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羽が生えた金貨

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 宝石店では金貨袋ビンタをして、よさげな宝石やアクセサリーを買いあさった。分解すれば、錬金術アイテムとして第二の人生を踏み出すこともできる。無駄には決してならないはずだ。

 ソフィアも気に入ったものがあったようで、しきりに大きなダイヤモンドがはめ込まれた指輪を眺めていた。もちろんそれも、あとで「女神のネックレス」へと加工する予定である。

「うふふ、レオニートは何にもプレゼントしてくれなかったからのう。こうしてプレゼントをもらえるようになるのなら、人間との和平も悪くないな」
「え? あ、ああ、まあ、そうだな」

 もしかして、そのダイヤモンドの指輪、そのまま所有するつもりなのか? 結構高かったんですよ、それ!
 これは一言、ソフィアに言った方が良いかも知れないな。それ、錬金術の素材に使いたいんですけどって。

「レオ様」
「ん? 何?」

 カビルンバが菌糸でポンポンと肩をたたいてきた。その目は笑っているが、目の奥は笑ってはいなかった。

「まさか、ソフィアさんに渡したものを返してもらおうだなんて思ってませんよね?」
「だ、ダメだった?」
「ダメに決まっているでしょう! 何を考えているのですか。この一帯を不毛の砂漠に変えたいのですか?」

 小声で怒鳴るという器用さを遺憾無く発揮したカビルンバがググイと頭を近づける。じいやの顔も寄って来た。

「カビルンバ殿の言う通りですぞ。あれはソフィア殿に差し上げた物と了見した方がよろしいですぞ。でなければ……ソフィア殿が泣きますぞ」

 それはまずい。少女ソフィアが泣けば、確実に私が悪者になってしまう。下手すれば衛兵に追いかけられることになるだろう。あきらめるしかないか。私のお金が……ううう。

「どうしたのじゃ、レオニート? そういえば次はおぬしの服を買いに行かねばならんかったな」
「おっと、そうだった。ソフィアの隣に並んでも見劣りしない服にしないといけないな」
「レオニートならどんな服でも似合うので、気にする必要はないと思うがの」

 そう言ってからプイと顔を背けた。その耳が赤くなっている。最近良く、こんな感じになるんだよね。もしかしなくても私のことを意識しているのだろう。ちょっと娘に金目の物を与えすぎたかな? そろそろ自重した方が良いのかも知れない。

 貴族の男性向けの店に行く。そこには何だか身動きに難がありそうな服が並んでいた。ソフィアのドレスはまだ動きやすそうだったけど、こっちは派手に動くとビリッと破れそうだ。生地も弱そうであり、防御力も期待できそうにない。

「本当にこの辺の服は見た目だけだな」
「これを着て戦場に来る人がいたら、むしろ尊敬に値しますよ」
「私もそう思う」

 店員の話を聞きながら服を選んだ。これから領主代行の屋敷でのパーティーに参加すると言ったら、張り切って選んでくれた。もちろん、そこそこのお値段の服である。しかしその分、良い買い物ができた。これなら今後もパーティーがあっても問題なさそうだ。
 貴族は買った服を一度しか着ないと言っていたが、そんなことをするだなんてもったいない。私は何度でも着るぞ!

「レオニートにはアクセサリーは必要ないみたいじゃな」
「そうだな。身につけてたとしても指輪くらいしか見えないだろうからな。そして指輪をはめている男は少ない」
「どうしてじゃ?」
「剣を握るときの邪魔になるからな。私も剣を持つ可能性があるし、指輪は必要ない」

 結婚するとシンプルな指輪をつける人もいるようだが、基本的には何もつけないようである。そんな物に気を取られて死んだりしたらうつけ者も良いところである。
 ん? なぜかソフィアの口がアヒルみたいになっているぞ。どうしたんだ。そんな顔をするとますます幼く見えるぞ。

「同じ指輪にしようと思ったのに……」
「残念だったな。ソフィアのその指輪は高いから、同じ物をもう一つ買うことはできないな」
「なんじゃと?」

 どうやら知らなかったらしい。そういえばソフィアにお金の価値について、あまり教えていなかったな。人間社会へスムーズに溶け込むためにも、今のうちに教えておいた方が良さそうである。……計算くらいはできるよね? 聞くのが怖い。そうだ、あとでカビルンバに聞いてもらおう。

「まあ、そんなわけだ。お金は大事にしないといけないぞ。油断すると、金貨に羽が生えて飛んで行ってしまうからな」
「飛ぶのか……」
「あくまでもたとえ話ですよ、ソフィアさん」

 うーん、ソフィアの思考能力が子供なのか、それともそれ以上の知能を持っているのかがだんだんと分からなくなってきたぞ。まさか、見た目と年齢が一致するような仕組みになっているとかないよね? それなら常に、「妖艶なソフィア」状態になってもらわなければならないわけで。

 ソフィアが自立するためにはいずれあの状態になってもらう必要があるんだけど、あの姿は目立ちすぎるんだよね。美人すぎて道を歩けば立ち所に男たちが集まってくることだろう。

 そして何も知らない男たちが痛い目に遭う。これはソフィアにも、私で言うところのカビルンバやじいやのような存在が必要だな。常識を持った、ソフィアを任せることができる妖精。どこかに転がっていないかな。

 必要な物を購入した私たちは、その店の衣装室を借りて着替えさせてもらった。ついでにソフィアの着替えも手伝ってもらった。女性の店員がいてくれて良かった。もちろん、手間賃を渡している。タダ働きなどさせないのだ。

「良く似合っているぞ、ソフィア。身につけている宝石もなかなか良いアクセントになっているぞ」

 胸元には聖女のネックレスが輝いている。普段は服の中に隠しているのだが、今回は外に出すようである。さすがは少女なだけあって胸はつつましやかである。これはこれで良かった。目のやり場に困らなくてすむ。

「レオニートも良く似合っておるぞ。さすがじゃな」
「それだけここの店員の見る目が素晴らしいってことだよ」

 そう言うと、店員さんたちがうれしそうにしていた。私一人ではとても選ぶことはできなかっただろう。本当に助かった。

「準備は整ったな。時間は大丈夫そうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。迎えの馬車も今来たみたいですしね」
「馬車? いつの間に」

 どうやらいつの間にかカビルンバがアレリード伯爵に馬車を回してくれるように話をつけていたようである。さすがはカビルンバ、頼りになる。これで空を飛んで行く必要は無くなったぞ。

「それじゃ、行こうか。ソフィア」
「む、わ、分かったのじゃ」

 慣れない手つきでソフィアが私の手のひらの上に手を載せた。
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