CROWNの絆

須藤慎弥

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 次の年の冬、〝CROWN〟としてデビューし本格的なアイドル活動が始まった俺は、それまで以上にセナとケイタと過ごす時間が多くなった。

 俺たちがまだ若かったこと、可能性が未知数であったことなどから、はじめは音楽シーンを席巻するぞという高い志を誰もが抱いておらず、ひとまずは若年層をターゲットにした〝息の長いアイドル〟を目指した。

 CROWNの楽曲を担当する当時のプロデューサーをはじめ、俺たちに関わることになったチームの大人たちは、大塚初の男性アイドルの売り出し方に四苦八苦していたとも聞いた。

 だが、ただ一人、俺たちの頭上にCROWNが輝くように、と高らかにグループ名を発表していた社長だけはそうでなかったらしい。

 鳴り物入りでデビューした直後は、三人の経歴も相まって話題に事欠かず、発売した媒体は信じられないほど爆発的に売れた。

 それに味を占めた社長は、〝だから言ったじゃん〟とばかりに鼻高々で、俺たちに休む暇を与えなかった。

 勢いそのままどんどん上へ行け。お前たちなら頂点を取れる。〝息の長いアイドル〟? そんなものはトップに立たなければ意味が無い。生き続けられない。デビュー間もない時こそ頑張り時だぞ──そう言ってスケジュールをパンパンに詰められた。

 しかしだ。俺もセナもケイタも、体は一つしかない。

 詰め込まれた仕事の量があまりにも多過ぎた。

 一日が二十四時間じゃ足りないというヤバイ感覚にまで陥った。

 まず睡眠時間が足りない。

 組まれたスケジュールがありえねぇほどタイトで、合間はとりあえずメシを食いてぇから寝ることも出来ずに、休憩らしい休憩を取るヒマもなく次の仕事って感じだった。

 その最中には、もちろんレッスンも予定に組まれている。社長と世間に感化された事務所側もやる気満々で張り切りだしたのはいいが、いくらなんでも仕事を入れ過ぎだ。

 レッスンと仕事を両立するのが、こんなに大変だとは思わなかった。現場の過酷さを知らねぇガチの新人だったら、音を上げてるところだ。

 その点、俺たち三人は経験と実績がある。

 どんなに疲れていても受けた仕事はすべて、必ず、全力でやり遂げる。

 セナとケイタも同じ気持ちだったと思う。

 有名子役三人が、まさかアイドルデビューするとは思いもしなかっただろう世間に受け入れられたんだ。

 弱音なんか吐いてられるかって、精神力だけで保っていた。

 とはいえ、マジで記憶が朧げになるほど毎日ヘトヘトのクタクタだったが、充実した最高のデビューを飾れたとは思っている。

 三ヶ月おきに発売されたシングルも売れに売れた。歌番組には引っ張りだこ、バラエティー番組のレギュラーやCMも立て続けに決まり、デビューから一年を待たずして個人の仕事もかなり増えた。

 多忙を極めていたその裏で、俺は三年目となる彼女との交際も継続していた。

 レッスンでクタクタだったデビュー前年も、デビューした年も、メールでのやりとりで手一杯だったんでロクに会えはしなかったが、付き合って三年目でやっとちゃんとした初体験を済ませたからか、彼女が「会いたい」とごねることはそう無かった。

 だから安心してたんだ。

 やっぱ大人の女性は理解がある。彼女は出来た女だ──と。

 だがそれは〝過信〟と言われれば、そうだったのかもしれない。


「── 私と仕事、どっちを取るの」


 約二ヶ月ぶりに会うことになった彼女の愛車に乗り込み、すぐに走り出した車内での開口一番がそれだった。

 せっかく会えたんだから、そんなセリフで俺をイラつかせるんじゃなく、できることなら癒やしてほしいと思った俺はワガママなんだろうか。



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