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しかし仲間は来なかった

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 商業都市ラザーニャの呪いを完全に解呪するまでにはもう少しだけ時間がかかりそうだ。ここまでくれば、犯人も計画を邪魔する人物がいることに気がついていることだろう。
 アレリード伯爵たちも動き始めた。錬金術ギルド、冒険者ギルドと協力して街の封鎖を推し進めている。

 当然のことながらそれに反対する組織もあった。商業ギルドだ。まあ、当然だろうな。流通が止まれば、商品が動かなくなる。商品が動かなくなれば、何の利益も得られない。
 街の人たちからも反発の声が上がるかと思っていたのだが、予想に反して静かだった。

 どうやら前々から領主代行のベンジャミンが手を打っていたようである。疫病が原因ではなくて、呪いのアイテムが原因であるという話をひそかに広めていたようだ。
 そしてその呪いはこの街にやって来た聖女様が解呪することができると触れ回っていた。なんてこったい。

 そんなことすると、偽聖女のソフィアが怒るんじゃないかと思ったのだが、それに反して彼女は怒ることはなかった。むしろ逆にそのことを喜んでいる節があった。

「今日も聖女様のウワサがささやかれておるのう。ここにおるのにな」

 にししと笑うソフィアはどう見ても世間がウワサするような聖女ではなかった。間違いなく、イタズラ大好きな力自慢の古代竜である。市民の目は節穴ではないようで安心した。

「ソウデスネ。そろそろ封鎖も本格的になって来たことだし、動きがあるんじゃないかな」
「ほほう、それは楽しみじゃな」

 邪竜の名を語ってまで犯人が禁じた「ラザーニャの街の封鎖」を行うのだ。やられた方は必ず邪竜の名を語って脅しに来るはずである。きっと今頃、領主代行の屋敷には腕利きの騎士や冒険者が飛んで火に入る夏の虫を待っていることだろう。

 邪竜が本当に街を破壊するのなら、その力に屈するしかないが、その可能性はゼロである。むしろ逆にその邪竜にワンパンで倒されることになるだろう。最近のソフィアはシャドーボクシングに余念がないからね。

 そんな感じで街を回りながら解呪を行っていると、領主代行の屋敷の方角に見慣れない大きな魔力を感じた。
 来たか!

「ソフィア!」
「分かっておる。わらわも感じたわ。ファファファ、腕がなるのう」

 ボキボキと指を鳴らし始めた。かわいらしい少女がする行為ではない。それを見た周囲の人たちがざわついているじゃないか。カビルンバとじいやも「うわぁ」みたいな顔をしてソフィアを見ていた。

「倒してしまっても構わんが、話くらいは聞きたい」
「む、そうじゃの。なぜわらわの名を使ったのかを聞いても良いかも知れぬな」

 この際なので空を飛んで向かうことにした。間違いなく目立つが、相手が四天王なら人間たちでは荷が重いかも知れない。被害を大きくしないためにも急いで向かうべきだろう。
 ソフィアも空を自由に飛べるし問題ない。

「行くぞ、ソフィア」
「待つのじゃ! この格好では下からショーツが丸見えなのじゃ」
「気にするな」
「気にするわ、だアホが!」
「ちょ、冗談! 痛い、痛いから!」

 ソフィアにかじられた。どうしてソフィアは私のことをそんなにかじって来るのか。もしかして、味見されてる? ソフィアは本気で私を食べる気なのかも知れない。
 仕方がないので、ソフィアをお姫様抱っこで運ぶことにする。これならスカートの中は見えない。

「なんだか恥ずかしいのじゃ……」
「それじゃ、小脇に抱えるか」
「それならショーツが丸見えで同じなのじゃ!」
「痛い! 恥ずかしいのはこの際、我慢しろ」

 どないせいちゅうねん。わがままにも程があるぞ。
 そのことを口に出さずに、ソフィアをお姫様抱っこした状態で一直線に領主代行の屋敷へと向かった。

 目的地に到着したときにはすでに戦いが始まっていた。そのまま殴り込みに行こうかと思ったところをカビルンバが止めた。

「レオ様、あれはガロリアンですよ」
「どうやらそのようだな。アイツが黒幕か。なんとなくそんな気はした。昔から野心が高いヤツだったからな。弱いけど」
「ふむ、さっそく張り倒しに行くのじゃ」
「待って下さい。このままレオ様が現れたら、間違いなく『魔王』とガロリアンから呼ばれますよ」

 その場で固まった。確かにそれはまずい。私が魔王であることが発覚すれば、これまで積み上げて来たものが全部パーになるだろう。一からやりなせるならまだマシな方で、もしかすると、ガロリアンの共犯者と受け取られかねない。

「どうしよう、ソフィアだけ送り込むか? いやでも、それだとこの一帯が更地に……」
「おぬしはわらわをなんだと思っておるのじゃ」
「破壊神……ちょ、冗談! ギブ、ギブアップ!」

 お姫様抱っこの状態からソフィアが両足を絡めて締め上げて来た。ちょ、ショーツ! 丸見えだから! それが嫌でお姫様抱っこになったんじゃなかったっけ?
 キリキリと足で締め上げてくるソフィアの姿は狂気に満ちていた。

「おのれ、人間共め! 我ら魔族に逆らうとどうなるのか、分かっていないようだな!」

 劣勢なのか、空を飛び、騎士と冒険者から距離を取ったガロリアンが大きな声を上げた。だが、事前に邪竜などおらず、そんなことなどあり得ないと知っているのであろう騎士と冒険者が、攻撃をやめることはなかった。

「ちょ、お前たち、どうなっても知らんぞー! クソ、部下たちはどうしてだれも来ない。呼び出したはずだぞ」

 いまいまし気に舌打ちをするガロリアン。どうやら部下にも見捨てられたようである。ざまぁないぜ。
 ガロリアンは魔族の例に漏れず、力で屈服させるタイプだったからな。愛想を尽かされたのかも知れない。力だけではだれも着いてこない。

「良いのか、そんなことをして。我が友である邪竜がすぐにでもこの街を破壊することになるぞ。ハッハッハッハ! どうする、愚かなる人間共。俺様に従うか、それとも跡形もなく消されるか。どっちでも良いぞ」

 そのとき、手元からブチッと何かが切れる音がした。
 まさかショーツのゴムが……ヒイッ! ソフィアの顔が、可憐な聖女がしてはいけない顔になってる!

 これはもうダメかも分からんね。肩に乗っているはずのカビルンバとじいやの魔力が……消えた? どうやら遠くへと退避したようである。判断が速い。

「あの、ソフィアさん?」
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