世界は残り、三秒半

須藤慎弥

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世界は残り、三秒半

第二話

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─────

 どこにも逃げないし、暴れたりしないって散々言ってるのに、俺の右手首と両足首には鎖の付いた手錠が仰々しく嵌まっている。
 少しでも身動きを取ると、鉄製のそれがコンクリートの床に擦れてカシャンと音を立てた。
 その度に、鬱陶しい見張り人が飛んでくる。 大人しくしろよ、と睨んでくる。
 ちょっと動いただけでこれだ。

「クソ……ッ、暴れたくても暴れらんないっつーの」

 ここはまるで、凶悪事件を起こした犯人が入るような独房だ。
 俺が逃げたりしないか、ここから出せって暴れたりしないか、いつもいつも見張られている。
 ほんの一年前まで、俺の生活も待遇もこんなじゃなかった。
 至って普通だった。

 オメガである俺は、性が確定したその日から、将来仕えなきゃならないアルファ様に虐げられてもいいように独特な英才教育を受けてきた。

 劣っているとは思わなくていいけど、アルファ様の言う事は絶対だから従いなさい。
 オメガはアルファ様が居なくては生きていけないんだから、常に彼等の機嫌を取っていなさい。

 ……まさか二十歳の誕生日をこんな牢獄で迎える事になるとは思わなかったけど、俺はちょっとだけ楽しみだったんだ。
 自分で言うのも何だけど、顔もスタイルも適応能力もその辺のオメガとは一線を画してる。
 
 何しろ成人を迎えたら、アルファ様と番になれるんだって。
 今まで机上でしか見た事が無かった景色を、たくさん見せてもらえるんだって。
 そんなの───楽しみでしかないじゃん。


 だからこんな扱いを受けるのは納得いかない。
 世界が大変な事になってて、繁殖能力のあるオメガが保護のために投獄されてるっていうのは最悪理解できるけど、いくら何でもこんな粗雑に扱わなくてもよくないか?

「あれから世の中がどうなったのかも全然分かんねぇし……」

 俺がここに繋がれてしまう一年前。
 最後に見たテレビで、人類が終わりを迎える目安とされる “終末時計” の針が、残り十秒になったってニュースがどこの局でも流れていて、世間は大騒ぎだった。
 終末時計というのは噂によると、いつ、誰が、何のために設置したのか分からない巨大な時計を模した物。
 都市伝説的な扱いでほんとにそれが存在するのか誰も気にした事がなかったのに、世界情勢が逼迫し始めて以降騒ぎ出し、どこかのお金持ちが文明の利器を使って終末時計を探し当てたらしい。

 大国同士の核戦争が引き金だとか、巨大なテロリスト集団が人類全体を標的にしているだとか、様々な要因が語られていた。
 そんな危機的ニュースを、俺は平和そのものな国でのほほんとお菓子を摘みながら他人事で観てた翌日、ここにこうして繋がれた。



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