恋というものは

須藤慎弥

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◆ 好きな人 ◆ ─潤─

第七十三話※

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 潤が全身を洗い終わってようやく、天がおずおずと浴室内に入ってきた。

 羞恥と戦っていたせいか先程よりも濃厚なフェロモンを漂わせ、顔を真っ赤にした天は大事なところをタオルで隠しているのだが、潤は目のやり場に困った。


「遅かった、ね……」
「……友達と風呂入るなんてした事ないし……。 これでも勇気出したんだからな」
「そ、そっか」


 全裸を晒した潤同様、天の生まれたままの姿を見たのは初めてだ。

 こんなに色が白かったのか。

 こんなに華奢だったのか。

 隠すべきは上半身にもあり、ピンク色の二つのそれがフェロモンも相まって潤を激しく誘惑してくる。

 潤はどこに視線をやっていいか分からず、とりあえず天の手を取って後ろ向きにさせた。

 うなじは見ないようにして、ふわりと後ろから抱き締める。

 ───滑らかな肌だった。 ずっと撫で回していたいと、今の潤にはとてつもなく贅沢な欲求が湧いた。

 きちんと "危険な予防" をしている潤が、これはマズかったかもしれないと己の好奇心に歯噛みしたくなるほど、天の裸に欲情した。


「天くん、……綺麗だね」
「え、っ?」
「あ……ごめん。 深い意味は無いよ。 うん、……綺麗な肌してるねって言いたかった」
「えぇっ、男にそんな事……っ」
「キスしたい」
「へっ!? いやちょっと待っ……、マジでここで!?」
「……だってもう……フェロモンすごいんだもん……」


 色々な意味で堪えきれなくなった潤は、振り返ってきた天の顎を取った。 顔を傾けると、それだけで天の目蓋がキスの了承を伝えてくれる。

 そっと唇をあて、何度か方向を変えて柔らかな子ども染みたキスをした。

 触れるだけ。 触れるだけ。

 潤は天の唇をささやかに堪能しながら、一生懸命、理性に言い聞かせた。

 華奢な体が狼狽え始め、足をもぞもぞとクロスさせたのを合図に天の中心部へと手を伸ばす。

 我慢強くない掌が、胸の突起に触れたいと指先をソワソワさせたけれど、ほんの少しの差で理性が上回った。

 天の色付いたうなじから、興奮を知らせるフェロモンが大量に放出されていてまともに目を開けていられない。

 それを止める術は、どういう理屈なのか天が絶頂を迎えるしかなく、───。


「天くん……気持ちいい?」
「……ん、……んっ……」
「中は? 触っていい?」
「う、……っ、ごめ、……あの……っ、こわいんだ……なか、……」
「怖くないよ。 大丈夫」
「あっ……潤くん、……っ」


 背後から天の体を支え、ヒクつく孔に指先でちょんと触れてみる。

 ビクッと全身を震わせながらも、潤の侵入をまったく拒まない天の秘部。 くぷっと指先を挿れてしまうと、そこはすでにしっとりと濡れていて温かかった。

 左手では性器を扱き、右手の中指は恍惚の最中。

 腕だけで支えられる天の華奢さにも、あらゆる薬剤の入った身体さえ脅かすフェロモンにも、奥から湧き出す彼の愛液にも、潤は耐えなくてはならない。

 男性のΩ性である天がこれまで自慰もまともにしなかったのは、この男性らしからぬ欲情の証を受け入れられなかったからなのだと、昨晩触れてみてすぐに分かった。

 天自身も未開の地に、潤が踏み込んでいる事がさらなる興奮を煽る。


「中……熱いね」
「ぁっ……っ……潤、くん……っ」
「なーに?」
「あっ、……あっ、……やば、……潤くんっ」
「……天くん、声抑えないと」
「う、ん……ごめん……っ」


 潤の好奇心と性欲のせいでこうなっているのに、天は自らの失態だとばかりに慌てて掌で口元を覆った。

 建前上は繋がるためでなく射精を促すための行為なので、自身の膨張は無視して天の欲情を最優先に考える。

 中指をやや回して押し拓きつつ、前立腺を探した。 昨日の今日では、この手の事に経験の無い潤では感覚がまだおぼつかない。

 それが天にとっては掻き回されているように感じるらしく、奥からどんどんと温かな液が湧いてくる。

 指先の滑りが良くなるごとに甘やかな声も浴室内に反響して届き、潤の忍耐は今にも壊れそうだった。

 隣近所にこの声を聞かせる事も嫌だが、何よりも潤の性器に響くのだ。

 嬌声を生み出している事は素直に嬉しい。 けれどそれと同時に「これ以上煽らないで」と内心で懇願してしまうのは、まだ理性が残っている証拠でもあった。

 潤は、少しでも天の羞恥心が消えるよう、水量の弱いシャワーを出しっぱなしにした。

 先走りが性器を滑らせ、扱いているとくちゅくちゅと擦れる音が浴室内に響き、天が恥ずかしそうに耳を塞いでいたからだ。


「潤くん、……っ、潤くんも、勃って……?」


 掌で口元を塞いだ天が、振り返ってきた。

 濡れた瞳と視線が合うとたまらなくなり、耳に口付けながら潤は苦々しく吐露する。


「当たり前でしょ。 こうして……中ぐちゅぐちゅしてて興奮しない男は居ないよ」
「あぁっ……ンッ……んっ……んぁぁ……」
「天くんは男の子だから、……ここ、気持ちいいね?」
「あぅぅ……そ、それ、なに……っ? 何して……っ?」


 ようやく探り当てた、中のわずかな膨らみ。

 擦ってみると天の膝が崩れかけ、必死に声を殺していた唇がだらしなく緩んだ。


「おっと……、立てなくなっちゃうほどいいの? もっと擦ってあげるね」
「んやっ……やっ……やだ、っ……こわい、気持ちいいの、こわい……!」
「怖くないよ、天くん。 ここが気持ちいいのも、感じちゃうのも、普通の事なんだからね」
「潤くん……っ、……だめ、だ……も、……っ」


 崩れ落ちそうな体をしっかりと抱き留めて、中を重点的に刺激して射精を促した。

 濃厚なフェロモンは潤の体を覆い尽くすようにして放出されていて、意識なく後ろ髪から覗く桃色のうなじに吸い寄せられる。

 ダメだ、ダメ、───。

 今噛んでしまったら、天に嫌われる。

  "二番目" でも居させてもらえなくなる。


「天くん、……イって。 お願い、……早く……」
「ん、……ッ、んんん……ッ!」


 潤に指先を突き立てられた天は、全身をぷるぷると震わせて脱力した。

 中がギチギチと激しい収縮を繰り返す。 そのキツい締め付けが心地良くて、なかなか指を抜く事が出来なかった。

 湿った床に放たれた精液はお湯と共に流れていき、それをぼんやり眺めていた潤はくたりとなった性器に触れてみる。


「……気持ち良かった?」
「……ん、……っ」


 問うと素直に頷く天が、愛おしくてたまらなかった。

 フェロモンは余韻を残し、潤によって翻弄された天の息遣いが心を揺さぶる。


 ───天が欲しい。
 天の心も、体も、欲しい。




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