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元凶

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 ついこの間、モンスターに変異した人が現れた地区を訪れた。モンスター化した話が伝わっているのか、道を歩く人の姿は見当たらない。ここだけゴーストタウンのように不気味である。
 そしてこの地区に足を踏み入れて、すぐに気がついた。

「前言撤回だ。錬金術アイテムの仕業ではない。これは呪いの一種だ」
「レオ様」
「間違いない。呪いのエキスパートの私が言うのだからな」

 三人が沈黙する。なるほど、錬金術アイテムではなかったか。それなら納得ができる。いやむしろ、なぜその可能性に気がつかなかったのか。
 呪いならば対象を限定することができるし、やりようによっては人間をモンスターに変えることもできるかも知れない。

「なるほどのう。あの者たちは治療薬を作ろうとしておったが、無駄じゃな」
「そうなるな。呪いを解くには、解呪の錬金術アイテムが必要だ」
「どうするんですか?」
「これ以上、モンスターに変異する人間を増やすわけにはいかない。この街全体を一気に解呪できる錬金術アイテムを作る必要がある」
「女神のネックレスですね」

 カビルンバの回答に首を縦に振ることで答えた。女神のネックレス++を作れば、ラザーニャ全体を解呪することができるだろう。
 だがちょっと待てよ。本当にそれで良いのか?

「カビルンバ、聖女のネックレス++をたくさん作るという方法もあるぞ?」
「うーん、確かバディア辺境伯の屋敷を覆うくらいの大きさでしたね。それだったら、百個近く必要になるのでは?」
「百! さすがに百個もルビーは買えないぞ」
「ちなみに女神のネックレスには何が必要なのですか」
「光の勾玉だな。ダイヤモンドを加工することで作ることができるぞ。できれば大きなダイヤモンドが欲しいところだな」

 あ、カビルンバの目がジト目になっている。どうやら気がついてはならないことに気がついたようだった。

「もしかしてですが、ルビーか、ダイヤモンドかの違いだけですか?」
「実はそうなんだ」
「……そのことは黙っておいた方が良いですね。国宝級の錬金術アイテムをホイホイ作ることができると知られれば大変なことになりますよ」
「ラ、ラジャ」

 カビルンバがヤレヤレと言わんばかりに首を振ると、ソフィアとじいやもねっとりとした目でこちらを見てきた。
 どうやら問題児だと思われているようだ。自分たちのことを棚に上げて良く言うな。

「まずはダイヤモンド探しじゃな」
「そうなるな。カビルンバ、一番良いダイヤモンドを頼む」
「……お金、大丈夫ですかね?」

 財布の中を確認する。ちょっと心もとないな。こんなことになるのなら、あのときルビーを買うんじゃなかった。
 だからと言って、アレリード伯爵や領主代行のベンジャミンに頼るわけにはいかない。国宝級の錬金術アイテムを簡単に作ることができることを知られるわけにはいかないのだ。

「正直に言うと心もとない」
「どこかでお金を稼ぐ必要がありますね」
「錬金術アイテムを売るか、冒険者ギルドで依頼をこなすか」
「もしくは両方やるかですな」

 問題はお金をためる時間がどれだけあるかだな。やはりお金を工面してもらうのが一番早いのだが、それは最終手段にしておきたい。
 それに、原因が分かった今ならば他に手の打ちようはある。

「よし、まずは聖女のネックレスを作ろう。そしてこの一帯を解呪する」
「なるほど、それで時間を稼ぐわけですね」
「そんなことをすれば、相手に警戒心を与えることになるのではないか? そうなれば、そやつをぶちのめすことができぬぞ」

 シュッシュッとシャドーボクシングをするソフィア。どうやら自らの手で鉄拳制裁する気のようである。相手は死ぬ。たとえ相手が魔族であろうとも。ソフィアパンチはそれだけ強力なのだ。

「確かに警戒心を与えることになるだろう。もしかすると、逃げられるかも知れないな。だが、放っておけば被害が増えるだけだぞ?」
「レオ様の言う通りですね。それにもし何もしなければ、魔族が犯人だと分かったときにボクたちまで疑われるかも知れません。仲間をかばったと思われるでしょうからね」

 これはますます放っておけなくなったぞ。早いところ宿に戻って聖女のネックレスを作らなければならない。ソフィアも一応は納得したようで、それ以上何も言って来なかった。
 戻ろうかと動き出したところでじいやが待ったをかけた。

「お待ちあれ。ここまで来たのです。呪いの元凶を探した方が良いのではないですか?」
「それもそうだな。発生源が分かれば何か情報が得られるかも知れない。ありがとう、じいや。ちょっとあせり過ぎたようだ」
「人間の命がかかっておりますからな。主がそちらを重要視するのは当然のことですよ」

 じいやの言う通り、元凶を取り除くことができればこれ以上被害が広がることはないだろう。手分けして探したいところだが、呪いのオーラというか、気配が分かるのは私くらいだろう。

 ここは迷子にならないためにもまとまって動いた方が良いだろう。そんなわけで、ソフィアを連れて、呪いの気配が強くなる方向へと進んで行った。
 そこには真っ黒なクリスタルがゴミに紛れるようにして転がっていた。

「これが元凶だな」
「触っても大丈夫なのか?」
「まあな。魔族に呪いは効かない」
「そうじゃったな。それにしても、なかなか良くできておるのう」
「……そうだな」

 ソフィアはなかなかと評価したが、これはかなりの代物だぞ。手のひらの半分にも満たない大きさだが、練り込むように呪いが込められている。

 これほどのことができる魔族はそうそういない。それこそ、そんなことができるのは四天王クラスの魔族だけだ。
 もしかして、そうなのか?
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