上 下
46 / 104

知らない魔法ですね

しおりを挟む
 バディア辺境伯に後を任せ、ランドキングタートルの方へと向かうことにする。オババにはお店の素材を使わせて欲しいと頼んだ。もちろん料金は払う。今の私は小金持ちなのだ。ケチケチしない。

「欲しい物があるなら何でも持って行きな。その代わり、領都を救っておくれ。頼んだよ」
「頼まれました。ここでゆっくりとお茶でも飲んで、吉報が来るのを待っていて下さい」
「レオ様、ご武運をお祈りしておりますわ」

 瞳を潤ませたエレナ嬢に見送られて屋敷をあとにした。
 すぐにカビルンバが話しかけてくる。

「説明してもらえるんですよね?」
「もちろんだ。カビルンバの意見が聞きたい」

 カビルンバに先ほど考えていたことを話した。
 モンスターは魔力を求めてこちらに向かっているのではないか。狙いは私なのではないのか。そして魔力回復ポーションを与えれば、オババの話にあったように、どこかへと帰って行くのではないか。

「そんなことを考えていたのですね。……フム、その可能性は十分にありますね。人間や魔族などの魔力を持った存在を襲うのも理屈に合う。もしこれが正しいのなら、大発見ですよ」

 どうやらカビルンバが興奮しているようだ。しきりに全身の菌糸をくねらせている。キモス。
 まずは魔力回復ポーションを作る必要がある。できれば上級魔力回復ポーションを作りたい。私の記憶が確かならオババの店に売っていたはずだ。

 オババから借り受けた鍵を使って裏口から中に入ると、商品棚をまさぐるようにして探す。それほど時間をかけずに見つけることができた。
 養命樹の実、宿り木の蜜、月下美人、火酒。どれもなかなかのレアアイテムなのだが、運良く在庫があった。

 しかも貴重品だからなのか、しっかりと保管されており、品質もなかなかである。これなら間違いなく上級魔力回復ポーション++を作ることができるだろう。さっそく魔法陣を展開して錬金術アイテムの作製に取りかかった。

「この領都に到達するまで三日ほどかかりそうですね。もしレオ様の作戦がダメだった場合、ボクたちが領都から離れれば進路が変わるかも知れません」
「その必要はないぞ。そのときはプランBを使う」
「プランB?」
「そうだ。フルバーストでぶっ飛ばす!」

 無事に上級魔力回復ポーション++を作り終わったので、サムズアップでカビルンバに答えた。カビルンバが首をひねり、アゴに菌糸を当てた。

「フルバーストって何ですか?」
「おいおい、まさかカビルンバ、知らないのか? ほら、バーストの千倍の威力がある魔法だよ」
「知らない魔法ですねーって、千倍! 地表に大穴を空けるつもりですか。魔王再臨待ったなし!」
「大丈夫。バディア辺境伯が何とかごまかしてくれるさ」

 驚くカビルンバに笑顔で答える。しかしカビルンバは首を左右に振った。

「いくらバディア辺境伯でもごまかせるのには限度がありますよ。これは最悪、領都から逃げることも考えないといけませんね」
「あー、それじゃ、フルバーストを使った後にすぐガイアコントロールで穴を塞ぐのはどうかな?」
「爆発音がするんじゃないですか?」
「そりゃあもう、ド派手に鳴るだろうな」

 カビルンバが再び首を左右に振った。どうやらダメみたいですね。プランBを決行したあとは速やかに退避しなければならないな。もちろん、大穴を元に戻したあとに。
 それでもまぁ、オババとの約束は果たせるからな。無事に戻って来いとも言われなかったしね。クスン。

「準備ができたのなら行きましょう。フルバーストを使うにしても、領都に接近されると困りますからね」
「それもそうだ。領都まで吹き飛ばしたら、間違いなくお尋ね者として追いかけられることになるだろうからな。世知辛い世の中だ」
「当たり前なんだよなー」

 ああ、カビルンバがあきれている。それでもカビルンバは付いて来てくれるから好き。付いて来てくれるよね?
 ちょっと心配になりながらも門から外へと出た。領民にはまだランドキングタートルがこちらに向かって来ていることは知らないようである。
 もし知られていれば、今頃逃げる人たちでパニック状態になっていたことだろう。

 少し進むと山が見えてきた。良く見るとじわりじわりと移動をしているのが分かる。これがランドキングタートルが。でかい。説明不要。

「さて、まずは顔を探さないとな。でなければこいつを食べさせることができない」
「どうやって食べさせるつもりですか?」
「私が近づけば餌だと思って口を開くだろう。そこに投げ込む」
「自らが餌になるとはさすがですね。あ、ボクは向こうで待ってますね」
「え?」

 そう言ってカビルンバが森の方を菌糸で差した。まさかの裏切り! ここまで来て、自分だけ安全なところに逃げるだなんて。そ~りゃないぜカビルンバ。

 ランドキングタートルの進行方向に向かうと、背中の甲羅に紛れるように顔があった。非常に分かりにくい。そしてほぼ一体化しているので、かなり固そうだ。オババの言った通り、外からの攻撃は跳ね返されるだろうな。やるならやはり内部破壊か。

「なかなかごつい顔をしているな。あの顔の前まで行かないといけないのか」
「それじゃ、ボクはここで」
「マジで?」

 スッと忍者のように肩から消えたカビルンバ。今頃森の菌糸と一体化しているのだろう。何かずるい。言い出したのは私だけど、最後まで付き合ってくれてもいいじゃない。
 私がのんきにランドキングタートルの顔の付近まで飛んで行くと、餌と勘違いしたのか、笑顔を浮かべてパクリと食いついてきた。

 すかさず口の中に上級魔力回復ポーション++を投げ込む。そして全力で後方へと飛び去った。
 ランドキングタートルの動きがピタリと止まった。それも首を長くした状態である。今ならその首をはねることもできそうだ。

「何だか様子がおかしいですね」
「そうだねー、カビルンバくん?」

 肩に戻って来たカビルンバを笑顔で迎えた。カビルンバは何食わぬ顔でランドキングタートルの様子を見ていた。くっ、こいつ、鋼のメンタルを持っているのか。カビルンバ、恐ろしい子。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

転生特典:錬金術師スキルを習得しました!

Lunaire
ファンタジー
ブラック企業で働く平凡なサラリーマン・佐藤優馬は、ある日突然異世界に転生する。 目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中。彼に与えられたのは、「錬金術師」としてのスキルと、手持ちのレシピブック。 素材を組み合わせてアイテムを作る能力を持った優馬は、錬金術を駆使して日々の生活を切り開いていく。 そんな彼のもとに集まったのは、精霊の力を持つエルフの少女・リリア、白くフワフワの毛並みを持つ精霊獣・コハク。彼らは王都を拠点にしながら、異世界に潜む脅威と向き合い、冒険と日常を繰り返す。 精霊の力を狙う謎の勢力、そして自然に異変をもたらす黒い霧の存在――。異世界の危機に立ち向かう中で、仲間との絆と友情を深めていく優馬たちは、過酷な試練を乗り越え、少しずつ成長していく。 彼らの日々は、精霊と対話し、魔物と戦う激しい冒険ばかりではない。旅の合間には、仲間と共に料理を楽しんだり、王都の市場を散策して珍しい食材を見つけたりと、ほのぼのとした時間も大切にしている。美味しいご飯を囲むひととき、精霊たちと心を通わせる瞬間――その一つ一つが、彼らの力の源になる。 錬金術と精霊魔法が織りなす異世界冒険ファンタジー。戦いと日常が交錯する物語の中で、優馬たちはどんな未来を掴むのか。 他作品の詳細はこちら: 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...