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4章 ガルディア帝国 闘技会編

キース皇子との再会

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お昼、集合時刻になると、リッカ達が現れたのだが様子がおかしい。20人くらいの人間が、紐でグルグル巻きにされていた。大体察しはつくけど、一応聞いておこう。

「リッカ、聞いてもいいかな?」

「はい!始めは5人の人間が私に【闘技会を棄権しろ。逆らったら、この場で殺す】と言ったので、半殺しにしました。」

「それが、この5人ね。残りは?」

「状況をきちんと説明したのに、有無を言わさず連行しようとしたので半殺しにしました。結局、こいつらみんなグルでした。全員、あの貴族から言われて、闘技会への参加を辞退させるのが狙いだと白状しました。」

「うん、殺さなかったのは偉いわ。ただ、なんで連れてきたの?」
「サーシャ様の指示を聞いてから動こうと思いました。」
「ちなみに、脅迫された時間は何時?」
「今から1時間前です。」

うわ~、気の毒すぎる。1時間もグルグル巻きにされて、暴れようものなら電撃を浴びていたのか。全員ボロボロだ。仕方ない、解放してあげよう。

「ねえ、あなた達」

《ビク》 
あ~あ、全員精神的に不味いわね。まあ、自業自得だし、このままでいいわね。

「今からあなた達を解放します。ありのままを依頼主に言いなさい。そして、また襲って来るようなら、今度は貴族だろうが容赦しないと言っておきなさい。いいわね!」

《コクコク》
《パチン》

指を鳴らし、縄を解いてあげた。襲ってきた連中は、トボトボと逃げ出した。走る気力も失っていたか。

「師匠、すいません。まさか警備の人達も敵とは思いませんでした。止める間もなく、リッカがやっちゃいました。」

「今回は仕方ないわ。多分、仕掛けて来ると思ったからね。さて、次はどう動いてくるかな?」

「お姉様、いいんですか?警備の人達が嘘をついて、捕まえに来るかもしれませんよ。」

「それはそれで構わないわ。闘技会を棄権しても、私達にはなんの不利益もないしね。それで、リッチとの定期報告なんだけど、キース皇子達が明日私に会いに来ることになったの。私の専用部屋に案内して、中華料理をご馳走することになったわ。今から買い出しに行ききましょう。餃子も作るわよ。」

「ふぇ~餃子、師匠が絶賛していたあの料理ですね。お手伝いします!」
「お姉様、私も手伝います。」
「サーシャ様~、私も手伝うから今日食べたいよ。」
「俺もお手伝いします。」

「餃子は、結構大変だから手伝ってもらうわ。」

みんなやる気ね。リッカとジンは、私の料理のせいか、完全に獣としての本能をなくしているわね。もしかして、私の料理に副作用があるのだろうか?

一応2人は神獣なんだけど。


○○○


買い出しも終わり、現在は料理の準備中だ。まずは餃子の作り方を4人に教えている。

「そうそう、生地を使った具の包み方はそれでいいのよ。フィンとイリスは、もう大丈夫ね。リッカは力を入れ過ぎ、具が漏れてるわ。ジンは動きが堅すぎ、もっと落ち着いてやりなさい。まあ、これは慣れね。始めの頃より、大分上手になっているわ。私は別の料理を作るから、4人は餃子を具がなくなるまで作ってね。」

「ひ~、サーシャ様~、多過ぎるよ~。」
「サーシャ様は、こんな料理を毎日美味しく短時間で作っていたのか。」
「師匠、餃子作りは手加減の勉強になります。」
「お姉様、餃子の味が楽しみです。」

「餃子にも色々と種類があるらしいんだけど、私が出来るのは焼き餃子と水餃子の2種類だけなのよ。今回は焼き餃子を作るわね。」

さて、餃子は4人に任せて、私は青椒肉絲、回鍋肉、酢豚、エビ(らしきもの)のチリソース炒め、ワカメ(らしきもの)スープ、玉子スープなどを作ろう。

4人とも、中華料理にはまっているけど、今日と明日で飽きないだろうか?少し心配だ。

それにしても、私が邪神になって1ヶ月も経っていないのよね。異空間で邪神を討伐し、落ち着いた頃に強烈な疎外感に襲われた。クラスメイトととの繋がりを断たれ、桜木君や美香とは相反する存在になってしまったからだ。ここで、合気道先生のこれまでの言葉が響いたわね。全ては、自分で行動して変えていくしかない。行動しなければ、何も変わらないのだから。ここ以降、全てを前向きに前向きに考えるようになった。

いつか人間に戻るために、
いつか地球に帰還するために、
いつか人間に戻った状態でクラスメイトと再会するために、

これら3つの願いを自力で叶えるため、邪神の能力を扱える様に修行し、影ながら桜木君と美香に役立てる様に行動もした。これからも、その行動は変わらない。

ただ、予想以上に事が大きくなってきている。スフィアの逃亡、黒幕連中の目的、邪王の動き、これらのことが一切わかっていない。もしかしたら、私が思っている以上にスフィアタリア全体が大きく揺らいでいるのかもしれない。下手な行動は出来ない。慎重に物事を判断していかないと、取り返しのつかないことになる。これまでは、ずっと1人で考えていたけど、今は仲間がいる。フィンやイリス、エレノア様やバーンさん達に事情を話したことで、自分でも不思議と仲間に頼っている時がある。ふふ、仲間を信頼するのもいいわね。

「あれ?料理が出来上がってる。考えている最中にも無意識に作っていたのね。」

「し、師匠、全部作りました。疲れました~。手が動かないです。」
「お、お姉様、終わりました。大体2000個ぐらい作ったと思います。」
「サーシャ様~、疲れた~。」
「さすがに俺も疲れました。」

「基礎能力値から考えて、疲れるはずがないんだけど。まあ、いいわ。あとは焼いて蒸すだけね。2000個一気にやっちゃいましょう!」

こういう時、魔法は便利だ。餃子の状態も鑑定で一発でわかるしね。
料理が完成する頃には、全員目が血走っていた。

「サーシャ様~、まだ食べちゃ駄目ですか?」

「ちょっと待ちなさい。焼き餃子は、このタレに浸けてから食べるの。それじゃあ、みんな食べていいわよ。」

その瞬間、全員が餃子を食べだした。

「ふぇ、熱、ハフハフ、凄く熱いけどパリパリして美味しいです!」
「お姉様、ハフハフ、熱いけど美味しいです。これが餃子なんですね。」

ジンとリッカは、余りに美味しいのか黙々と食べている。それにしても、みんな餃子ばかりに集中している。残り少なくなったら、本当に取り合いの戦争になるかもね。

「うん、餃子の味も上出来。他の料理も問題なし。これなら、キース皇子も喜んでくれるでしょう。」

「ああ、リッカ、それ私の!」
「フィン、先に取った人が勝ちだよ。」
「なら、こっちをもらう。」
「おい、フィン、それは俺のだぞ。」
「にゃあ!ジンさん、それは目をつけていたのに。」

なんか本当に取り合いになっているんだけど。どれも同じなのに、なぜこうなる?私の分を別にしていて良かった。


今は仲間がいる。毎日が楽しい。この日常を失いたくない。この平穏な日常を脅かすものは、何者であろうとも始末する。そう、例え神や昔の召喚者達であろうとも。


○○○


翌朝、私だけが冒険者ギルドに行くと、リッチとキース皇子はいた。ただし、偽装をしている。リッチはそのままの名前で、姿を14歳くらいの少年になっている。黒の短髪で目が凛々しく眉もキリッとしていてイケメンだ。邪族は人化すると、イケメンになりやすいのだろうか?キース皇子は、元々黒だった髪を金髪にしており、顔は変わっていない。黒を金髪にしただけで、ここまで印象が変わるものだろうか?これならキース皇子と、まず気付かれないだろう。名前はシュリとなっている。

「サーシャ、はじめまして。今はシュリと名乗っているよ。一応、キース皇子は現在行方不明扱いになっている。言葉使いも普通でいいよ。」

「はじめまして、サーシャです。リッチがお世話になっています。Sランク遺跡では大変だったでしょう。」

「リッチと君のおかげで助かったよ。俺も鍛えられて、今じゃSクラスだ。詳しい事情を聞きたいんだが、どこか良い場所があるかな?」

「ええ、誰にも悟られないうってつけの場所があります。そこで話を進めましょう。リッチも任務、ご苦労様。話が終えたら、リッチとシュリ用のご馳走を用意してあるわ。」

「は!ありがとうございます。中華料理、楽しみであります。」

リッチとシュリを私の専用部屋へ案内した。

「これは凄いな。見たこともない部屋だが、見事に調和がとれている。それに不思議と落ち着く。」

「「キース皇子、お久しぶりです。」」

「フィンと---イリスか。久しぶりだな。今はシュリと名乗っている。そちらの2人がジンとリッカだね。リッチから話を聞いているよ。」

「リッカだよ。お~、リッチ様が小さくなってる。なんか可愛い。」
「ジンです。リッチ様も偽装をしているんですね。」

さて飲み物を用意して、話を進めていきますか。

10分程他愛もない話をした後、まずは私の事情を説明した。例によって、本名は言っていない。

「そんな事情があったのか。既に邪神は討伐されていて、称号を引き継いだのか。ガルディア帝国には、1000年前以降の資料は存在していないが、口伝で残っていたものを参考に500年前に資料を再作成したんだ。その資料には、こう書かれていた。

1) 4000年前以前のスフィアタリアは、今以上に文明は栄えていた。魔法、物資の運搬、医療全てにおいて、高度な物が使用されていたらしい。言葉として残っているのが、魔車・魔列車・飛行船・手術・電気・音楽だ。稀に4000年前の品物が発掘されるが、未知の技術が使われていて使い方もわからないため、現在は博物館に展示されている。例えば、黒く丸い円盤のような薄い板がそうだな。

2) 4000年前以前の時代、このガルディア帝国が最も栄えていたそうだ。邪神は、狙い撃ちするかのように今の皇都に降り立ち、人々に災害を振りまいた。邪神の姿は、本当かどうかはわからんが2m程の人だったそうだ。そいつは恐ろしく強く、当時の人達では歯が立たなかったらしい。

3) 人類が滅亡すると誰もが思ったが、スフィアが降り立って邪神を封印してくれた。ただ、邪神は最後にこう言ったそうだ。

【我を封印しても、邪族は滅びない。お前達は、これから衰退していくだろう。そして、いつかは栄華を取り戻すかもしれん。だが、今のような文明を築いた時、我は必ず蘇る。貴様ら人類は癌細胞なのだ。いずれ、言葉の意味に気付くだろうが手遅れになっているだろう。我が手を出さずとも、滅びを迎えるかもしれんな。】

この言葉は、皇族にずっと語り続けられているが、意味は誰にもわかっていない。」

邪神の奴、未来視は使えないはずよね。ということは、普通に人類の先を読んだんだ。このまま文明を進めると、必ず滅びが来ると悟ったんだ。それに【癌細胞】という言葉、それは地球の言葉だけど4000年以前は文明が進んでいたから、言葉が出来ていても不思議はない。もしかして人類という種を滅ぼさないために、邪神は暴れたのかもしれない。当時の人口をかなり減らし、文明を衰退させれば、確かに人類という種は存続するだろう。だが、その手段は恐ろしく短絡的だ。もしかして、邪神は元人間?

「【癌細胞】ね。邪神の言うことは、あながち間違っていないわ。私の元いた世界に癌細胞という言葉は存在しているの。人は1個の細胞から始まった。簡単に言うと、その1個が分化して増えていき、最終的に人を形成するの。母親のお腹の中でね。ある程度成長すると、外界に出てくる。そして、赤ちゃんから大人へと成長していく。この時、基になった細胞は、数えきれない程に増えていて私達の中で生きているの。当然、私達はそれを認識出来ない。なぜなら、細胞1個は極小サイズだから。通常細胞達は、人の無意識下でだけどきちんと制御されているの。でも月日が経つと、極稀に1個の細胞が制御から離れおかしくなる時がある。」

《ゴク》

「サーシャ、どうおかしくなるんだ?」

ここからは私もよくわからないから、アレンジして話そう。

「制御から離れた細胞は、どんどん増えていき人の中で広がっていく。他の制御下にある細胞を無視して広がった細胞は、やがて制御下にある細胞を巻き込み、そして人は死ぬ。この制御から離れた細胞を癌細胞というの。恐らく、邪神は人自身を癌細胞と見立てたのね。このまま文明が進んでいくと、人はどんどん増えていき、やがて他の動植物を巻き込みスフィアタリアのシステムを壊すだろうと判断したのよ。」

「ちょっと待て、サーシャ!そうすると邪神は人という種を滅びないように、あえて暴れることで文明を衰退させ人の数を減らしたというのか!」

「話を聞いた限り、そうなるわね。」
「----お姉様、そうなると邪神は良いことをしたんですか?」

「いいえ、確かに邪神が暴れたことで、文明が衰退し人の数も減少した。結果的に人という種は滅びなかった。でもね、それは一番やってはいけないことなの。本来なら、スフィアタリアにいるエルフ、ドワーフ、獣人、人間といった人の代表者を集めて話し合いを行い、力を団結して滅亡からの危機を回避しないといけないのよ。でも、それが邪神から見たら、ただのお遊びにしか見えなかったんじゃないかな。恐らく、邪王が50年おきなのも、発達した文明をある程度衰退させるためにあるんだわ。邪王や邪族達は、邪神の真の目的は知らないんじゃないかな。」

邪神の思惑とは関係なく、現在黒幕達が何かをしているんだけどね。

「おいおい今になって、その言葉の意味がわかるとは。」

「私がシュリを守りたいと思ったのは、あなたがガルディア帝国の皇帝になることで、大きな戦争を回避出来ると思ったからよ。まあ、一目見ただけだから直感ね。」

「はは、そいつは嬉しいな。加護ももらったんだ。相応の働きを見せないとな。少し休憩を挟もう。ここから闘技会の話にしたいんだけど、邪神の話が予想以上に重かった。」

「ええ、そうしましょう。そうね、少し早いけどお昼にしましょうか!」

その時、シュリ以外の全員が目を見開いた。
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