怜様は不調法でして

須藤慎弥

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第十一話

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 取り込んでると言われ通話を切られた日から、気が付けば二週間。

 短いようで長いその間、あまりにも鳴らないそれが実は壊れているのかもしれないと思い、俺は真顔でケータイショップにまで足を運んだ。

 化粧の濃い女性店員が俺のスマホを数分触り、異常は無いと思われますと一蹴されたのだが、帰りにそっと誰かの携帯番号が書かれた小さな紙切れとキャリア名の入ったポケットティッシュを土産に持たされた。

 常備していて問題のないティッシュは頂くとして、謎の電話番号は気持ちが悪いので、帰り道に羅列が分からないよう数回破いて捨てた。


「……何かあったのかな」


 連絡がこない事を放っておいたわけではない。

 俺から連絡をすると、真琴の定義する友達活動に反するのではないかと躊躇したのだ。

 塾講師のバイトが火木土に入り、俺自身が忙しくなったためそれだけにかまけている余裕が無かったのもある。

 しかしプツッと連絡が途絶えて二週間だ。 さすがに心配になってきた。


「あ、そうだ」


 夏休みに入ったら恋人と過ごす時間が取れて嬉しいとニコニコで語っていたので気が引けるが、由宇なら何か知っているかもしれない。

 自分で淹れた味も素っ気もないインスタントコーヒーを飲みつつ、着信履歴を遡り由宇の名前をタップする。

 ちょうどスマホを触っていたのか、すぐに『はーい』と応答があった。


「あ、由宇? 今大丈夫?」
『うん。 どうしたの?』
「あー……あのさ、真琴と連絡取ってる?」
『取ってるよ』
「えっ?」
『えっ?って。 真琴は毎日何かしら俺に連絡してくるの、怜は知ってるでしょ』
「……知ってる、けど……」


 俺だって、この二週間を除けば毎日真琴から連絡きてたよ。 意味の無いスタンプ一個だったり、〝おやすみ〟の一言だったり、俺が返事を返さなくてもそれは毎日。

 今の言い方じゃ、真琴は由宇には連絡してるって事だ。

 どういう事? ……なんで俺だけ?


『もしかして怜、また真琴と喧嘩したの?』
「喧嘩はしてない、……いや、俺が気に触ることしたのかな……」
『〝友達だよ〟以外にヒドイ事はないと思う』
「それは……っ」
『あっ、でも真琴、家庭教師のバイト始めたって言ってたから忙しいんじゃない?』
「えぇ!? 真琴が!?」
『そうだよ。 メッセージくるの大体夜中だもん。 おやすみってスタンプ一個』


 真琴が……家庭教師? 全然知らなかった。

 俺には、アルバイト始めたら教えて、と言っておきながら自分は秘密にしてたの?

 〝友達〟なんだから、教えてくれてもいいんじゃない?

 真琴が連絡してくれないから、俺が塾でバイトしてる事を報告出来てないままなんだよ。

 バイトをしてるならそれでもいいけれど、家庭教師ってマンツーマンなんじゃないの? それって、年頃の子と部屋に二人きりになるよね。

 二人っきり……。


「真琴はいつ、どこの誰に、何を教えてるの?」
『そこまで知らないよー。 真琴に直接聞いてみたら?』
「……連絡、なくて」
『真琴から?』
「そう」
『どれくらい?』
「二週間」
『二週間!? それはおかしいよ! そんな……真琴、もう怜のこと好きじゃなくなったのかな……』
「ちょっ、由宇……やめてよ」


 付け入る隙を与えなかった上に、自分から別れを切り出したも同じだった俺に真琴からの好意が向けられなくなるのは、至極当たり前の話で。

 だが頭で考えるより先に言葉が走ってしまった。 由宇の呟きが我慢ならず、すぐに否定した俺は矛盾だらけ。

 咄嗟の〝やめてよ〟に、由宇は電話の向こうで深い溜め息を吐いた。


『でも怜はその方がいいんじゃないの? 真琴のこと、そういう目で見れないっていつも言ってたじゃん。 真琴とは普通の友達で居たいから、突き放したんでしょ?』
「……そのはず、……」
『怜も無傷じゃないって言ってたけど、真琴はその何倍も傷だらけだってこと分かってる? 話したいことあるなら、俺じゃなくて真琴に直接電話して! 電話に出てもらえなかったら家まで行きなさい! しっかりしなよ、怜!』
「……はい」


 ヒートアップした由宇から、二度目のお叱りを受けた。

 反論の余地も気力も無い俺に、『じゃあね!』と通話を切った由宇はきっと、もう一度発破をかけたのかもしれない。


「まったくもって正論だな」


 一言「心配してたよ」と言うだけ。 それなら友達として何らおかしくない。

 ただ、家庭教師のアルバイトの件を根掘り葉掘り尋ねるのはどうだろう。

 真琴へ連絡する前に由宇に意見を仰いだら、言わずもがな三度目のお叱りを受けた。



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