恋というものは

須藤慎弥

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◆ 初体験 ◆※

第百四話※

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 欲望のまま、うなじを噛んでΩを囲おうとするα。 天はその上辺の知識のみで、α性との番関係を嫌悪していた。

 けれど、潤がαだと知ってからは現金にも程があった。

 潤になら、何をどうされても構わないと思った。

 体も心も、もちろん許す。 万が一うなじを噛まれても、潤にならば人生丸ごと捧げられる。

 やっとの事で繋がっても、呂律が回らないのでロクに話せなかったが心の中では「嬉しい」と叫んでいた。

 潤の匂いに包まれると、彼さえ居れば何も要らない、何もかもどうでもいい、という思いでいっぱいになった。

 しかし潤は……まだ学生である。

 二人を結ぶたくさんのしるしに手放しで浮かれられないのは、決定的な証を付けると天だけでなく潤のこれからをも奪う事になるからだ。


「僕は天くんと生きてくって決めたんだ」
「ふ、ぁっ……んっ……ん、っ……」


 α性とΩ性の番関係は、圧倒的にα性に有利な仕組みとなっている。 いつか潤が、天の方を向かなくなると……それは天の死を意味する。

 性別はどうでもいい。

 ただし、番になるかどうかはまた別の話だ。

 天は今、発情期間ではない。 うなじを噛まれたところでそうはならないと分かっていても、潤の唇から覗く犬歯は一時間前とはやや形状が変わっていた。


「れも……っ、おれも、潤くんとしか……できなくなる……っんや、やぁぁ……っ」
「……意味分かんない。 僕が最初で最後だよね? 天くんは他の人となんてしなくていい」
「ぅ、っ……んんっ……っ」


 そういう意味で言ったのではないと、天は必死で否定した。

 「ちがう」と首を振り視線でも訴えたのだが、眉を寄せた潤からは心臓がキュッと縮み上がるほどの威圧的なオーラを感じた。

 ぐじゅっと最奥を突かれ、先端でグリグリと愛液の出どころを刺激される。 腹についた天の性器からはトロトロと半透明の液体が流れ落ち、肌とシーツを汚した。

 医務室での会話が蘇る。

 捨てられる前提の天の考えこそが良くないのだが、Ω性は番相手から見向きされなくなる事が最大のショックであると、様々聞いていて怖かった。

 潤の自由を奪ってしまう事、天の未来への恐怖。 この二つは、どんなに下腹部を濡らしていてもしっかりと天の頭をよぎった。


「それとも、天くんは僕じゃない人とエッチしたいの? ここに、……僕以外の人を受け入れたい?」
「んぁぁっ……やら、潤く、ん……っ、おこるなよぉっ……」
「天くんが怒らせたんでしょ。 初体験で浮気宣言って……」
「ちが、……っ、そんなつもりや……っんやぁぁっ……!」


 脳が揺れるほど激しく挿抜する潤に涙目で応えても、瞳を据わらせた彼は天に覆い被さり、背中を抱いた。

 そのまま天の背中を僅かに持ち上げ、潤は虚ろ気に嬌声を上げる天の首筋に向かっておもむろに歯を立てた。


「ぅあっ……潤くん……っ、らめって……!」
「………………」


 守らなくてはならない場所に、ビリッと痛みが走った。

 それだけではない。

 噛むに留まらず、潤はさらに歯を食い込ませてきた。


「い、った……いたい……っ、潤くん……っ」


 潤は返事をしなかった。

 優しく天の後頭部を撫でながら尚も腰を動かし、快感を追っている。

 恐らく血の滲んだ肌をぺろっと舐め、ご馳走を食した吸血鬼の如くいやらしく自身の唇も舐める潤から、普段の面影を一切見付けられない。


「……天くん、噛んで」
「ん、……っふぁ……」
「僕を天くんのものにして」
「…………っっ」


 鎖骨に在る赤いしるしをこれみよがしに見せつけられた天は、もはやある意味仕返しのヤケクソだった。


 噛まれて痛かったから。 潤がずっと、フェロモンとオーラを同時に放ってくるから。 「逃がさない」と視線で威圧してくるから。


 言い訳が無くては出来ない。

 天はそっと、服従するように潤の肌に触れ、恐る恐る赤いしるしを指先でなぞった。

 番の恐怖はまったく拭えていないというのに、潤に「噛んで」と言われるとそれが正解のように思えてくる。


 "これが、他の誰でもなく、二人の番関係を意味するものであったらいい"

 
 潤の強い思いが、しるしをなぞる指先から粛々と伝わってきたような気がした。


「天くん……好きだよ、……天くん……」


 牙の無い天がそこを噛んでみても、潤は微かに眉を顰めただけであった。

 しかも鎖骨なので噛みづらく、ただでさえ力が入らないためそれほど痕は付けられなかった。

 これに何の意味があるのか、天は知らない。

 今の潤に聞いたところで、きっと教えてはもらえない。

 笑顔の消えた真顔の潤から「いい子」と頭を撫でられ、背中を支えられていた天は再度ベッドに押し倒された。


「動くね。 苦しいかもしれないけど我慢できる?」
「……ん、っ……でき、る……」


 頷くと、天の腰を掴んだ潤の瞳が細まった。

 それは信じられないくらいに、綺麗で肉感的な笑みだった。


「力、抜いててね。 ……出すよ」
「ひぁっ……や、っ……んんん…っ、あっ……」


 噛まれたうなじの痛みと、容赦無く抜き挿しされたそこが火傷しそうなほどに熱い。

 みっちりと孔に収まっていた潤の性器の根元が、入り口で栓をするように膨らんでいく。

 背中をしならせた天は、瞳をぎゅっと瞑ってその生温かい感触をゴム越しではあるが中で感じていた。


「────っっ」
「潤、くん……」


 荒く呼吸をする潤が射精したのだと分かると、額に汗を滲ませた天は彼に向かって両腕を広げた。

 それに気付いた潤はすぐさま力強く天を抱き締め、これまでで感じた事のない濃度のフェロモンを放ちながらうなじを甘く食む。

 天が意識無く両足を巻き付けた彼の腰が、ビクビクと震えていた。

 α性の射精は長い。

 聞いていた通り、潤は数分間天の耳元で吐息を漏らし続けていた。






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