿は何かご存じないかと思いまして……」
「残念だが、残りの四天王がどこにいるのか、何をしているのかまでは分からない。だが気になるので探してみようかとは思う」
「おお、そうでしたか!」

 うん、どうやら本題はこちらだったみたいだな。ひそかに私に四天王の調査を依頼したかったのかも知れない。私の提案は渡りに船だったというわけだ。カビルンバからも否定の声は上がらなかった。きっと気にしているのだろう。

「それではレオニート、これが終わればすぐに四天王を探す旅に出るのか?」
「あー、いや、その前に約束があってな。そっちを終わらせてからになる」
「バディア辺境伯との約束ですね。依頼はきっちりとこなさなければ信用問題に関わってきますからね」
「まあな」

 カビルンバの言葉に、なんのことなのか分からないソフィアが首をかしげている。
 どうしよう。なんだか教えるのはやめておいた方が良いような気がする。特にエレナ嬢について詳しく話すと、とてもまずいような気がする。

「それじゃ、その約束とやらを片付けてから旅に出ることになるな。まだ見ぬ世界か。楽しみじゃな」
「え、もしかしてソフィアもついて来るつもりなのか?」
「もちろんじゃ」
「いや、お金は十分にあるし、この街で待ってろ。すぐに戻って来るからさ」

 ジロリと半眼でにらまれる私。その目はまったく信用していないようだった。どうして。

「嫌じゃ」
「私を信じろ、ソフィア」
「無理じゃ」

 あっさりと否定するソフィア。そんなにバッサリと切られるとちょっとショックだぞ。しかもだんだんと疑いの目が強くなっている。そんなに信じられないのか。助けを求めてカビルンバとじいやを見つめる。

「ソフィアさん、ここで待っていた方が良いですよ。ここなら色んなものがありますからね。そうそう退屈はしないはずですよ。それに聖女ソフィアとしての知名度もあります。みんなが大事にしてくれますよ」
「む、確かにそうかも知れんな」

 よしよし、ソフィアが押されているぞ。さすがはカビルンバ。じいやもうなずいている。ソフィアの見張り役としてじいやを置いていこうかな。そうすれば、ソフィアも安心できるだろう。

「レオニート殿、バディア辺境伯のところへ行くのであれば、私からもよろしくとお伝え下さい。手紙はもちろん出しますが、それだけでは足りませんからね」
「もちろん構いませんよ。バディア辺境伯も気にしているでしょうからね」
「今回の件ことを思い切ってバディア辺境伯に相談して良かった。それがなければこの街もどうなっていたことやら」

 その通りではあるな。実に運が良かったと言えるだろう。もう数ヶ月遅かったら、四天王とモンスターにこの街を乗っ取られていたことだろう。

 ……しかし、四天王はモンスターをどうするつもりだったのかな? とてもではないが、モンスターがこちらの言うことを聞くとは思えないのだが。
 混乱を起こすのが目的ならば役目は果たせるのだろうけど。

「エレナ嬢にもよろしくお伝え下さい。病が治って本当に良かったと。きっと美しいレディーになっていることでしょう」
「は?」

 ソフィアの一言でその場が凍りついた。
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