恋というものは

須藤慎弥

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◆ 潤の性別  ◆

第八十五話※

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 先週と違うのは、潤にまるで余裕が無い事。

 恋人繋ぎをされた掌もすぐに汗ばむほど、お互いが緊張していた。

 部屋着として長く愛用しているパジャマを上だけしか着ていなかった事で、すぐに全裸に剥かれた天はいつの間にか敷かれていた布団に再度押し倒される。


「これ、ちょっとだけ借りるね」
「やだっ……なんで……っ」
「なんででも」


 握り締めていたマフラーを奪われ、首元にぐるぐると巻かれて面食らう。

 全裸にこれはあまりに妙で、単純に恥ずかしい。


「…………っ??」
「天くんは、ちゃんとイかせてあげる。 僕の秘密も、……打ち明ける」


 ───、秘密……っ?


 一度しか見た事のない潤の上半身を見た天は、目に毒だと咄嗟に視界を遮断する。

 潤の秘密とは何なのかも気になるが、これからの事にもドキドキが止まらない天は瞳を瞑ったまま掌に力を込めた。

 あっちもこっちも気にかけていては、とうとう頭がショートすると自分で分かっていた。


「潤くん……っ、あ、あの……俺、知ってると思うけど初めて、なんだ……! その、……っ、あ、あれが」
「僕もだよ。 ここ、……舐めていい?」
「えぇぇっ!? あっ、そ、そんないきなり……っ」


 この見た目で経験が無いなど、誰が信じるだろう。

 仰天した天が瞳を開いてすぐ、「舐めていい?」の場所をチロと舌先で濡らされて体がビクッと震えた。

 もちろん自身では一度もいじった事のないそれは、何にも染まっていないピンク色の二つの突起である。

 右手は握られたままなのでどうしようもないが、左手で潤の肩を心許なく押し戻しても何の抵抗にもなりはしない。

 潤の右手が胸を弄り、舌先はもう片方をチロチロと舐められて腰が落ち着かなかった。


「ごめんね……次はこんなにフェロモン出てないときに誘ってほしいな。 僕も初めてなのに、……刺激強過ぎ」
「んぁっ……あっ……」


 可愛い、と呟く潤の声がどこまでも甘かった。

 初めての乳首への刺激は、くすぐったいのと気持ちいいので半々だ。 小さな声が漏れてしまうのは、天が好きな潤の匂いが増したからだと思う。

 漂う香りに恍惚とする間もなく、平らな胸をさわさわと撫でていた掌が下腹部へ移動した。

 勃ち上がった性器を撫でて数回擦られ、だんだんと下におりていく。 玉ごとギュッと握られた後に触れられたのは、潤がここにやって来る前から疼いている秘部だ。


「ひぁっ……!」


 入り口を指先の腹で撫でられ、くぷっと中指の第一関節を挿れた潤はまたもや困ったような笑顔を天に向ける。


「前も後ろもぐちゅぐちゅだよ? 天くん、そんなに僕としたかった?」
「う、っ……そんなこ、と……言うなっ……!」
「ほんとの事じゃん」


 肩を押し戻そうとする天の瞳を覗き込んだ潤が、苦笑を浮かべたままさらに奥へと指先を挿れていった。

 潤滑剤の要らないその体がまさに天の嫌うそれである事を知るからか、潤は性急には押し拓いてこない。

 苦痛を伴わないよう、天の嬌声を聞いてじわじわとコトを進めているように感じた。

 気遣いに溢れた潤の指先が、少しだけもどかしい。 時折降ってくるキス同様、彼によって教えられてしまった内側の快感が恋しかった。


「ん、ん……っ、潤、くん……っ」
「天くん、可愛い。 僕の指、気持ちいい?」
「……っ……」


 潤が指先を動かす度、羞恥が少しずつ削られてゆく。

 素直に頷いた天の唇に、温かく湿った潤の唇が何度も重なった。

 付き合って間もない熱々カップルのように手を繋いだ状態で、器用な潤は舌先で乳首への愛撫、指先で孔をぐちゅぐちゅと掻き回している。

 どこが天の良い場所か探しているようにも感じる、その指の動きがあまりに巧みだった。

 無意識に足を広げて腰をモゾモゾと動かす天の鼓動が、潤に聞こえてやしないかと不安を覚えるほどに快楽に負け始めている。


「僕、下手くそだけど、いっぱい頑張るね」
「ふぁ……っ、あっ……そこ、ダメ……っ」
「ここ? ここ好き?」
「んん……ッ! ん、っ……!」


 やっと見付けた、と嬉しそうな潤に対し、恋しかったはずのそこをくにくにと何度も押された天は、まるであの時の静電気を浴びた時のようにいちいち体をビクつかせる。

 自身の構造がよく分からないけれど、潤が見付けたそこは気持ちいいを飛び越えてしまうのだ。

 一気に射精を促されそうになり、あまり何度も擦らないでほしいと臀部を浮かせて指先の愛撫から逃げた。

 記憶より何十倍も感じた。

 我慢できなかった証拠に、腹にいくつか雫を漏らした気配もした。

 「気持ちいい?」としつこく問い掛けてくる潤がフェロモンにあてられているなど、絶対に嘘だ。

 しかも天と同じく初体験だとは、この落ち着きからしてやはり信じられるわけがない。

 腰を揺らして悶えつつそんな事を頭の片隅で考えていると、内側への直接的な刺激が急に治まった。


「ひ、っ……や、っ……」
「ねぇ天くん、……イかせてあげたいんだけど、……秘密打ち明けたら、僕とはもうしたくないってなっちゃうかな? どう思う?」
「や、……っ、ならな……」
「一応、抑制剤……置いておくから。 嫌だと思ったらすぐに僕に打ってね」
「なんで……? なんで、そこまで……」


 潤は、話をしている最中も指先の挿抜をやめず、仲良く繋いでいる掌に力を込めて天の頬に口付ける。

 彼がそこまで用意周到な理由がさっぱり分からなかった。

 この期に及んで天にそれを問うのは、まさに愚問である。

 恥ずかしくてあまり目を開けていなかったが、気になって覗き見た潤のスラックスの前は膨らんでいた。

 理由なら後でいくらでも付けていい。

 抑制剤など絶対に打たない。

 こうしていると忘れかけた羞恥が舞い戻ってきてしまうので、はしたなく "続きを……" と言いかけた天に、さらに潤は問い掛けてきた。


「天くん。 僕の事、二番目に好きなんだよね?」
「それは……っ、潤くんも、だろ……っ?」
「僕はもう違うよ」
「え、……っ?」



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