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本編

29話 イザークの抱える事情 *イザーク視点

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おいおい、冗談だろ?
リコッタが、見たことのない可愛い4本足の獣になりやがったぞ。
その瞬間、2人の騎士たちが部屋に入ってきた。
1人は40歳前後、残る1人は30歳くらいか?
リーダーと思わしき40歳くらいの男が、俺に睨みを効かす。
ガタイといい、洗練された動きといい、こいつはかなりの手練れだな。

「私は治安騎士団隊長のウォーレンだ。君の名は?」

そうか、奴らはリコッタのこの変身能力を知らないのか。リコッタは穏便に逃げたいことを選び、この姿になったのなら、俺もそれに合わせるか。

「イザークです。リコッタの動向が気になり、15分ほど前にこの部屋に入りました。しかし、部屋の中は誰もおらず、従魔を召喚し、何処に逃げたのかを探っていたところです」

ウォーレンは招待客のリストを持っていたようで、俺の名前を探している。

「それはまずいな。イザークと言ったな? ……招待客のリストにないが、スキル《鑑定》の持ち主で雇われた身か。それで、この部屋で何か手掛かりを見つけたか?」

相手が魔族の場合、迅速に動かないと国外に逃げられれてしまう。
にも関わらず、ここにいる2人は、それ程の焦りを見せていない。
階下で聞いた通り、こいつらは全てを知っている。

大方、8歳だから適当に言いくるめて拘束しようと思っていたんだろ?
逃走されたとしても、どこに行くかは想像が付いているんだろ?

「いいえ、何も見つかりませんでした。ウォーレン隊長、俺はあの案を聞いた後、所要があり、早めに邸を出ましたので、その後どう改案されたのかを知りません。2人の処遇を教えて頂けませんか?」

「すまんが、教えられない。どこで情報が漏れるかわからんからな」

ち、予想通りだよ‼︎
さて、どう行動したもんかね。


○○○


今、俺はリコッタ(愛玩形態)と共に、乗合馬車で彼女の親友カトレアのもとへ向かっている。俺たち以外の客はいない。宿で遭遇した治安騎士たちには、『リコッタの行きそうな場所には、検討がつきます。カトレアのいる《鉱山》でしょう。俺も、彼女たちの動向が気になるので、馬車で行くつもりです』と言ったら、奴らも納得して、その場からいなくなった。あの時点で誤魔化してしまうと、俺が怪しまれてしまい、監視が付いてしまう。どうせ別働隊が向かっているのだから、真実を言っても問題ない。ただ、リコッタの親友、カトレアの安否が気にかかる。

「イザークさん、あなたはどうしてそこまで私たちに味方してくれるのですか?」

小さな獣になったリコッタが、俺に質問してきた。
どうして…か。

「俺にとって、リットは大切な女性だった。半年前に告白だってしたが、まだ返事をもらっていない。あの時、彼女は『私には復讐したい相手がいるの。その相手を殺した後でも、獣人の私を好きでいてくれるのなら、もう1度告白して』と言われたのさ」

くそ、半年前の出来事だが、復讐したい相手が誰なのかを追求しておくべきだった。あいつは、俺を巻き込みたくないからと頑なにその名前を告げなかった。だから、あれ以降、その話をやめたんだ。

「リットはリコッタについても、俺に話してくれたよ。『真面目で良い子、鍛え方次第で世界も狙える』ってな。優秀な弟子を持った気持ちもわかるが、流石に言い過ぎだと思ったよ」

あの時点で俺が知っていたのはスキル《絶対嗅覚》のみ、だから世界は言い過ぎだと本気で思った。

「あはは・・・言い過ぎですね」
「俺は、街の連中の欲望を垣間見たし、リットの遺体があるにも関わらず、胸糞悪い話をする街の連中に嫌気が差したのさ。さあ、鉱山入口も近い。リコッタはここから下りて、走ってくるんだ。いいか、カトレアの状態を見ても、絶対に感情を乱すなよ」

乗合馬車の馭者は事情を何も知らないから、巻き込んでしまうのは気の毒だ。馬車の中で彼女のスキル《身体硬健》と《獣化》についても聞いたが、強力なスキルではある。リットの言う通り、鍛え方次第で冒険者のトップランカーを狙える。

「了解です!!」

彼女は愛玩形態のまま、走っている馬車から飛び降りたが、怪我を負うとこともなく、方向転換してこちらへ走ってきている。速度的に考えて、俺より10分ほど遅い到着になるな。

治安騎士の連中は、カトレアを人質にして、リコッタの到着を待っているはずだ。問題は、そこからどう行動するかだな。騎士たちの動向次第で、こちらの動きも大きく変わる。俺自身、ギルド側の決めた虚実の全てを知らないから、まずはそこを追求し、リコッタとカトレアの処遇を聞こう。2人の子供が拘束されるのだから、その理由を教えてくれるだろう。


……リコッタを下ろしてから、5分ほどで鉱山に到着した。


俺は乗合馬車の中から、外の様子を見た。5人の治安騎士たちが鉱山入口に佇み、そのうちの1人が7~8歳くらいの少女を見張っている。

あの子が、リコッタの親友カトレアか。
可哀想に、震えているじゃないか。

拘束こそしていないが、逃げられないようご丁寧に罪人用の懲罰首輪を付けて、彼女の魔法とスキルを封印し、猿轡で喋らせないようにもしている。

鉱山側の人々は近場にいない。大方、騒ぎにならないよう、自分達から遠ざけたのかもな。リコッタの話によると、施設長のオルフェンは2人の身を大切に考えてくれる人間だと聞いているから、後方に設置されているテント付近で、こちらの動向を窺っているかもな。

俺は乗合馬車を降り、騎士たちのもとへ向かう。馬で先回りしたのか、宿で出会った隊長のウォーレンがいるから、奴に話しかけてみよう。今なら、全てを語ってくれるかもしれない。

「ウォーレン隊長、何の力もない8歳の子供に、何をしているんですか?」

「この幼児は、人間に化けた魔族カトレアだ。全く忌々しい、早く魔道具《懲罰防》に入れたいところだが、リコッタを待たんとな」

魔物が高い知能と魔力を持つことで、稀に人化することがある。《人化した魔物》-魔族は、個々に差異はあるものの、力が異様に向上し、人々に恐怖を齎す。魔族によって滅ぼされた国はいくつもあり、いつしか人々の天敵とも言われ、忌み嫌われるようになった。魔族と発覚し拘束されたら最後、魔法やスキルを封じられ、一生牢屋の中で過ごすか、斬首刑のどちらかだと、どの国でも決まっている。

「それが、ギルドマスターたちの出した結論ですか?」

「そうだ。昨日の騒動で2人が死に、目撃者も100名以上、誰が何を言おうとも、言い逃れは不可能だ。鉱山とパーティーで起きた事件に関与し、死んでも誰も悲しまない人物を探った結果、2人が犯人として選ばれた。魔族に仕立て上げれば、問題ないとのことだ」

問題大ありなんだよ‼︎

「2人の人生が、どうなるのか理解した上で言っているんですか?」

5人の騎士のうち、カトレアたちに同情したのは、宿で出会った2人の騎士だけか。残り3人は、それを聞いてもニヤニヤしていやがる。状況を、完全に楽しんでいるな。

「街は、液体金属の入手により活気ずくんだ。街の治安騎士団である以上、俺たちは街に不利益となる輩を排除せねばならん。わかってくれ」

街の活性化と謳っているが、結局のところ私利私欲に駆られているだけだろうが‼︎ 2人を拘束して実績をあげれば、あわよくば液体金属そのものを入手できるかもと思っているのだろう。あれは数ミリサイズの大きさであっても、加工次第で金貨100枚以上の値打ちになるからな。

俺なりにこの子たちを救える策を考えていたが、全く思い浮かばない。
あの騒動で、双方に不利益を被らせない策なんてあるのか? 

情報が街に広まらないうちに、何か手を打ちたい。
どうすれば、この難局を乗り越えられる?

「イザーク、ようやく目当ての人物が到着したようだ」

俺は後方を向くと、息を切らしたリコッタ(獣人)がこちらへ向かって来ている。彼女がこちらの状況を把握したのか、視線がカトレアを捕縛している1人の騎士に固定された。

おいおい、馬車の中で俺の忠告を聞いていたよな?
『絶対に感情を乱すな』と言った俺の忠告に、力強く返事したよな?
君は、まだスキルを使いこなせていないだろ?
カトレアが近くにいるんだから、1人で突っ込むなよ。

「カトレア~~~~~~」

なんか…速度がどんどん向上していないか?
リコッタを捕まえ…速い!!
俺を一瞬で抜き去り、ウォーレン騎士隊長のもとへ行ったぞ!!

「君がリコッ……」

話しかけているのに、それをサクッと無視して、カトレアのもとに突き進んでいる。

「カトレアを離しやがれです~~この悪党~~~~」

うお、急激に加速したぞ!!
俺の目でも、追いきれねえ!?

「え…ぐほ~~~~~~~~」

嘘だろ……強烈な飛び蹴りを騎士の腹にぶち当てたぞ。しかも、その騎士はその一撃のせいで、そのまま20メートルほど後方に吹っ飛ばせやがった。奴らの着用している鎧は軽装であるものの、ミスリル製だったはず、瞬間しか見ていなかったが、粉々に砕けたような?

これがスキル《身体硬健》の力か。

スキル発動時、攻撃力は未知数と聞いていたが、これ程とは。
吹っ飛んだ騎士は、生きているのか?
まずい、状況が読めなくなってきた。
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