10 / 13
世界は残り、三秒半
第十話
しおりを挟む「え!? て、てか残秒数って言った!? 秒数って秒!? やばいじゃん! もう終わりだ! 俺はリアムと思い出話も出来ないまま死んでしまうんだ!」
「ユーリ、落ち着きなさい。終末時計は地上での時間の概念とは別ものだ」
仰天した俺の腕を引き、グレッグを急かしたリアムは飛行機の中でもう一つ新たなハイテク機器を取り出した。
熱心にそれを操作するリアムの横顔からは、全く焦りを感じない。
でもすごい速さで英数字を打ち込んでいる事から、終末時計がもたらす破滅の可能性を信じざるを得なくなった。
「そういえば俺が捕まる前の日、残り十秒って言ってた気がする。今は……? 今は残り何秒?」
「現在、残り五秒だ」
「半分になってんじゃん!」
「あぁ。いつこの世が終わってもおかしくない」
「そ、そんな……」
轟音に慣れてきた俺たちは、自然と顔を寄せ合って互いの声を聞き取る事が出来るようになっていた。
争いによって数え切れないほどの様々な命が絶ち消え、二つのチェックポイントで目の当たりにした地上はすでに荒廃。
太陽をも覆い隠し、光合成による酸素が足りてないせいで淀んだ空気も薄い。
ヒトの支配欲が行き過ぎた結果がこれだ。
息吹を感じない世の中にしたのは、紛れもなくカースト上位のアルファ様達。
「リアム……どうやってその針を止めるって言うんだよ。そもそもヒトが……」
「ユーリと初めて出会った日の事は、今でも鮮明に覚えている」
「え?」
話、逸らされた……?
異国の者ゆえ、言葉が通じなかったのかとリアムを伺うも、彼はひたすら機器に英数字を打ち込んでいる。
ただし彼に限って、そんな事はない。
そこでふと思ったのは、さっき俺がパニック状態で漏らした台詞。
無表情で危機を匂わせるリアムが、俺と思い出話をしようとしてる真意に気付くと……発狂してしまいそうなくらい悲しくなった。
「……俺もだよ。俺も、リアムに初めて会った時ビビビッときた」
「何だ、そのビビビッというのは」
「直感だよ。リアムとはずっと縁が切れないかもしれないなーって」
「そうなのか。では私もビビビッときた。見送りに来てくれた日にキスした事を、ユーリは覚えているか」
「え、あ、……リアムこそ覚えてたんだ」
「忘れるわけないだろ」
宝石の瞳がチラと俺に視線をくれる。
リアムの表情が少しだけ和らいでいて、その柔らかな笑みを見るとようやく俺の中の現在と過去が重なった気がした。
……そっか。覚えててくれたんだ。
俺はそっと、リアムの二の腕に頭を寄せて甘えた。
囚われていて何も目にしていない俺に、リアムは詳しい惨状の実態を語らなかった。
今日という日で、世界は最期になるかもしれない。根拠なら地上にいくらも転がっている。
それだけを忠告して、終焉を覚悟させたんだ。
六種の性別を利用し、悪に染まったヒトの心は容易に浄化出来ない。
ロクでもないアルファ様が居る限り、世の中は何にも変わらないから。
「どこの国のお偉いさんもみんな、アルファ様だよな」
ぽつりと呟いた俺の言葉に、リアムが顔を上げる。
至近距離でジッと見詰められ、今度はリアムの方が甘えるように俺の肩口におでこを付けてきた。
「な、何……?」
「私にもその血が脈々と流れている」
「あ、……リアムはやっぱりそうなんだ」
「……あぁ」
どこか切なげに頷いたリアムは、耳元で苦々しく「彼らと一緒にしないでくれ」と囁いた。
同性としての苦慮が滲むそれに、俺はまた悲しくなった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
これがおれの運命なら
やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。
※オメガバース。Ωに厳しめの世界。
※性的表現あり。
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる