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34話 帰り道

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 結局、コンドームは付けられなかったけど、つけようと二人で色々やっているうちにどんどん気持ちが盛り上がってきちゃって……。

 あの後も夢中で気持ちよくしあってしまった。

 そのままずっとしていそうになっちゃったけど、いい加減時間がヤバいということでお風呂で身体についた色々なものを流すことにした。

 そして今、結局あのでっかなお風呂に二人で入ってる。

 お風呂で足を伸ばす僕の上にもたれかかる形で都さんが乗っかってる。

「なんか幸せぇ……」

 僕の胸に顔をつけている都さんが夢見心地と言ったようなぼんやりとした声で言う。

 僕も僕の上に乗った都さんの重さを感じていられるのがすごい幸せに感じる。

「優太くんの心臓の音聞いてると……寝ちゃいそう……」

 言葉通り都さんの目は半分閉じられてきてしまっていて、寝ちゃいそうだ。

 僕も都さんの柔らかい体が乗っかってるのが心地いい上に、お風呂の暖かさと今日一日の疲れもあって寝ちゃいそう……。

 そのまま、たまにお互いの体を撫でながら寝そうになっていると……。

ピピピピピピピピピッ!!

 終わりの時間を告げるスマホのアラームがなった。

 そろそろ帰る準備しないと……。

 …………しないとなんだけど……。

 お互い帰るのが惜しくて……アラームの音が消えるまでキスをし続けた。



 と言っても、本当に帰らないわけにはいかないので再びアラームが鳴り出したのを合図に唇を離した。

 そしてお互い無言で帰りの準備をし始める。

 口を開くとなにかダメなことを言っちゃいそうで口を開けない。

 そのまま無言でホテルを出ると、入るときの雨はなんだったんだというくらい晴れた月夜だった。

 二人手を繋いだままゆっくり無言で駅に向かって歩く。

 一言も会話はないけど、気まずくなることはなくって、繋いだ手の指でお互いにいたずらしあっているせいで幸せすぎて恥ずかしい。

 恥ずかしいんならやめればいいじゃんと自分でも思うんだけど、なぜか止めたくない。

 そうしているうちにいつの間にか駅についてしまった。

 ゆっくり歩いてきたはずなのに、つくのが早すぎる……。



 二人共明るい人混みの中で手をつなぎ続ける度胸はなくて、駅につくと同時にどちらからともなく手を離した。

 手が寒くて寂しい気分になるけど仕方ない。

「それじゃ、帰ろっか……」

「うん……」

「…………」

「…………」

「「あのっ!また来ようねっ!」」

 二人同時にそう言って、驚き合って、笑いあった。



 電車に乗って、学園のある駅へ。

 電車の中では次に会うときの計画を話し合った。

 やりたいこと行きたい所だらけでなにも決まらないまま駅についちゃったけど楽しかったからオッケーだ。

 行きは駅までバスできたんだけど、帰りは歩いて帰ることにした。

 歩けない程遠いわけじゃないし、まだ門限には時間があるので都さんと二人で歩いて帰りたかった。

 疲れさせちゃうかな?と思ったけど、都さんもすぐに「私も歩いて帰りたいと思ってた」と言ってくれた。



 暗い帰り道を都さんと並んで帰る。

 暗いとは言っても結構大きな道沿いなので、色々お店もあるし真っ暗というわけではない。

 それでも、人目に付くほど明るいわけではないんだけど……手を繋ごうとしたら避けられた。

「ご、ごめん……」

「…………ううん、私こそごめん」

 慌てて謝る僕に都さんも謝り返してくれたけど……。

 すごい声が暗い。

 ぼ、僕なんかやらかしただろうか……?

 がっついてたっ!?電車の中から手繋ぎたいと思ってたの気持ち悪かったっ!?

「………………あのね……」

 パニクっている僕の横で、暗く沈んだ様子で歩いていた都さんが暗い声のまま話し始める。

「…………私、中学の時…………綾香にイジメられててね」

 都さんの言葉を聞いて、パニクっていた頭が急に落ち着いた。

 綾香……一宮さんに都さんがイジメられていた。

 元々なんかイジメっ子グループでも浮いた感じがしていたし、学食でのやり取りも変な感じだったけど……そう言うことだったのか。

「高校に入って綾香が松戸くんと付き合いだして、なんとなく私を含めて6人グループになった頃から直接的なイジメはなくなったんだけど……。
 …………まだ綾香からなにか言われるだけで怖いの」

 その気持は痛いほど分かる。

 僕だって今日、鹿沼くんと会っただけでなにも出来なくなるくらい怖くなってしまった。

「ごめんなさい……色々考えてみたんだけど、やっぱり私綾香に逆らえそうにない……。
 優太くんのこと守ってあげられそうにない……ごめんなさい……」

 そう言って、都さんは暗い道で立ち尽くして泣き出してしまった。

「ごめんなさい……私最低なことしてるって分かってるのに……ごめんなさい……お願い……何でもするから……綾香の見てないところでなら何でもするから……嫌いにならないで……」

 女はすぐ泣いて済まそうとする。

 そんなことを言っていた男子がいた気がする。

 その時は『そーなのかー』程度にしか思っていなかったけど。

 『女』がどうなのかは僕には分からないけれど、『好きな人』が泣いたら全てはそれで済むのだ。

 好きな人を泣き止ませる以上に大事なことなんてなにもない。

 いつの間にか冷たくなってしまっていた都さんの手を握る。

 僕の手の温度を少しでも分けられるように、強く強く握る。

「優太くん……?」

 そして深呼吸。

 大きく息を吸って……吐いて……。

「僕は都さんのことが好きです。
 今まで通りイジメっ子でも好きです。
 安心してください」

 かっこいいことなんてなにも思い浮かばなかったので、思ったままをそのまま伝えた。

「都さんになら叩かれても大丈夫だし、お金だっていくらでも取られたって大丈夫だし、無視…………は寂しいけど我慢する」

 あれ?恥ずかしすぎてなにを言っているのか分かんなくなってきた。

「と、とにかくなにがあっても好きです。
 結婚してください」

 あれれ?本当に自分がなにを言っているのか分からない。

 いや、僕の中で『好き』の最上級が『結婚してください』だったんだけど絶対今言うことじゃない。

「え、えっと、そうじゃなくって、結婚は流石に気が早くて……そ、そうっ!子供は二人以上がいいですっ!!」

 これも絶対違う。

 僕の口はどうなってしまったんだ?

 落ち着こう。

 落ち着くために深呼吸をしようとした僕の口が、都さんの唇でふさがれた。

 体中をこすりつけるように押し付けながら抱きついて夢中で唇を合わせてくる都さんを、慌てて暗がりの方に引きずっていった。



 ひとしきり感情を爆発させて我に返った都さんと並んで帰る。

 相変わらず手は繋いでいないけど、目立って万が一にも一宮さんの目に入るとマズイということで我慢してる。

 寮への道を歩きながら、都さんがぽつりぽつりと中学時代のことを離してくれた。

 イジメられ始めた理由については都さんもはっきりとは分かっていないらしい。

 もしかしてと思うのが、都さんのおじいちゃんが大グループ会社の会長さんだとみんなに知られちゃった時だって言っていた。

 その後くらいから綾香さんグループからのいじめが始まったのだそうだ。

 その時初めて知ったんだけど、白井さんはその頃は一宮さんの友達じゃなくって高校生になってからの友達らしい。

 一宮さん以外のいじめグループの子――ユミとフユナって言ってた――は今は別のクラスで一宮さんとももうあまり仲良くないらしい。

 一宮さんグループからのイジメは最初は精神的なもので、次第に暴力を振るわれるようになってきて、逆らえなくなってきた頃にはひたすらお金を取られるようになったそうだ。

 一宮さんと松戸くんが付き合い出した頃から佐倉さんへのイジメはなくなったらしいけど、当時の恐怖とその頃に握られた弱味で逆らえないと言っていた。

「ごめん……本当にごめんね……」

「ううん、僕も気持ちは分かるから」

 また泣き出してしまった都さんを優しく慰める。

 本当なら手を繋いだり……キスをしたりしたいところだけど、ここでそんなことをする訳にはいかない。

「大丈夫、都さんがイジメっ子のままでも好きだから、安心して」

 だからせめて言葉でだけでも好きだとはっきり伝える。

「優太くん……ありがとう……」

 嬉しそうに笑ってくれた都さんは可愛くって……キスしたい。

 すごいしたい。

 ダメかな?しちゃダメかな?

 …………。

 暗がりに連れ込んで少しだけした。



 その後は歩きながら今度は僕の話をした。

 と言っても中学時代の話はなにも覚えていないので、小学校の頃の話と、高校に入ることになった理由。

 そして、記憶喪失の話をした。

 記憶喪失のことを聞いた都さんはすごい驚いていたけど。

「どうりで……」

 と妙にあっさりと納得してくれた。

 もっと疑われるかと思っていたから、僕もびっくりしたと同時に嘘をついてると思われなくて安心した。

 寮について別れる時に、

「これからは色々教えてあげるね」

 とやけに恥ずかしそうに言っていたけど、なにを教えてくれるんだろう?

 大丈夫、勉強はもう諦めた。



 寮の部屋についたら、いつも通り遥くんのニオイチェックがあった。

「あ、あの……今日は……」

 おそるおそる聞くと、ニッコリと笑って……。

 親指だけで『シャワー浴びに行くぞ』って言われた……。

 今日も隅々まで……本当に隅々まで丁寧に丁寧に洗われた。

 …………洗う以外のすごいこともたくさんされてしてしまった。

 男の友情ってどこまで許されるんだろう……。
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