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第一章 ゲームの世界

6話 強くてニューゲーム

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「ふあああぁぁぁ……」

 大きくあくびをして、伸ばそうとした腕が動かないところで状況に気がついた。

 やっば……起こしちゃった……?

 慌てて周りを見るけど、幸いなことに子供たちはまだ夢の中だ。

 外はまだ薄暗いし、色々と疲れ切っていた子供たちが目を覚ますのにはまだ早すぎるのだろう。

 僕としては目が覚めたからには色々とやりたいことがあるけど、ユーキくんは僕の右手を抱え込むようにしがみついているし、ノゾミちゃんは痛いくらいの力で僕の手を握りしめているから下手に動くわけにもいかない。

 なおアリスちゃんは僕にしがみついているユーキくんに抱きついているので、ユーキくんが起きたらアリスちゃんも起きる。

 仕方ない、とりあえず頭の中で済ませられることから済ませておこう。

 

 さて、とりあえず今の状況だけど、『知識』から思い浮かぶのは『時間逆行』、『平行世界』が代表的だろうか?

 だけど僕の『認識』はこう告げている『2週目が始まった』と。

 なぜ――おそらく――僕だけが記憶を引き継いでいるのかは分からないけど、こういう場合にやるべきことは一つしかない。

 未来の改善だ。

 僕はユーキくんが魔王堕ちする未来を変えるために記憶を引き継いだ。

 そう決めた。

 そのためには……多分、序盤の区切りとなる負けイベント『不死騎士』戦を無事乗り越えなければならない。

 あそこで僕が『不死騎士』となってしまうことで僕の持っている孤児院組の知識が『不死騎士』に渡ってしまい、その知識が元で起こる悲劇が多すぎる。

 僕=『不死騎士』が倒され、ユーキくんが次の『不死騎士』となり、エル王女が死んでしまうあの戦いなんて最たるものだろう。

 あの一連のイベントの始まりはユーキくんの弱点であるアリスちゃんを『不死騎士』が拐ったことだ。

『不死騎士』が孤児院組の関係性を知らなければ起こらなかったはずのイベントなのだ。

 まずはなんとしてもそれを避ける。



 さて、ちょっと話は変わるけど、僕の頭に『知識』が湧いてきて以来、僕は変なものが見えるようになった。

 目を凝らして人を見るとその人のステータスが見えるのだ。

 それによると僕のステータスは

 【職業:騎士
  筋力:15 魔力:13 体力:13 精神:12 技術:14 敏捷:13 幸運: 1
  魔法適性 火:B 水:B 土:B 風:B 聖:B 邪:B】

 となる。

 ちなみに、一般的な成人男性はこんな感じだ。

 【職業:一般人
  筋力: 5 魔力: 1 体力: 5 精神: 5 技術: 5 敏捷: 5 幸運: 5
  魔法適性 火:- 水:- 土:- 風:- 聖:- 邪:-】

 更に言うと、今となりで寝ているユーキくんは……。

 【職業:勇者
  筋力: 4 魔力: 4 体力: 5 精神:10 技術: 3 敏捷: 3 幸運:28
  魔法適性 火:B 水:- 土:- 風:- 聖:C 邪:-】

 すごいな、5歳にしてもうすでに成人男性に近いステータスをしている。

 流石は勇者。

 それは置いといて、まあこんな感じで僕は相当強い…………ように見える。

 ここで、『攻略資料』から『不死騎士』のステータスを持ってきたいと思う。

 【職業:騎士
  筋力:21 魔力:24 体力:22 精神:18 技術:20 敏捷:17 幸運:10
  魔法適性 火:A 水:A 土:A 風:A 聖:A 邪:A】

 とまあ、完全に僕の上位互換だ。

 それも2枚くらい上手の。

 そして、その『不死騎士』を倒したときのユーキくんのスタータスがこちら。

 【職業:勇者
  筋力:28 魔力:25 体力:27 精神:30 技術:26 敏捷:30 幸運:28
  魔法適性 火:A 水:- 土:- 風:- 聖:B 邪:-】

 もはや僕なんて軽くぶっちぎっている。

 ステータスは30が上限だけど、他のパーティーメンバーも20後半のステータスがほとんどだ。

 更に言うと『幸運』のステータスは成長率にも影響を及ぼしている上に、『幸運』自体が上昇することはほぼ無い。

 つまり、『幸運』1の僕はほとんど成長する余地がないということだ。

 …………ちょっと悲しくなってきた。

 どうやら僕はこの『ゲーム』において序盤主人公たちが弱い間だけ主力となり、徐々にフェードアウトしていく『お助けキャラ』だったみたいだ。



 考えてみれば主人公が育った孤児院の先生とかいかにもそれっぽい。

 まあ、悲嘆に暮れていてもしょうがないので対策を考えよう。

 ひとつ僕の有利な点として、『攻略資料』によるとユーキくんの初期ステータスはもう少し高いはずだ。

 これは『ゲーム』開始時点である10年後までにそれだけ成長する、ということなんだと思う。

 それに対して僕のステータスは現時点で『ゲーム』開始時点の初期ステータスを超えて、僕が戦線離脱する初の『不死騎士』戦のときと同じステータスとなっている。

 どうやら、僕だけは記憶だけでなくステータスも一緒に持ち帰っているようだ。

 さらに言えば『ゲームクリア』時点までに覚えた魔法もすべて記憶したままだ。

 フランツに使った各種治癒魔法や、昨日使った《清潔》なんかがそれに当たる。

 これは記憶もステータスのうちということだろうか?そこら辺は要検証だな。

 このアドバンテージをうまく使うしかない。

 剣が本体という『不死騎士』の性質から現時点の『不死騎士』が10年後より弱いということもないだろうし、逆に今後の10年で僕のステータスアップを図る方が確実か?

 そもそも、僕の成長率でこれ以上ステータスは上がるんだろうか……そこら辺も要検証だな。

 最悪、孤児院組をさらに鍛える方向で行くしかないけど……師匠が僕になる以上、僕のステータスを超えての急激な上昇はあまり望めない気がする。

 あるいは誰か有能な師や仲間を…………魔王軍との戦いが激化していく情勢を考えればほぼ無理か。

 せめてうちの国が残ってればなぁ……。

 でも、うちの国、そろそろ王都陥とされてるはずだからなぁ……。

 落ち延びた人たちが抵抗軍を結成して後々パーテイーもそれに合流するけど……なんにせよこちらに手を貸してくれるような余裕はない。

 ひとまずは自分を限界まで鍛え上げてみるしかない。

 『不死騎士』に魔法が効かないことを考えると、魔法は捨てて剣技とサブミッションを中心に鍛錬を重ねてみよう。



 考えがまとまったところでノゾミちゃんが掴んでいた手が温かく濡れていることに気づいた。

 ……あちゃー、ノゾミちゃんやっちゃった。

 肉体的にも精神的にも疲労が激しかっただろうから、責めることはもちろん出来ない。

 むしろ、今までよく折れずに我慢した。

 この屋敷に着くまではほとんど泣きもせずに厳しい逃避行に耐えてきたのだ。

 それも3歳という子供と言うにも早すぎる年齢で。

 もはや敬意すら覚えるほどだ。

 そう思いながらノゾミちゃんの顔をのぞき見る。

 うん、まだ寝てる。

 まあ、後片付けと慰めるのは十分睡眠を取らせてからにしよう。

 出すものを出して満足気にすら見えるノゾミちゃんの顔を微笑ましく思いながら見ていると、ステータスが目に入った。

 【職業:勇者
  筋力: 1 魔力: 5 体力: 1 精神: 8 技術: 2 敏捷: 2 幸運: 2
  魔法適性 火:B 水:- 土:- 風:B 聖:B 邪:-】

 え?ノゾミちゃんも勇者だったの?
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