世界は残り、三秒半

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
5 / 13
世界は残り、三秒半

第五話

しおりを挟む



 リアムは、親族みんなお金持ちのいいとこのお坊ちゃんだった。
 小さい頃から色んな国を巡っていたらしいリアムとは、俺が中学に上がる前の半年間だけ同じ時を過ごした。
 リアムにとっては最後の社会勉強の地で、幼くして惹かれ合った俺たちは毎日朝から晩まで一緒に居た。

 あの頃はまだたくさんのヒトや飛行機が活発に動いていた飛行場に、どうしてもって言うから学校を休んで見送りに行った時の事……リアムは覚えてるのかな。



「……空が暗い」

 急ぎ足で飛び立った飛行機の小さな窓から、俺は首を傾けてさらに上空を見上げ太陽を探した。
 地上から何千メートルも上を飛んでるんだから、雲より高い位置に俺たちは居るはずなのに太陽光が届いてこない。
 少しでも振動を緩和させようとしてくれているのか、俺の腰をしっかりと抱いてくるリアムの腕時計の時刻が正しければ、今は昼の一時だ。

「核の乱用で大気が汚染されている。太陽系の磁場も狂い始めた。第三次世界大戦が要因だ」
「それニュースで見たけど、ほんとだったの? 世界って今どうなってんの?」
「私やユーリの国は直接的に争いには加担していないが、すでに二つの国が滅んで大国が支配した。だがな、軍事破壊兵器製造やら化学兵器製造に携わっている以上、協力国だと言われても仕方がない。何より国そのものが衰える」
「……俺の国も貧乏になったって事?」
「早い話が、そうだ。現代にはカーストが存在するからな。今一番被害を被っているのはベータ性の者達だろう。現にベータ性の世界人口推移は下降の一途だ」
「え!? そんな、ベータ性は何も……」
「カーストとはそういうものだ。ヒトを制圧出来るアルファと、繁殖能力のあるオメガが希少扱いされている」
「…………」
 
 リアムはそう言って、俺の髪に口付けた。
 とても思い出話を持ち出すような雰囲気じゃない。
 俺が囚われていた一年の間に、穏やかじゃなかった世界がさらに緊迫した状況になっていた。
 久しぶりに見た外の景色が荒れ放題だったのも、俺たち以外のヒトをまったく見かけなかった事も、遥か下の海が記憶とは違う色をしている事も、何だかすべてが恐ろしくなってきた。

「リアム、それで今……俺たちはどこに向かってる?」
「終末時計だ」
「────っ!」

 リアムがさらりと返してきた、ニュースで聞いた事のある単語。
 世界情勢に合わせて勝手に進んだり戻ったりする、摩訶不思議としか言いようのない世紀末の象徴。
 人類への警告として何者かがこの危機を知らせようとしていて、その針がてっぺんを指した時、地球の歴史は呆気なく終わってしまうと偉い人たちが神妙に語っていた。
 新世紀を迎える事なく、俺たちは何か巨大な力によって宇宙の塵となる。……らしい。

「ついに針がゼロ目前になった。私はそれを止めに行く」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

処理中です...