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第二章 波乱の魔導具品評会

十七話 試験的運用

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 ティアナ・アレイザード、完全復活よ!!
 私は学園中等部の正門前にて、堂々とした出で立ち(学園服)で、校舎を眺める。

【知恵熱で二日】
【事件後の療養で二日】
【プライズ《次元設計士》に関する対策で一日】

 計五日も学園に行けずじまい。
 一応、キューブの件で帰還した際に行ってはいるけど、あれは該当されない。

「う~寒い。ささっと、校舎内に入ろう」

 この世界にも、地球同様に四季はある。
 一年が三百六十日、春夏秋冬、それぞれが三ヶ月ずつある。
 今の時期は冬の厳寒期、日本でいうところの二月に値する。

 皆も寒いせいか、冬服の上にコートを着用して登校している。
 これだけ寒いにも関わらず、運動部の生徒たちは寒い中朝練しているわね。
 校舎全体が暖房で暖かいから、早く中に入ろう。

 私の所属する魔導具開発クラブは、三週間後には品評会が控えているから、今が一番忙しなく動いているはず。早く進行状況を知りたいから、すぐに部室へ行きたいところだけど、これだけ注目を浴びている中を歩いていくのも、勇気がいるわね。正門入口のど真ん中に佇んでいるだけで、校庭方向からかなりの視線を感じるもの。

 この三日間で事態が大きく進み、《キューブからの初生還》は私の実績となり、世間を大きく騒がせた。その間、私自身はずっと王城にいたけど、これまでと違い話し相手が増えたことに驚いた。お父様・お母様・クエンタ・ルミネの四人以外にも、王城で働く貴族たちも私に話しかけてくるようになる。

 この九年の間で、私は人に不信感を持ち、上部だけの言葉を信じなくなった。むしろ、その言葉に隠されている真意を探るようになったことで、その人の持つ人間性を理解できるようになった。だから、これまでの陰口に対して正式に謝罪し、私との仲を深めようとする貴族たちの中にも、私というよりキューブに気に入られようと媚びを売ってくる連中を見分けることができ、そういった連中とは上部だけの付き合いにしている。

 学園で感じる視線から察するに、嫌悪や侮蔑といったものはないけど、キューブをネックレスとして常に身につけているせいで、皆が私とどう接したらいいのか当惑しているってところかな? こうも皆からジロジロ見られると、流石に不愉快なのだけど?

「ティアナ様」

 ルミネが物凄く冷めた瞳で、私を見てくる。
 それこそ、周囲が吹雪いているかのような凍える瞳だわ。

「どうしたのルミネ?」

 寮にある私の部屋は、一般貴族仕様の二人部屋だけど、欠陥品ということもあり、ルームメイトはいない。今回、ルミネがそこに入ると決まったから、今朝から機嫌も良かったのに。

 どうしたのよ?

「この視線の主たちを、全員抹殺しても宜しいでしょうか?」
「ダメに決まっているでしょうが!?」
「ち‼︎」

 恐ろしいことを言うものだから、つい私は声を張り上げる。
 しかも、舌打ちしているし‼︎
 ルミネって、こんな女性だったかしら?

「それならば、仕方ありません。一旦、私は寮へ行き、掃除を行っておきます。その後、授業が終わるまで、情報収集をしておきます。流石に、初日で何か起きるとは思いませんが、呉々も御用心を」

 継承者の件を知られていないから、今の時点では何も起こらないでしょう。

「了解よ」

 さて、私も校舎に入って、教室へ向かいますか。

「あ、ティアナ…様、おはよう…ございます」

 後方から変な挨拶をされたので振り返ると、私のクラスメイト・スウェンがいた。彼は騎士志望の平民の男性、私とも気心の知れた仲でもある。

「おはよう、スウェン。あのね、魔力が復活したとはいえ、これまで通りの話し方でいいわよ。私的には、卒論をクリアしてもタメで話してほしいけど」

 基本、学園の中は身分に関係なく、皆平等とされている。私はそれを盾にして、クラスメイトの平民の子たちには、タメで話すように言っている。

「いや、それはダメだろう‼︎」
「そう、それでいいのよ」
「はあ、わかったよ。元気そうで何よりだ」

 あれ? 声に、張りがない。

「そっちは元気ないわね、何かあったの?」

 彼は、学生鞄以外にも、少し縦長の袋を持っている。
 形状から判断すると、多分剣が入っているわね。

「愛用の長剣が、遂に壊れた。行きつけの武器屋で診てもらったら、修理不可能と言われたよ」

 ああ、なるほど。彼の剣は、中等部入学の際に父親から記念に贈られたものと聞いている。三年間ずっと使用して、遂に耐久限界を迎えたのね。それだけ使い続ければ、愛着も持つわ。

「ほら、これさ」

 スウェンと私は、校庭の傍に設置されている噴水近くのベンチに行き、鞘から折れた長剣を引き抜いてもらった。

「あら~見事にボキッと折れているわね。よく見たら、あちこちにヒビも入ってるじゃない。素人の私が見ても、金属そのものが疲労して限界を迎えたって感じるわ」

 私も中等部一年の時に、新品の剣を見せてもらったけど、当時と比べると、剣も輝きを無くしており、柄もかなりくたびれた感じになっている。

「正にその通り、もう寿命なんだとさ」

 寿命……ということは、もう廃棄するってことよね?
 これは……使える‼︎

「ねえスウェン、その剣なんだけど買い取っていいかしら?」

 突然、私がおかしなことを言うものだから、彼は怪訝な顔をする。

「買い取る? この折れた鉄製の剣を? ここまでボロなら二束三文にもならないから構わないけど……一応聞くけど、何に使うのさ?」

 ふふふ、そりゃあ勿論、この剣をプライズ《次元設計士》の試験運用に使わせてもらのよ。

 まだ、プライズ自体を正式に起動させていないから、こういった武器類を修繕可能かは不明だけど、実際に物があれば、色々と試せるもの。

「ちょっとしたツテがあってね。知り合いに、こういった損耗度100%のものでも、修繕できる技術を持っている人がいるの。ただし、かなり特殊な技法を使うから、失敗したら木っ端微塵になるわ。だから、まずは買い取ろうかなと」

 初めて使うのだから、最悪修繕できずに、原型を留めないほど歪む可能性もある。ここは、買い取っておくのがベストよね。

「もしかして…《プライズ》か《ギフト》持ちの人? それなら、正式に僕から依頼するよ。いくら、払えばいいかな?」

 おおっと、そうきたか。

「お金はいらないわ。その人も入手したばかりで、成功率がゼロに等しいのよ。今回は試験運用だから、買い取る形にしたいの」

「ううん……それなら失敗しても、お金はいらない。その代わり、成功したら僕の手元に戻ってくるていう案はどうかな?」

 いいわね。
 それなら、私も気兼ねなく好き放題できるわ。

「OK、それでいきましょう」
「交渉成立だ」

 私とスウェンは、互いに握手を交わす。

 ふふふ、普通にプライズを起動させて確認するだけでもいいのだけど、それだとつまらない。説明を見た限り、何かを創造する場合は設計図を描かないといけないから、それも面倒臭い。でも、この武器の修繕とかなら、設計図が必要であっても物自体があるから描きやすいし、応用も効くし、試験運用にピッタリだわ。
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