上 下
64 / 104

体で……

しおりを挟む
 話を聞いたところによると、モンスターに変異した人間は商業都市ラザーニャを守る兵士たちに倒されたようである。
 変異したのがゴブリンだったため、あっさりと討ち取られたようだ。そして当然のことながら、モンスターと同じく、霧のように霧散したらしい。ちなみに何も落とさなかった。

「完全にモンスターになったみたいですね」
「モンスターと同じく霧散してしまえば、それ以外の何者でもないですからね」

 そして霧散してしまえば、何の手がかりも得られない。せめて遺体が残っていれば、疫病の原因を突き止めることができたかも知れないのに。

「それでは打つ手なしですね。その人の家族はどうなったのですか?」
「家族も危険と判断されて、今は領主代行の住んでいる屋敷で監禁されています」
「なるほど。一度、話を聞く必要がありそうだな」

 直接話を聞いても何も変わらないだろうが、他に手がかりがないのだ。仕方がないよね。
 家族との面談が終わったら、次は彼らの家を訪ねてみよう。衛兵が調べ上げているだろうが、何か得られるものがあるかも知れない。
 そんなことをカビルンバに話すと、菌糸を組んでうなずいてくれた。

「レオ様にしてはやけに冷静で的確な判断をしますね」
「ふむ、主はソフィア殿に良いところを見せたいのかも知れませぬな」

 二人とも、それ、褒めてくれているんだよね? じいやの発言を聞いて、ソフィアが「え、そうなの? そうなの?」みたいな顔でこちらを見てくる。どんな顔をすれば良いんだ。
 分からないので取りあえず笑顔を作っておいた。ソフィアの顔もニンマリしているし、これで良かったのだと思う。

「他に異論はないようだな? それじゃ、取りあえずはこの方針でいこう」
「こちらも新しい情報があれば、すぐにお伝えします。どこに人を向かわせれば良いでしょうか?」

 そうだった。まだこの街での宿を決めていないんだった。さすがに先ほどの怪しい宿屋に人を走らされても困るだろう。
 カビルンバを見ると、一つうなずきを返してくれた。今度こそ、大丈夫なはずだ。大丈夫だよね?

「これから宿屋を探しますので、見つかり次第、知らせに来ます」
「そ、そうですか。よろしくお願いします」

 カビに言われて困惑するニコラス。さっきから話しているのだから今さら困惑しなくても良いのに。
 カビルンバはここへ直接知らせるつもりなのだろう。カビはどこにでも存在している。分体を送るのは造作もないはずだ。



 ニコラスに挨拶をしてから錬金術ギルドを後にした。錬金術ギルドに宿泊できる場所があれば良かったのだが、どうやらそのような場所はないようだ。冒険者ギルドならありそうなんだけどね。ん? 冒険者ギルド?

「冒険者ギルドにも一度顔を出さないといけないな」
「そうですね。冒険者としての心構えを聞かないといけませんからね」
「何じゃ、レオニート。おぬしは冒険者になったのか? あのクソ勇者と同じ」

 ジロリと目を半月の形にしてこちらをにらむ。口が悪いぞ、ソフィア。かわいらしい見た目をしておいて、「クソ」はないだろう「クソ」は。どうやら相当、勇者に恨みがあるようだ。
 だが、ソフィアよ、勇者はすでに死んでいる。

「まあ、なるつもりはなかったんだが、向こうから『Sランク冒険者になって下さいお願いします。何でもしますから!』と言われれば、断るわけにもいかなくてね~」

 口元に笑みを浮かべながらソフィアを見下ろした。あからさまにソフィアがムッとした。ほほがヒマワリの種を詰め込んだハムスターのように膨らんだ。
 それを優越感に浸りながら「プシュッ」と潰す。

「ふ、ふ~ん? レオニートごとぎがSランク冒険者になれるのなら、わらわはすぐにTランク冒険者になれそうじゃな~」

 ドヤ顔をしているソフィアを見て、腹をつまんで吹き出しそうになるのをこらえる。
 Tランクって、世間知らずのお嬢様か。そんなランクは存在しない。なぜならSランクが最高ランクだからだ。

 これで本当にソフィアがタイラント山から下りていないことが確定したな。私の責任だ。笑うことはできない。

「レオ様、勝手に思い出をねつ造しないで下さい。何でもするなんて言ってませんよ」
「そうだったっけ?」
「そうですよ」
「ほお~? レオニートはわらわにウソをついておったのか?」

 カビルンバが味方になったと思ったソフィアがニヤニヤしている。
 何のことはない。カビルンバは「Tランク冒険者」発言をうやむやにしようとしているだけだ。私には分かる。

「しかし変ですな? Tランク……ぐえ」

 慌ててじいやの首を絞めた。おっと、どうやらちょっと力が入りすぎたようだ。カエルが潰れるような声が出たが大丈夫そうだった。
 そのまま軽く首を絞めた状態で「それ以上はいけない」とアイコンタクトを送った。じいやがコクコクと顔色を悪くしながらうなずいた。これでよし。

「早いところ宿を探そう。冒険者ギルドに行くのは疫病の問題が解決してからだ」
「もちろん分かっていますよ。宿屋は見つけておきました。少し裏通りになりますが、治安は良いですし、値段もお手頃です」
「良くやったぞ、カビルンバ。すぐに案内してくれ」

 すぐに宿屋に向かおうとしたが、ソフィアの足がピタリと止まった。顔が不安そうにゆがめられている。
 どうしたソフィア。まさか「人間の宿になど、泊まれぬ!」とか言い出すんじゃないだろうな?

「レオニートよ、わらわはお金を持っておらぬが……」
「何を言っているんだ。お金なら私が持っている。ソフィアはお金の心配などしなくて良いぞ」
「……すまぬな、レオニート」

 珍しくソフィアが謝った。これは確実に明日は槍の雨が降ることだろう。いや、まさかりの雨が降るかも知れない。
 思わぬソフィアの態度にギョッとして顔を見つめた。
 見つめられたソフィアは顔を赤くしながら、あからさまに顔を背けた。

「この借りは必ず返すぞ。体で……」
「裏通りにある宿屋へ、さあ行こう!」

 元気よくソフィアを小脇に抱えて歩き出した。
 一体ソフィアは何を言っているんだ。だれだ、こんなお子様に大人の世界を教えたやつは。けしからん!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...