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悩ましき騎士団長のひとりごと
しおりを挟む俺の横で穏やかに微睡む、愛しき我が伴侶とのことを聞いてもらえるかな?
俺の可愛いリュカ…。
昨夜は、激しくしすぎたせいか、涙の跡が残っている。
そっと、リュカの額にかかった前髪を、指先ではらい、涙の跡を拭ってみた。
そして、半開きしてる愛らしい唇に、口付けを落とし、軽く喰んでみる。
「んっ」リュカから吐息が漏れる。
それにしても、昨夜の、リュカは愛らしかった。
いや、いつでもリュカは、愛らしいが。
今すぐにでも、リュカを抱きしめて、俺の全てをリュカに注ぎたい……が、同じ騎士団でも、リュカは、文官。
いかんせん体力がなさすぎて、手加減していても抱き潰してしまう。
俺がこんなに、ただ1人に夢中になるなんて…。
俺自身でも信じられない。
1年前の俺自身に言っても、信じないだろうな。
リュカという、かけがえのない伴侶を得た幸せ。
俺としては、むさ苦しい騎士団勤めを辞めさせて、どこかに閉じ込めたいものだが、
いかんせん、「イザーク様と、同じ職場って幸せだな~♡」
なんて、可愛いことを言われたりすると……。
まあ、ここは、心を広くみせないとな…。
痩せ我慢を強いられてるなんて、オイオイ、そんなことを思ったら駄目だからなっ!
俺は、イザーク・ケリー。
アシュリー王国の騎士団団長だ。
ひい婆さんが、王家の側妃の子として産まれ、
近衛騎士をしていたひい爺さんと、大恋愛の末結婚し、
持参金の一部として、公爵という地位と、公爵領を下賜されたとか。
まあ、ようするに、ただの侯爵家の三男にしかすぎない、ひい爺さんが、見初められて、逆玉にのったってとこだな。
俺が騎士団長に就任したのも、
公爵家だからと、散々、陰口を叩かれたが、だからなんだってんだ?
自分で言うのもなんだが、俺は、騎士として、かなり強い。
公爵家嫡男とはいえ、
もともとは、武官の出、小さい頃から剣をふるい、
騎士学校では、俺と互角に闘えるのは、幼馴染で、副団長となったアルマンくらいだな。
アルマンは、マルーン公爵家の出だが、
俺と同じ武官一族で、剣では、まあ、俺のほうが才があるが、殴り合いとなると、今ならどうなることやら。
熊みたいに大きく、燃えるような赤毛の持ち主だから、
あいつは、どこにいても目立つ。
アルマンは、親友だが、いつかは潰してやろうと思っている。
なぜかって?
俺のリュカが、アルマンに憧れていたらしいからな。
ああ、そうだ。
俺は、嫉妬深いのさ。
愛するリュカが、騎士団の会計決算やらで、
来週までには王宮に予算案を提出しないと…と、今晩一晩、騎士団に詰めて仕事と聞いたショックは計り知れないものがあったんだぞ。
一層のこと、王宮を……ムガムガ、おいっ、アルマン!
口を押さえるなっ、窒息したらどうするんだ!可愛いリュカに会えなくなるのだけは、勘弁しろ。
はあ~~、俺達、新婚なんだぞ…。
やはり、辞めさしておけば………と、つい零すように言ってしまってな、そしたらな、
「僕は、騎士団の文官としての仕事に誇りを持っています!
文官として、騎士の皆様は当然として、イザーク様を陰ながら支えていきたいって思っているのに……。
そんなに僕って、駄目なのでしょうか?」
なんて、涙目で訴えられたら……。
ああ、そうだよ、お前の言うとおりさ、
土下座する勢いで謝ったさ。
騎士団のトップが、イチ文官に土下座するかって?
リュカの為なら、なんだってやるさ。
尻に敷かれてるって?
リュカのキュートな尻になら、ずっと敷かれたいもんだな!
オイッ、アルマン、なに生温い笑いを浮かべながら
笑ってる!
コホン。
俺とリュカが出会ったのは、騎士団の文官の申し込みに現れたのだ。
騎士団の入口のところの木に咲き誇る花の、花びらが舞い散る中を現れたときには、
心臓が撃ち抜かれたと思ったさ。
ダークブロンドに、薄茶色の瞳が
陽の中で、金色にキラキラと輝き、頬を染めている姿は、天使が舞い降りてきたかと思ったぞ。
オイオイ、アルマン、まあ聞けって。
なに?砂を吐きそうだって?
人間は、口から砂なんて吐かないぞ。
えっ?悪酔いしそうだって?
安い酒を飲むからだって!
早く帰らないと、リュカがもしかしたら、早めに終わって家のほうで待ってるかも…って?
だ~か~ら~!
リュカは、騎士団の為の予算を組んでいるから、騎士団に詰めてるって言っただろっ??
だから、お前とこうして飲んでるんだ。
でなければ、誰がムサイお前とこうしているもんかっ!
怒ったか?
まあ、いつか、お前もかけがえのない、唯一の人ができたらわかるだろうな…。
話しを戻すが、
白い花びらに囲まれたリュカが忘れられなくて、
ハリーに、さり気なく、リュカの事を聞いたのだが、無事に採用されたとか。
これは、運命だろ?
そして、リュカは、文官として働きだしたが……。
自分で自覚がないのか、方向音痴でな、しょっちゅう迷子になっていてな、
そのときの困り顔も可愛らしくて…。
騎士団の練習のときも、ちっちゃいリュカが、書類を抱えて
ぴょこぴょこと、歩きながら、お前をひたむきに見つめているのが腹立たしいのなんの!
アルマン、やっぱりお前をいつか、ぶち殺す!!
まあ落ち着けってって?
落ちついてるさ。
なになに?演習のときに、大人気なく参加して、周りを叩き潰し、挙句に、
副団長の俺を全力で潰しにかかったのは、そんなことかって?
それ以外になにがある?
しかしな、お前が、媚薬入りの焼き菓子を持ってきたのがキッカケで結ばれたからな。
まあ、少しは感謝してやってもいいがなっ。
えっ?
媚薬がいつまで効いていたかって?
こう見えても一応、王位継承権があるからな。
だからか、色々とあってな…。
昔から、毒薬とか、やたら薬に慣らされているから、
あのくらいの量なら、酒を少し飲んで
ほろ酔いになったようなもんだな。
それにしても、王太子殿下が、相変わらずで、このまま結婚されないとな………。
殿下には、妹君しか居られないし、他も、女性ばかりだしな……。
継承権があるって、リュカにバレたらマズイしな…。
なあ、女性に継承権が与えられないなんて、おかしくないか?
女性が、か弱いからだからなんて、なあ?
某公爵令嬢なんて、王太子殿下を殴り飛ばしたっていうのになあ?
リュカのほうが、よっぽど弱々しいぞ。
これを言うと拗ねるが。
他国に嫁いた姫様方を………って、訳にもいかないしな。
王位継承権があるなんて、リュカに知れたら……。
おいっ、いま、捨てられろって言ったか?
えっ?酔っぱらいのくせに、変なとこで鋭いって?
表にでるかっ?受けて立つぞ?
騎士団のトップ2人が、仮眠室で飲んでるのがバレると、非常にマズイな…、あはは。
俺達2人に、意見できるツワモノはいないってか?
たしかになっ。
リュカはな、野心がない。
可憐な小花のような……だから、聞けって!
どこまで話したっけ?
そうそう、俺が、公爵家の嫡男だからって、身分違いを気にしまくって、逃げようとしたからな。
王位継承権があるなんて知られてみろ!
オイッ、アルマン、そういえば、お前も継承権があるだろ?
えっ?
先代で、放棄しているって?
クソッ、その手があったな……。
いくら可愛いからって、男を嫁として連れてきて反対されなかったって?
だから、俺って、由緒正しい公爵家嫡男だろ、
このとおりの見た目だしな。
昔から、男女ともにモテまくって、ウンザリしててな。
一生、誰とも添え遂げるつもりがないって、宣言していたし。
妹の子を、次期公爵に…って決めていたからな。
リュカを連れ帰ったら、両親も妹夫妻も、諸手を挙げて歓迎してくれたぞ!
コンコンコン。
「イザーク様、いらっしゃいますか?
あ~~~!!!ここは神聖な騎士団ですよっ!マルーン副団長も一緒に何してんですかっ!!」プンプン!!
怒った顔も可愛いなあ~~、リュカ?
「知りませんっ!」
なに?アルマン、羨ましいか?
そんなにリュカを見るな!減る!
「減りませんっ!」
天下の騎士団長も形無しだって?
いいんだ。リュカが俺の傍に居てくれたら…。
「もう~~、アルマン様、イザーク様を潰さないでくださいよ~~! 僕では運べませんって。」
「このまま、ここに転がしておくか?」
「マルーン副団長…。」
「冗談だって…。可愛い顔して怒るなって~の!」
「可愛くないし、怒ってません!」
「ヨイショっと。可愛気のないイザークを運ぶ破目になるなんてな……。どうせなら、カワイコちゃんを運んでみたいもんだな…。それにしても、クソ重いぞ!」
酔いつぶれたイザーク様を、ベッドまでアルマン様が運んでくださって、助かったな~。
「アルマン様、ありがとうございます」
「いいってことよ。 それより、イザークを蹴倒してでも、お前も少しは休んでおけよ。」
アルマン様は、格好良くて、優しくて…もちろん、イザーク様の次だけどね。
浮いた噂がないのが、本当に不思議だな…。
「ありがとうございます、お休みなさい、アルマン様」
寝言でも、僕の名前を呼んで、愛を囁くイザーク様。
その横に滑りこみ、
「イザーク様、お酒もほどほどにしてくださいね。僕も愛しています。お休みなさい」
次の早朝、
目が覚めた途端、イザーク様の熱いなんやかんやがあったのは、ナイショだけどね。
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