怜様は不調法でして

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
12 / 35
第七話

しおりを挟む



 深夜、明かりもつけず静まり返った自室で項垂れて数時間。

 真琴が俺を呼ぶ声が鮮明に鼓膜と脳裏に残っていて、引き返さなかった俺は自己嫌悪に押しつぶされていた。


「真琴……」


 後処理をしてあげなかった。

 セックスの直後に関係解消を言い渡す、極めて非情な行いをした。

 真琴の言葉に耳を貸さなかった。

 泣き叫んでいた全裸の真琴を置き去りにした。

 ──三年も、真琴を縛り続けていた。


「ごめん、真琴……ごめんね……」


 俺は、真琴から逃げたのだ。

 俺達は、友達でもなく恋人同士でもなかった。

 俺がずっと、真琴に想いを返さなかったから。

 このままでいいはずがないと頭では理解していたけれど、色々と言い訳をつけて決定的な〝いつか〟が先延ばしになり……そのままズルズルと都合の良い関係を保ち続けてしまった。

 一目惚れした、と俺に盲目な真琴の言葉を、常に真摯に聞かなかったのは俺の方だったのだ。

 いつどこで惚れられたのかは、聞いた事がないので知らない。 それどころか俺は、真琴について深く知ろうとしてこなかった。

 だから、……。


「……これで良かったんだ、これで……」


 真琴は、明らかに縛られている。

 そんな中でも、付き合ってはいないと断言される俺から、わずかでも恋人らしいものを受け取ろうと懸命だったのかもしれない。

 健気にも程がある。

 俺はそんな、愛情と忠誠心を向けてもらえるほどの男じゃない。

 身勝手で、傲慢で、最低で、女々しい。

 だから、これで良かった。

 真琴にだって、俺以外に目を向ける機会、権利があるのだという事を突き付けなければいけなかった。

 俺がもっと早くに解放してあげなくてはいけなかった。

 遅過ぎたけれど、正しい事をしたのだ。



 俺の不実な正義は、真琴に届いただろうか。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染から離れたい。

じゅーん
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

浮気性のクズ【完結】

REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。 暁斗(アキト/攻め) 大学2年 御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。 律樹(リツキ/受け) 大学1年 一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。 綾斗(アヤト) 大学2年 暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。 3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。 綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。 執筆済み、全7話、予約投稿済み

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

大好きな幼馴染は僕の親友が欲しい

月夜の晩に
BL
平凡なオメガ、飛鳥。 ずっと片想いしてきたアルファの幼馴染・慶太は、飛鳥の親友・咲也が好きで・・。 それぞれの片想いの行方は? ◆メルマガ https://tsukiyo-novel.com/2022/02/26/magazine/

処理中です...