上 下
1 / 117
第一章 ゲームの世界

1話 負け戦

しおりを挟む
「なっ!?」

 数合の打ち合いの後、左腕を犠牲にして無理やり作った隙。

 がら空きになった全身鎧の隙間に突き刺したはずの剣先も、何故か弾かれてしまう。

 《全防御》。

 眼の前の敵、『不死騎士』が身に纏っている、邪神が作り出したと言われている漆黒の全身鎧。

 それが宿している付与魔法の名だ。

 その言葉の通り、すべての攻撃を完全に防ぐという常識ハズレの魔法。

 それを付与された神話級の鎧を身に纏った相手に僕は完全に攻めあぐねている。

「ぐふっ!!」

『不死騎士』の剣が僕の左脇腹をとらえた。

 胴鎧に当てることでなんとか致命傷は防いだけど、衝撃に息が詰まる。

 左手が使えなくなったことで出来た隙を『不死騎士』は的確に攻めてくる。

 絶望的なことに装備の質だけでなく、剣の腕に関しても『不死騎士』の方が僕より数段上だ。

 先程の決死の特攻が失敗した時点で僕の負けはすでに確定している。

 左腕は断ち切られこそしなかったものの、腱が断たれたのか力が一切入らない。

 それでも、僕の後ろに倒れている子達のために諦める訳にはいかない。

 右手一本でなんとか打ち合いを続けること数合。

「……つっ!?」

 切り裂かれた左腕から流れ続ける血に意識が揺らいだところで、『不死騎士』の剣が僕の剣を巻き上げ飛ばした。

 すぐには手が届かないほど遠くに飛ばされる僕の愛剣。

 大丈夫、まだサブウェポンとして持っている小剣がある。

 メインウェポンの魔剣と違って昔教え子たちから送られた何の変哲もない小剣だけど、彼らを守って戦う戦いにはふさわしいとすら思える。

 そんなただの強がりでしかない理屈を捏ね上げて士気を保つ。

 まだ戦える。

カラン。

 その乾いた音が耳に届いても状況が理解できなかった。

 小剣が手から滑り落ちた感覚に戦闘中だと言うのに思わず『不死騎士』から目をそらしてそちらを見てしまう。

 視線の先には床に転がる、柄が血に染まった小剣と……。

 親指が切り飛ばされてもはやまともに剣を握れなくなった、僕の右手があった。

 『不死騎士』はほとんど戦闘力の無くなった僕を一瞥すると、呆然と立ちすくむ僕の横を通り過ぎそのままゆっくりと歩き進んでいく。

 まとまらない思考のまま『不死騎士』の姿を目で追うと、その先に『不死騎士』の本来の目的である僕の教え子たちの倒れ伏す姿がある。

 守らなければ。

 その思いが頭に浮かんだ途端、混乱していた頭が落ち着いた。

 剣が持てなくなったくらいで動揺している場合じゃない。

 『不死騎士』が彼等のもとにたどり着くことだけはなんとか阻止しなければ。

 魔法。《全防御》を破れないのは戦闘中にイヤってほど思い知った。

 打撃。これも同じく《全防御》は破れない。

 関節技。

 …………体格が優位なうえに全身鎧を着込み、武器まで持った相手にどこまで有効かはわからないけどまずはこれか。

 ゆったりと歩みを進める『不死騎士』に全力で飛びつく。

 もうすでに僕のことは意識から外していたのかここまではうまく行った。

 そのまま『不死騎士』が対応に出る前に右腕を肘からへし折る。

 ボギリと鈍い音を立てて『不死騎士』の右腕がありえない方向に曲がる。

 よしっ、関節技はいける。

 そう思った瞬間、僕の左足に剣が突き刺さった。

 …………え?

 『不死騎士』が右手で握る剣が僕の左足に突き刺さっているのを見てもなにが起きているのか理解できなかった。

 一瞬思考が真っ白になった僕の目に、『不死騎士』が折れたはずの右腕で器用に剣を後ろ手に持ち直して僕の右足に突き刺す光景が入る。

 おいおい、骨折も意味ないのかよ……。

「ぐふっ……」

 呆然としている僕の体の中になにか熱いものが入り込んできた。

 視線をそちらに移すと、『不死騎士』の剣が背後から抱きついたままの僕の胴に深々と突き刺さっている。

 それを認識した瞬間、スウッと頭から血の気が引いた。

 胴から流れ出る血でそれが感覚的なものではなく物理的なものだと分かる。

 完全に致命傷。

 ならもうやれることはない。

 彼等を守れなかった無念さが嵐のように心を掻き乱すがもう諦めるしかない。

「《過剰励起》」

 魔法を制御しきれないほど同時に励起することによる、周囲を巻き込んだ魔力の暴走による爆破。

 事故でない場合、この際に励起する魔法はすべて防御魔法なのが基本だ。

 爆破の破壊力をすべて内側に閉じ込めるために。

 いわゆる自爆魔法。

 とはいえ魔法である以上《全防御》を破れるかは分からない。

 せめて気絶だけでもしてくれれば……。

 周囲の防御魔法に閉じ込められ荒れ狂う衝撃に体と意識を吹き散らされる瞬間、倒れながらもなんとかこちらを見ている教え子たちの姿が目に入った。

 どうか、彼等に幸多からんことを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

処理中です...