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1章 テルミア王国 王都編

旅立ち、目指すはスフィアート

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ギルドを出て時間を確認すると、まだ15時30分だった。夕食まで時間がある。図書館に行って、軽く調べてみよう。

「フィン、夕食まで時間があるから、図書館に行って女神について調べてみるわ。」

「女神スフィア様のことをですか?スフィア様に関しては、私も結構勉強しているので、お教えできると思います。」

「本当助かるわ。私が知りたいのは、この世界の歴史よ。女神スフィア、邪王そして邪神についてね。」

「邪神?リッチの時も言ってましたよね。邪神ているんですか?」

「いるわ。リッチも認めていたでしょ。私が邪神を知っていたこともあって、簡単に掌握出来たと思う。図書館に4000年前の出来事が載っている文献があればいいんだけどね。」

実際は、私自身が邪神だから、リッチを簡単に掌握出来たんでしょうね。
ただ、邪神の言っていた4000年が、こちらでは何年なのかがわからないのよね。

「4000年前!そんな古い文献ありませんよ。私が王国で習ったのは1000年前の邪王発生の時からです。なんでも、それ以前のものは、その時の戦いで焼失したそうです。どの王国も同じで、王宮に保管されている最古の文献は1000年前の物です。私の知っている限り、邪神という言葉はありませんでした。」

1000年前までの文献しかないか。それで邪神という言葉が出てこない。そうなると、本当に4000年になるのかな?まあいいか、1つ言えるのは、いきなり手掛かりがなくなったことだ。文献が手に入らないとなると、あとは----------遺跡か。

「そうなると、後は世界各地の遺跡を調べていくしかないわね。一応、図書館に行きましょう。念のため調べておきたいわ。」


結局、邪神や女神サリアに繋がる手掛かりとなる文献はなかった。でも、女神スフィアや邪王については、いくつかわかったわ。

1) この異世界スフィアタリアを創ったのが女神スフィアである。
2) 人間、獣人、ドワーフ、エルフ、魔族、計5つの種族を創った神がスフィアである。
3) 初めてスフィアが下界に降り立った場所がスフィアートで、スフィア教の本部がある。
4) 1000年前に邪王と邪族が発生。原因は、上記5種族による戦争。

大まかに分けると、こんな感じか。
こうなってくると、邪神に関してはリッチに聞こう。
女神サリアに関しては保留ね。一体何者なの?

ただ、今回調べたおかげで、1つわかったことがある。ステータスやスキルのシステムを創ったのは、女神スフィアだ。おそらく、女神サリアは、そのシステムに介入して、碌に調べもせず、あの「無能」を与えたんだ。邪心薬にしても、元々は邪族ウルブスが創ったけど、それをサリアが入手して、どんな作用があるのか、きちんと調査せず、そのまま私に使用した。なんか、思い返すと腹が立ってきた。


遺跡に関しては、王都周辺にはなく、南のスフィアートに行けば、古い遺跡が2ヶ所あるらしい。まあ、まずはこの2つを調査ね。さて、そろそろ時間ね。宿屋に戻って、今後の予定を立ててから夕食を食べましょう。


ひょっとこ屋に到着し、一旦部屋に戻った。

「フィン、今後の予定だけど、まずは南のスフィアートに行きましょう。そこで行うのは2つ。1つ目はDクラスのダンジョンでフィンを強化すること、2つ目は遺跡の調査。さっき調べた限り、どうも遺跡もダンジョン化しているらしくて、2つの遺跡のうち、1つはCクラス、もう1つはDクラスとなっているわ。だから、フィンの強化を最優先に行う。」

「うう、完全に足手まといになってますね、すいません。」

「何言ってるのよ。それは今だけよ。今後、どんどん強くしていきますからね。」

「はい、頑張ります。あ、7日後のオークションはどうするんですか?」

「ああ、オークションには参加しないけど、10日程したら1度ここに戻るわ。私は転移魔法が使えるから問題ないしね。ただし、一度行ったことがある場所に限られるけど。」

「ふぇ~~転移魔法!伝説の魔法じゃないですか。文献に載ってるだけで、どうやって修得するか未だ不明の魔法ですよ。」

転移魔法、伝説レベルなの!あ、時空魔法の存在を知らないからだ。

「あ~、それね、フィンは上位魔法を知っているわよね。」
「はい、炎、氷、震、雷、嵐、聖の6つですよね。」

「それ以外にもあるのよ。空間の上位に時空があるのよ。空間魔法をレベル10にすれば時空魔法を修得出来るはずよ。」

「無理ですよ~。空間魔法自体扱える人が非常に少ないんです。しかも空間魔法はスキルレベルが凄く上がりにくいんです。10なんて、まず無理です!」

ええ、そうなの!人前で転移魔法を使わないようにしよう。

「わ、わかったわ。あなたがそこまで言うなんてよっぽどなのね。」
「はい、でも時空魔法の入手方法は覚えておきます。」

まあ、ここまで色々とあったけど、やっと王都から脱出出来るんだね。野営の準備も出来たし、後は明日ギルドに行って、クロードさんと騎士団の人、多分マーカスさんだと思うけど、説得出来るかどうかだね。王宮なんかに行ったら、どうせ周りの貴族達が騒ぎ出して、フィンが拉致される可能性がある。出来れば、王宮に顔を出さずに脱出したいところだわ。説得の有無次第で、今後の行動が変わるわね。



翌朝、私達は冒険者ギルドに向かい、クロードさんに会いに行った。

部屋に入ると、クロードさんは、予想通りマーカスさんと話し込んでいた。

「お、来たか。こっちは、王宮騎士団団長のマーカスだ。昔は一緒に冒険者として苦楽を共にした仲間だったんだ。」

「騎士団団長のマーカスだ。」
「サーシャと言います。フィンの件についてですか。」

よし、偽装が効いてる。全くわかってないわね。

「クロードさんから、ある程度聞いていると思いますが、今回の件は裏で邪族が絡んでいます。王宮にいけば、周りの貴族達が色々と聞いてくるでしょうし、邪族に情報が漏れる可能性もあります。そうなると、今後様々な連中がフィンを殺しにやってきますので、フィンは私が預かります。」


私の言っている言葉が本気である事をわからせるために、マーカスさんとクロードさんがギリギリ耐えられる【威圧】を放ってやった。

「ぐ、おい、サーシャ、わかったから威圧を解いてくれ。マーカス、これでサーシャの強さがわかっただろ。下手に王宮に置いておくより、サーシャが護ってくれた方が安全だ。」

「はあ、はあ、威圧だけでこれ程とは、仕方がないか。サーシャ、せめて私が納得出来る説明をしてくれ。王にも報告しないといけない。」

当然ね。現状、知っている事を教えてあげよう。私は、クロードさんとマーカスさんにフィンに関する全ての事を話した。

今回の件は、邪族が絡んでいること。
邪族の目的は、神獣の加護を持つフィンを殺害すること。
加護持ちのため、迂闊に近づけないことから、ソフィア・アレンシャルを利用した。
貧民街の獣人達を生贄にリッチを召喚し、ステータス異常を起こした。
念のため、ガルム一味に依頼し、フィンを誘拐させ王都から引き離した。
邪族は、フィンがガルム一味に殺されたと思っている。
私がガルム一味を討伐しフィンを助けた。
私がリッチを掌握し、フィンを呪いから解放した。

ちなみに、これまでフィンが見つからなかったのは、変装の魔導具で姿が変わっていたから。

こんなところかな。
レーデンブルクには、もうリッチが伝えているでしょう。今、混乱しているだろうな。
隠れている邪族を炙り出すためには、フィンが生きている事を伝えるしかない。もしフィンを見つけて私を操ろうとしたら、即抹殺じゃなくて拷問してから抹殺しよう。


「おい、クロード、これは誰にも話すなよ。」
「当たり前だ。こんな大事話せるか!」

「サーシャ納得したよ。クロードから聞いていると思うが、半年程前に貧民街の大量行方不明者、フィン王女の行方不明とステータス異常の件がレーデンブルク王国から世界各国に伝わっていてね。邪族が関わっている事は間違いないため、注意喚起と捜索願いが出ていたんだ。まさか、自分達は一切手を出さず、ソフィア・アレンシャルの恋心を利用して、フィン王女を始末する計画だったとはな。よくあのリッチを掌握できたな。相手はS級だぞ。」

「まあ、極力戦闘は避けたかったので、威圧で脅しました。」

「-----はは、---威圧でか。サーシャ、君は一体何者なんだい?急に現れて、レーデンブルクの事件をほぼ解決に導いている。」

ごめんね、マーカスさん、本当の事は言えないんだ。

「私は、ただの冒険者ですよ。フィンと出会えたのも、単なる偶然なんですから。」

マーカスさんは目を瞑り、じっと考えていた。そして---、

「わかった、そういう事にしておこう。王には、今回の事を伝えておくよ。会って間もないが、君なら信頼出来そうだ。おそらく、周りの貴族がうるさいだろうが、俺とクロードで抑える。これからどこに向かうんだい?」

「スフィアートです。そこで、フィンを鍛えようと思います。ここのDクラスのダンジョンは、なぜか立入禁止になっているので。最終目的地は、レーデンブルクです。」

「そうか、ここからレーデンブルクは、かなり遠いから道中気を付けてな。ただ、邪王の封印が弱まってきている今だからこそ、邪族は活発に動いてくるはずだ。充分に注意して、旅に出てくれ。」

相変わらず、仲間想いだね、マーカスさん。

「はい、ありがとうございます。」

よし、無理矢理だけど、2人の説得に成功した。
この後、クロードさんにもお礼を言い、冒険者ギルドを出て行った。

そうそう、レインさんにもお礼を言いたかったけど、依頼遂行中のため王都にいなかった。まあ、10日から2週間程で戻ってくるから、その時に言えばいいかな。


ひょっとこ屋に戻り、カイルとゲイルさんに今日でお別れであることを伝えた。

「スフィアートか、また急だな。」
「そんなフィンも行くの?」

ここでの目的を果たせたこと、スフィアートに遺跡があるので調査に行く事を伝えた。

「そうか、寂しくなるな。サーシャの創った新作料理は俺達に任せろ。絶対に王都に広めてやるからな。特にプリンは女性の支持が凄い。」

料理、広まればいいけどね。

「7日後にオークションがあるので、そうですね、2週間くらいしたら一度戻ってきます。」

「馬車で4日程かかるぞ。6日間しか滞在出来ないじゃないか。」

「それに関しては大丈夫です。考えがありますので。」

カイルもフィンとのお別れの挨拶は済んだみたいね。

「それじゃあ、ゲイルさん、カイル、短い間でしたがお世話になりました。」
「ああ、サーシャなら大丈夫だろう。とはいえ、気を付けて行けよ。」

「フィン、王都に戻ってきたら、またここに泊まってね。」
「うん、ここは凄く落ち着くもん。王都に戻ってきたら、また来るから、じゃあね。」



さあて、いよいよ王都とお別れね。目指すはスフィアート。
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