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5章 猫の恩返し

67話 部下5人の受難 *アレス視点

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僕たちが、式神の鳥の降り立った地へ到着すると、そこには顔色の悪いザフィルドの部下5名と、人間2名、獣人1名、ダークエルフ1名の折り重なる屍らしき山の上に、ルウリが止まっていた。僕の見る限り、部下5名はかなり疲れているだけで、何処にも異常はないと思える。

なんだ、この構図は?
一体、何が起きているんだ?

「やあアレス、ご機嫌は如何かな?」
「ルウリ……この場を見た僕たちへの質問がそれなのかい?」

とりあえず、ザフィルドの部下たちが生きているのは間違いない。
操られているわけでもなさそうだ。

ハミングバードに擬態したフェアリーバードのルウリ、僕の方から色々と聞き出した方が良さそうだ。

「悪いね。領主邸が崩壊した際に検知した怪しい波長を追っていたら、1人のダークエルフに行き当たってね。そいつを空と陸から尾行していると、街外れでお仲間の男(人間)と合流したから、そこでちょ~~っと尋問している時に、そこの5人がやって来たのさ」

ターゲットを見つけて追跡したら、ルウリと鉢合わせしたのか‼︎ 

僕たちはリリアムの街へ到着した際、すぐに宿泊施設となる宿屋へ行き、今後のスケジュールを相談し合ってから、部下5名とは別れた。咲耶のいるベイツさんの家には、僕とザフィルドだけで行き、訪問当初いたルウリとベイツさんに僕の素性を明かし、二人に認められたことで、ルウリが霊鳥[フェアリーバード]で、咲耶の従魔であることを知った。その際、部下5人と来ていることだけは、二人に伝えていたけど、まさかルウリと部下5名が、こんな形で巡り会うとは思わなかった。

「君達のターゲットは、このダークエルフだと事前に聞いていたから、昨日の時点で、こいつとそのお仲間を差し出す代わりに、僕から交換条件を出したのさ」

交換条件?
フェアリーバードに、何を要求されたんだ?

「な~に、簡単な願いだよ。猫たちが咲耶と定期連絡をとった後も、スパイを2名見つけてね。偵察中の猫たちだけでは太刀打ちできない相手だったから、その捕縛をそこの疲れきっている5名にお願いしたんだ。期限は今日の正午、見事捕縛した場合に限り、ダークエルフたちを引き渡す約束さ」

スパイの捕縛? それが交換条件なのなら、どうしてここまで疲れているんだ? その2名が、相当な使い手だったのか?

「僕的には、その日のうちに捕縛して欲しかったから、現在の潜伏場所を教えてやったのに、この5名は時間をかけ過ぎなんだよ。まさか、こんなギリギリになるまで連絡がないなんて、僕も驚いた。まあ、それまでこのダークエルフたちと遊んで心を折って、知りたい情報を全て搾取したから、良い暇つぶしにはなったけどさ」

暇つぶしって、あのダークエルフはフォルナルト公爵家の政敵、ダルモルム侯爵家の雇った凄腕暗殺者と父から聞いている。それを遊び相手にして心を折るって、ルウリはどれほどの強さなんだ?

「約束通り、こいつらをやるよ」

ルウリは風魔法で、気絶しているダークエルフと人間の男をポイっと僕とザフィルドに向けて投げ出す。こちらに転がり、顔を確認すると、父から貰った手配書に載っているダークエルフと完全に一致していた。ただ、手配書には風格と威圧感漂う人相となっているけど、この場にいる男は服装もボロボロで、風格と威圧感だけを破壊したような何の威厳もないものへと変化している。

「君達もご苦労様。これで任務完了だ。僕は君達の行動をずっと監視していたけど、動きが緩慢で、捕縛までの連携も下手くそだ。一応、実戦慣れし個々の強さもそこそこだけど、こういった2流スパイの捕縛程度で難儀しているようじゃあ、まだまだだね。もっと、多種多様な訓練をすべきだと忠告しておこう」

最後にルウリから痛烈なアドバイスを受けたことで、5人の顔色が更に悪くなった。多分、彼らはここで合流した時も、今のような胸を抉るようなアドバイスをされてきたのかもしれないな。

部下5名はふらつきながら、こちらへ向かってくる。それを見たザフィルドも気の毒そうな顔を浮かべ、労いの言葉をかけていく。一応、僕からも『任務ご苦労様。今日一日、君達はゆっくり休むといい』とだけ言っておいた。僕の目から見ても、5人全員が寝不足で、疲労困憊のように見えたからだ。多分、一睡もせず、捕縛に尽力してくれたのだろう。5人は僕たちに連絡を怠った謝罪をすると、この場から幽霊のようなフラフラした足取りで離れていった。

「ここで気絶している連中には、僕の魔法による枷を両手足に付けさせて、魔法もスキルも封印させている。明日の18時までの効果だから、それまでに君達の用意した枷を付けることをお勧めするよ」

手配書に載るダークエルフの捕縛、これはザフィルドたちが受け持った任務だ。僕の裏の目的は、自分の任務を行いつつ、彼の指揮系統をきちんと観察し、捕縛までの過程を学ぶことにある。今回、ルウリと猫たちが、その過程を根こそぎ奪ったようなものだけど、これはこれで勉強になる。

父上、僕はここへ来て良かったと心底思うよ。
父上の言った通り、僕の視野は狭い。

『アレス、本気か?』
『ああ、本気さ。僕は、リリアーナに会いに行く‼︎』
『会ってどうする? 彼女は平民だ。身分が釣り合わない以上、結ばれることはゼロに等しい』

『そんな事はわかっているさ。でも、僕なりのケジメをつけたいんだ‼︎』

あの時、僕はリリアーナの記事を見て、すぐに父上に直談判した。

『辺境の街リリアム、少々危険だが、視野の狭い今のお前にはうってつけか……言いだろう。リリアーナに会い、自分なりのケジメをつけてこい』

『良いんですか!?』

『その代わり、お前には二つの任務を与える。一つ目、王都の露店を発展させる新規料理を見つけること。二つ目、ザフィルドに任せたもう一つの任務を観察すること。舞台の外側から見ることで、自分の視野の狭さと足りないものが何なのかを把握しろ』

自慢じゃないけど、僕には魔法に関わる才能があった。今の時点で、僕の実力と技量は、同年代の中でもトップクラスだと自負している。これまでの教育で、人を束ねることの大切さを知ったけど、それでも最後に物を言うのは[力]と[カリスマ性]だ。力がなければ誰も認めてくれないし、カリスマがなければ、誰も僕に付いてこない。

だから、自分の視野の狭さに気づけなかった。
だって、そうだろ? 

戦闘訓練を受けていない咲耶が、フェアリーバード、猫又、大樹の精霊を従魔にしているし、その配下に大勢の猫たちもいる。しかも、猫たちは咲耶に絶対服従し、力による歪な関係ではなく、互いを信頼し合う強固な絆を形成している。おまけに、咲耶は目覚めたスキルを使い、猫に教育を施し、人とのコミニュケーションを図り、街の人々と融和関係を作り出している。そのおかげで、長年世界中を苦しめてきたテンタクルオクトパスのヌメリに対して一石を投じてくれた。このお手柄も、咲耶がこの街に滞在しているからこそ起きたものだ。10歳の記憶喪失少女自身は何もしていないと思っているようだけど、彼女は間接的に街の平和を維持してくれている。

かつて、こんなやり方で街に安寧をもたらす者はいたか?

【力こそ正義】、これは僕も正しいと思っている。でも、自分や家の持つ【力】を高めることばかり考えていたけど、何も自分自身が最強になる必要はない。咲耶のようなやり方で、力……いや友との絆を強めることもできるのだから。まあ、肝心の咲耶自身は、そういった力や絆のことに関しては無頓着な気もするけど。

「ルウリ、助言をありがとう。ところで、咲耶はこの件に関わってるのかい?」

「あははは、関わらせているわけないだろ。ベイツが彼女に、この騒動の原因について、軽く話している。10歳で記憶喪失である以上、家族の案件ならともかく、今はまだこういった事に深く触れさせないよ」

家族の案件か、ルウリとフリードに出会ったことで、僕たちはフェルデナンド伯爵家で起きた騒動と、今王都で騒がれている犯罪に手を染めた貴族たちの検挙、これらが2体の仕業だと聞いてはいたけど、こうやって力を示すことで事実なんだと嫌でもわかる。この2体は、王族と関わり合いがあるからこそ、王族側も2体からもたらされる情報と証拠を裏付け調査をすることで信じ、貴族を検挙している。

政敵でもあるダルモルム侯爵家は、フェルデナンド伯爵の持つ裏情報を心底恐れている。貴族たちの検挙についても、時期を考慮すると、伯爵が王家に暴露していることを仮定すれば、あの迅速な検挙もわかる。侯爵側はどう知ったのか不明だけど、彼がこの街に滞在していることを知り、暗殺者を送った。僕たちはそれを知ったからこそ、伯爵暗殺を未然に防ぐため、この街へ来た。でも、まさかあんな大胆な方法で暗殺を実行してくるなんて、夢にも思わなかった。

この街へ来て、本当によかった。
咲耶とも出会えたし、僕自身の視野も広がったのだから。
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