恋というものは

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
68 / 139
◆ 年下の理解者 ◆

第六十八話※

しおりを挟む



 潤はスマホ片手に寒空の下まで出て行った。

 瞳で制されてしまった天はというと、ふわふわとフェロモンを漂わせたまま動けない。 何となく、置き去りにされたという寂しい感覚に陥っていた。

 通話相手は誰なのか……鼓膜に焼き付いている女性の声が思い浮かび、それを打ち消すかのように別の相手である可能性を思う。

 年明け早々何日も外泊をしている潤の両親から、いつ帰るのかとせっつかれでもしているのではないか。 都合のいい思い込みのすり替えかもしれないが、無い話でも無い。

 自身では感じる事の出来ないフェロモンの放出を指摘され、素早く布団を敷いた潤の思惑はいくら "にぶちん" な天でも分かった。

 夫婦の関係修復がうまくいった事に喜びを感じながら、やたらと心配してくれる豊の声音が心地いいと思ってしまったのも本当だったが、それがフェロモンを誘発するほどの事であったのか……天自身には分からない。


「───潤くん、……っ、今の、……っ」
「ん? あぁ、電話の相手?」


 通話を終えて戻ってきた潤は手を洗い、暖房で指先を温めてから天の両頬に触れた。

 それからすぐだ。

 押し倒され、ジーンズと下着を一緒くたに脱がされ、首根っこを掴まれたのは。


「ぅ、ん……、誰だった……?」
「気になるの?」
「……ご両親かな、って、……っ、」
「そんなわけないじゃない。 僕は信用されてるから、友達の家に泊まりに行くって言えばあとは放任」
「え、……っじゃあ……!」
「天くんの想像と違わないと思うよ」
「…………っ」


 天の性器をふにふにと弄ぶ潤は、頭がいいというか察しがいい。 二択だったはずが一択になってしまい、露骨に傷付いた天の体が一瞬だけ竦んでしまう。

 発情してません、とは言えない天の性器は触れられる喜びをすでに知っていて、潤の掌に先走りを滲ませていた。

 どういう気持ちで潤が天のものに触れているのか、フェロモンにあてられて本能の赴くままに行動しているだけのように見えた天は、性器を握る潤の腕を弱々しく取った。


「やめ、っ……やめようよ、……! 俺、ここまで潤くんに、迷惑かけられない……っ、もう遅いかもしれない、けど……! 今ならまだ……っ」
「……僕がやめちゃったら……このフェロモンはどうやって抑えるつもり?」
「それ、は……」
「さっきの人を呼んで、助けてもらう?」
「えっ、……っ!?」


 そんなつもりで言ったのではない。

 潤があとから後悔しないように、手遅れかもしれないが年上らしく拒否抵抗しているだけだ。

 ほんの少しだけ、豊がここへ来るという小さな小さな妄想だけはしたが、まさか後孔に触れられるとは思いもしない。


「……ちょっと、天くん。 におい濃くなったんだけど。 想像しないでよ」
「なっ、ち、違っ……想像なんかしてない! ん、んんぁ……っ」


 潤と目が合う度にどんな抵抗も無駄になる。

 性器への刺激が途絶えたかと思うと、潤の右手はついにこの二日触れられる事の無かった場所へ伸びていた。

 これまで、自分でも怖くて触れていない秘部。 首を抑えられたままなので、まるで腕枕をされているかのような愛され体位での愛撫。

 指先を舐めて濡らし、くぷっと中指を挿れられ思わず喉を鳴らした。


「…………ッッ!」
「すごい……とろとろ……」


 潤の声が近かった。

 じわじわと押し入る指は優しさで溢れてはいる。 禁断の場所を潤から拓かれている事にドキドキもしていた。

 ただし、恥ずかしくてどうしようもない中、唾液でほんの少し濡らしただけのそれが難無く入って行く訳に気付くと瞳を開けていられなくなった。

 触れられるのは初めてなのに、まるでこの手の上級者のようにΩの特性上悲しいほどに濡れそぼり、感じてしまう。


「ん、っ……はぁ、……だめ、潤くん……だめだって、……あ、んぁ……っ」
「挿れたりしないから「だめ」って言わないで。 気持ちよくなってくれたらそれでいいの。 にぶちんな天くん」
「ふぁ……っ、……っ……も、……っ……」
「天くん、キスしていい?」
「……っ!? だ、……だ……」
「だめ、でしょ。 それは聞かない」


 指が内襞を容赦なく幾度も擦り上げている。

 そんな最中に、ただただ甘いだけのキスを受けた。 舌の交わらない、可愛いキスだ。

 何度「ダメ」だと言っても聞いてくれない、何を考えているのかさっぱり分からない強気な潤が怖かった。


「んっ……ん……っ……!」
「あと一本腕が欲しいや」
「……や、っ……だめ……っ、潤くんっ……だめ……っ」
「発情期、終わらないでほしいな……僕がずっとこうしててあげるのに」
「あっ……あっ……ふ、ぁっ……」


 潤の考えている事が分からない。

 発情を治してくれるのはありがたいけれど、彼は怖がる天の性をどんどんと目覚めさせてくる。

 足を絡ませて、天が内股になってしまわないように妨害した。 知らなかった快感を、潤の指一本と唇だけで次々と与えてくる。

 くちゅくちゅと音を立てながら指を抜き差しされ、どうしていいか分からない腰が悶えた。

 下腹部に力が入る。

 もうやめて、と閉じていた恐る恐る瞳を開くと、潤が天を熱く見詰めていた。


「天くん、イきそうだね」
「な、なんっ……っ?」
「中すごく締まってる。 僕の指をきゅうきゅう締め付けてくるよ。 気持ちいいね?」
「……っ……ぁあ……だめ、だめ……っ……ゆび……ゆび、うごかす、だめ……っ」
「…………可愛い……」
「あぁ……っ……潤く、ん……っ、だめ、も……イきそ……っ、だめ……!」
「触ってないのにイけちゃうの? すごいね、天くん」
「ぅ、あ、っ……あっ……っ───!」


 感心されて恥ずかしかった。

 ふわりと微笑まれて 、仰け反った顎に優しく口付けられても、挿れられた指を知らず締め付けた事によって何もかもがバレてしまいそうで、怖くて怖くてたまらなかった。

 好きな人が居る潤をここまで狂わせた自身のフェロモンが、この瞬間、憎いものから悲しいものになった。

 余韻でヒクつくそこには、まだ潤の指が入っている。


「うぅー……挿れたい……入りたいよ、この中に……」
「……っ……、だ、め……」
「…………分かってる。 分かってるもん……」
「────っ?」
「ちょっと僕、……無理だ。 あとで拭いてあげるからこのままこうしてて。 ごめんね」
「………………」


 潤はそう言うと、じわりと指を引き抜いて立ち上がり、連日と同じくトイレにこもった。

 言われなくても、動けなかった。

 何をどうすればいいのか分からない。

 孔にはまだ確かに潤の指先の感覚がある。 腹が汚れた精液の感触もある。

 射精直前に目が合ったあの瞬間、得体の知れない大きな感情が心に湧いた事も覚えている。


「……好き、なのかな……」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

処理中です...