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「これで最後じゃな」
「さすがは聖女様! お見事でございます」

 錬金術ギルドの職員たちが平伏している。もちろんギルド長のニコラスもである。何だろう、この気持ち。目立ちたくはないけど、手柄を横取りされるのは何か悔しい。わがままか。

「それじゃあとは黒いクリスタルがあった周辺の解呪だけじゃな」
「よろしくお願いします。場所はこちらになります。護衛も準備いたしますが?」
「いらぬ。レオニートがおるからな」

 そう言ってニッコリと笑いながらソフィアがこちらを見た。何だろう、この気持ち。聖女を守るための護衛のような気分である。ソフィアなら護衛なんていらないはずなのに。
 むしろいるのはソフィアを止める役……なるほど、それなら監視役として私の力が必要になるな。

「先日も私たちだけで見て回りましたからね。大丈夫ですよ。何かあっても、ソフィアが街を破壊しないようになるべく気をつけますから。なるべく」

 なるべくの部分を強調する。いかに私と言えども、暴れ出したソフィアを完璧に止めることは不可能だ。できることと言えば、被害を抑えることと、ソフィアの荒ぶる魂を鎮めることだけ。
 職員たちの顔が引きつった。

「……どう言う意味じゃ? レオニート」
「さて、回る箇所が多いみたいだし、さっそく現場に行こうとしよう。今も苦しんでいる人がいるはずだ。聖女ソフィアが来るのを待っているはずだぞ」
「そ、そうじゃな。待たせるわけにはいかぬからな」

 よし、何とかごまかすことができたぞ。この場で暴れられたらシャレにならんからな。それにしても多いな。これは今日中に回るのは無理だな。数日かかるだろう。
 それから私たちは指定された場所を歩いて回った。その間にも、錬金術ギルドは黒いクリスタルの調査を行っていたようだ。

 だがしかし、追加の黒いクリスタルは見つからなかったようである。錬金術ギルドの職員たちはホッと胸をなで下ろしていた。

「ヤツら、気がつくかのう?」
「さすがにモンスターに変異した人の数が減れば、疑問に思うかも知れない」

 ソフィアの質問にそう答えると、同じ意見なのかうなずきを返してくれた。同意を求めるようにカビルンバとじいやへ視線を向ける。二人ともうなずいてくれた。

「そして黒いクリスタルを確認しに来て、そこにはもうないことを知る。その時点で確実に気がつくでしょうね」
「そうかも知れないな」

 さて、そこからどのような行動に移るかだな。黒いクリスタルを処分した人物を探すかも知れない。そうなると、私たちに行き着くかな? そうなると面白い。返り討ちにしてやろう。クックック。

「おお、主が悪い顔をしておられる」
「いつもですよ」
「いつもじゃな」
「君たちちょっとひどくないですかね?」

 爽やかさが売りのイケメン魔族だぞ? それにはさすがに遺憾の意を表するぞ。
 そんな感じでラザーニャの街の解呪を行っていると、どうやらアレリード伯爵が到着したようである。商業都市ラザーニャを封鎖するという話が舞い込んできた。お手並み拝見だな。
 さて、パーティーの準備でもするとしよう。



 一方その頃――

 元四天王の一人であるガロリアンは部下を問い詰めていた。

「デモンクリスタルがなくなっているとはどう言うことだ。冗談を言うのも大概にしておけ。あれを一つ作るのに、どれだけの時間がかかると思っているんだ!」

 もちろんかかっているのは時間だけではない。高品質のクリスタルを手に入れるための費用、呪いをかけるための生贄、呪いを定着させるためのアイテム、その他もろもろのお金がかかっているのだ。

 ガロリアンは魔王が勇者に敗れた直後から百年かけて準備を整えていた。
 自分が新たな魔王になる。
 それが彼の夢だった。そのためには四天王と協力もしたし、反発もした。そしてようやく、その座をつかみ取るための算段がついたのだ。
 いや、ついたつもりだった。

 ところが、順調に進んでいたはずの「人族モンスター化計画」も数日前から頓挫していた。人族がモンスターに変異したという話をパッタリと聞かなくなったのだ。
 これはおかしい。そろそろ呪いを大量に蓄積することができた人族が、ゴブリンなどではなく、もっと上位の強力なモンスターに変異しても良いころ合いである。

「もう一度、調べて来い。次に見つからなかったらぶっ飛ばすからな」
「は、はい!」

 理不尽だと思いながらも部下は急いでその場を去って行った。
 いくら調べてもないものはない。ぶっ飛ばされるだけだ。そう思った部下はそのまま逃げ出すことに決めた。何ならこのことをこの街の偉い人に密告するのも良いだろう。ニヤリと笑うと闇の中へと消えて行った。

 ガロリアンは考える。
 一体、どうなっている。何が起きているんだ。俺様の作戦は完璧だ。人族をモンスターに変えて同士討ちさせる。そうなれば残るのは俺たち魔族だけだ。多少、別種族のヤツらが残るかも知れないが、魔王になった俺様に逆らうはずがない。

 人間同士がお互いに潰し合うことになれば、魔族が裏で動いていることには気がつかないはずだ。呪いが原因であることは、愚かな人間どもには分からないだろう。

 それに念のため、よほどの力を持った魔族でないと気がつかないような呪いにしてある。その細工に随分と手間取ってしまったがな。
 だがそのかいあって、だれが見てもただの疫病としか思わないだろう。

「もう少しだ、もう少しで俺様がこの世界の王になる。だれにも邪魔はさせねぇ!」

 部屋の中にガロリアンの笑い声が木霊した。
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