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別に気になってない

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 ジッと太陽の紅玉を見つめているソフィアには悪いが、仕上げの作業をしなければならない。
 このままでは錬金術アイテムとしての効果はなく、ただのキレイな赤玉である。

「それじゃ、最後の工程に移るとしよう。ソフィアは解呪のアイテムが近くにあっても大丈夫だよな?」
「何を言っておる。大丈夫に決まっておるじゃろうが。わらわを何だと思っておるのじゃ」
「邪竜……じょ、冗談ですー!」

 飛びかかって来たソフィアを何とか引きはがす。ほら、あれだよ。念のために聞いてみただけだよ。形式美ってやつだ。だからカビルンバ君にじいや君? そんな生暖かい目でこちらを見てはいけないよ。

「仲がよろしいですね」
「違うから。兄妹としてのただのじゃれ合いだから」
「……そういうことにしておいてあげましょう。それよりも、早いところ聖女のネックレスを完成させないと。これ以上遅くなるとお風呂が閉まってしまいますよ」
「それは困るな。超特急で作らないと」

 テーブルの上に金貨と銀貨、それから塩を並べる。そのままサクッと塩から「白の中和剤」を作り出した。白濁した白い液体がテーブルの上に並ぶ。それをソフィアが目を輝かせて見ていた。興味津々だな。

「それには特に効果はないぞ。他の素材を混ざりやすくするための水みたいなものだな」
「おいしいのか?」
「飲んだことないけど、たぶんおいしくないと思う」

 中和剤を飲もうとするとは、さすがは腹ぺこ怪獣ソフィア。何でも口に入れそうで怖い。本当にしないよね?
 ソフィアの様子を気にしながら、聖女のネックレスを作るための魔法陣を展開する。テーブルの上に、魔力で形作られた丸や四角、三角、星形の幾何学模様が踊り始めた。

「いつ見てもレオニートが作る魔法陣はキレイじゃな」
「そうか? みんなこんなもんじゃないのか? 他の人が錬金術アイテムを作っているところをじっくりと見たことはないけど」
「全然違うぞ」

 あきれたようにため息をついたソフィア。どうやらソフィアは他の人が錬金術アイテムを作っているところを見たことがあるらしい。べ、別に気になってなんかないんだからね。

「レオ様、集中して下さい。魔法陣が乱れてますよ」
「お、おう、そうだな」

 ここで失敗してどうする。集中しなければ。しかし、一体だれだ?
 テーブルの上に置いてある素材が光の粒になり混じり合った。そして一つにまとまった光の粒子が消えると、そこには赤い宝石がキラリと光る、美しいネックレスが残されていた。

「ふむ、予定通り聖女のネックレス++が完成したな」
「お見事です。途中で魔法陣が乱れたときにはどうなるかと思いましたよ」
「……キレイなのじゃ」
「ソフィア?」

 ソフィアがとろけるような目で聖女のネックレスを見つめている。その姿に思わずギョッとした。
 この顔、見覚えがあるぞ。ときどき私の顔を見てこんな表情になっていた。

「どうしたんですか、レオ様? 何だか顔色が良くないですよ」
「何でもないぞ。ソフィア、それが気に入ったのなら、プレゼントするぞ。……その、おわびの印として」

 ソフィアには私のことで心配をさせてしまったからな。それに百年もの間、無駄にソフィアをタイラント山に縛り付けてしまった。いくら謝っても、謝りきれない。

 ソフィアが先ほど魔法陣に描かれていた五芒星のように目を輝かせてこちらを見上げた。両手も子猫のように握られている。まるでネコだな。興奮しているのか、普段は見えなくなっているはずの太い尻尾が左右に揺れている。

「良いのか?」
「良いのだ。だれが身につけていても効果は同じだからな。まあ、ソフィアに呪いなんぞ効かないだろうから、ただの飾りにしかならないけどな」
「つ、つけてくれるか?」
「いいとも」

 聖女のネックレスを手に取ると、ソフィアの後ろに回った。そのまま首元を確かめると、肌を傷つけないように慎重にネックレスをつける。
 まあ、ドラゴンの皮膚に傷をつける方が難しいのだが、それはそれである。

 ソフィアが少しくすぐったそうにしていたが、無事に胸元で赤い宝石が輝いた。解呪の効果は間違いないはずだ。明日、クリスタルが置いてあった周辺を適当に巡回すれば、その辺りの呪いはキレイさっぱりなくなることだろう。

「気に入ってくれたのは良いが、寝るときは外して寝るんだぞ」
「嫌じゃ」
「嫌じゃありません。ケガしたらどうするんだ」
「そう簡単に傷などつかぬ」

 そうなんだけどね、そうじゃない。第一、そんな物が胸元にあったら寝るときの邪魔になるだろうに。言うことを聞かない子供か。……子供かも知れないな。

「何じゃその目は。分かった。朝起きてレオニートがつけてくれるのなら外すとしよう」
「そのままつけて寝ても良いのかも知れない」
「ムウ!」

 ソフィアがポコポコと殴って来た。地味に痛い。自分が馬鹿力のバッケンレコードである自覚はないのか。もしカビルンバなら壁にたたきつけられたトマトのようになっていたところだぞ。

「お二人は本当に仲がよろしいですな」
「まあ、兄妹だからな」
「……その設定はいつまで続くのじゃ?」
「少なくとも人間社会にいる間は続くな」

 答えを聞いたソフィアのほほが膨らんだ。不服なのかも知れないが、美少女が一人で街の中をウロウロするのは注目を集めるだけだ。
 そして注目を集めれば、当然、下心のあるヤツらが集まってくる。そしてそれをソフィアがひねり潰す。衛兵に追いかけられる。街に入れない。

 うん、どう考えても無理だな。人間と和平を結んだ段階で人間社会に溶け込んで生きるしかないのだ。今さら闇に隠れて生きるのは無理がある。
 私たちは妖怪人間じゃなくて、魔族と古代竜だからな。

「さて、急いで風呂に入らないといけないな」
「背中を流してあげるのじゃ!」
「余計な気をつかわなくていい。それにソフィアと一緒に入ると、色々と問題になる」
「兄妹だから問題ないのじゃ」

 まずい、兄妹設定が別の意味を持ち始めたぞ。すなわち、兄妹なので何をやっても良いということだ。
 ソフィアの胸を見る。うん、ペッタンコだな。これなら問題ない? 視線に気がついたソフィアが胸を両手で隠した。

「……」

 気まずい。カビルンバとじいやを監視役としてその場に残すと、逃げるようにこの場を去った。
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