11 / 23
第二章
ニ、
しおりを挟む
パソコンの画面が眩しい。もうそんな時間かと時計を見るが、まだ二時を少し過ぎた頃だった。
部屋を見渡してみて気がつく。このどんよりとした暗さは陽が落ちる暗さではない。
もう降るのか。
そう思いながらリモコンで電気を点ける。
しばらくして、やけに静かになった。それが雪であることが、考えずとも分かった。
雪が降るとはしゃぎたくなるのは大人になっても同じらしい。
僕はドキドキとワクワクで頬をほころばせながら雪の音に耳を澄ませる。積もるだろうか、と期待にも似た疑問を浮かべ、ノートパソコンを閉じた。
雪が降るとよく家族で窓の外を眺めていたものだ。家族全員ではしゃいで、積もったら必ず雪だるまを作りに行く。それが僕の一番の楽しみだった。
──いや、僕は雪だるまを作ること自体に楽しみを感じていたのではないのかもしれない。今思い返せば、家族と遊んでいるだけであの頃の僕は楽しんでいた気がする。まあ、それも長くは続かなかったのだが。
離婚すると告げられたとき、僕はさほど驚かなかったのを覚えている。
まだ小学二年生だった妹はずっと嫌だと泣きわめいていたが、僕はやっぱりそうなるんだなと何故か冷静な気持ちで二人を見つめていた。離婚を悲しむよりむしろ、早く離婚してほしいとすら思っていた。なにせ、父と母は毎日のように喧嘩していたのだ。二人の罵声を毎晩聞くたび僕は苦しくて仕方がなかった。
その苦しみからやっと開放される──
そんな気持ちが父と離れることの悲しさを打ち消していた。
そうして、僕の家族はばらばらになったまま、今に至る。父が今何をしているのか、どこにいるのか、それは誰も知らない。僕もあれっきり音沙汰も何もないまま、その後のことは何も分からなかった。もしかしたらこの世界の何処かでぽっくり逝っているんじゃないかと、頭の片隅で思う。
──いや、そうなっていればいいのに。
ドキッとした。
しんしんと雪が降る。エアコンを点けていても、痛いほどの寒さは僕を掴んで逃さない。
そういえば、雪は音が鳴らないのに、何故“しんしん”という擬音語があるのだろう。
誰かに聞かれたことがあるような疑問がふと浮かぶ。
この質問に、僕は上手く答えられるだろうか。想像力も何もない今の僕の頭に、その答えは出てこない。
きみなら答えられていただろうにな……。
昔を懐かしむ気持ちが心の中でぐるぐると巡る。
またもう一度会いたい。
未練がないなんて嘘だ。
もう一度、また、見つめたい。
そのきらきらと輝く笑顔を。
そのふわふわとした髪の毛を。
しんしんと静かに降り積もる儚い雪のようなきみを。
部屋を見渡してみて気がつく。このどんよりとした暗さは陽が落ちる暗さではない。
もう降るのか。
そう思いながらリモコンで電気を点ける。
しばらくして、やけに静かになった。それが雪であることが、考えずとも分かった。
雪が降るとはしゃぎたくなるのは大人になっても同じらしい。
僕はドキドキとワクワクで頬をほころばせながら雪の音に耳を澄ませる。積もるだろうか、と期待にも似た疑問を浮かべ、ノートパソコンを閉じた。
雪が降るとよく家族で窓の外を眺めていたものだ。家族全員ではしゃいで、積もったら必ず雪だるまを作りに行く。それが僕の一番の楽しみだった。
──いや、僕は雪だるまを作ること自体に楽しみを感じていたのではないのかもしれない。今思い返せば、家族と遊んでいるだけであの頃の僕は楽しんでいた気がする。まあ、それも長くは続かなかったのだが。
離婚すると告げられたとき、僕はさほど驚かなかったのを覚えている。
まだ小学二年生だった妹はずっと嫌だと泣きわめいていたが、僕はやっぱりそうなるんだなと何故か冷静な気持ちで二人を見つめていた。離婚を悲しむよりむしろ、早く離婚してほしいとすら思っていた。なにせ、父と母は毎日のように喧嘩していたのだ。二人の罵声を毎晩聞くたび僕は苦しくて仕方がなかった。
その苦しみからやっと開放される──
そんな気持ちが父と離れることの悲しさを打ち消していた。
そうして、僕の家族はばらばらになったまま、今に至る。父が今何をしているのか、どこにいるのか、それは誰も知らない。僕もあれっきり音沙汰も何もないまま、その後のことは何も分からなかった。もしかしたらこの世界の何処かでぽっくり逝っているんじゃないかと、頭の片隅で思う。
──いや、そうなっていればいいのに。
ドキッとした。
しんしんと雪が降る。エアコンを点けていても、痛いほどの寒さは僕を掴んで逃さない。
そういえば、雪は音が鳴らないのに、何故“しんしん”という擬音語があるのだろう。
誰かに聞かれたことがあるような疑問がふと浮かぶ。
この質問に、僕は上手く答えられるだろうか。想像力も何もない今の僕の頭に、その答えは出てこない。
きみなら答えられていただろうにな……。
昔を懐かしむ気持ちが心の中でぐるぐると巡る。
またもう一度会いたい。
未練がないなんて嘘だ。
もう一度、また、見つめたい。
そのきらきらと輝く笑顔を。
そのふわふわとした髪の毛を。
しんしんと静かに降り積もる儚い雪のようなきみを。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お母様と婚姻したければどうぞご自由に!
haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。
「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」
「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」
「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」
会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。
それも家族や友人の前でさえも...
家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。
「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」
吐き捨てるように言われた言葉。
そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。
そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。
そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~
中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。
翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。
けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。
「久我組の若頭だ」
一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。
※R18
※性的描写ありますのでご注意ください
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
特殊作戦群 海外記録
こきフジ
現代文学
陸上自衛隊 特殊作戦群の神谷秀勝2等陸尉らが、国際テロ組織アトラムによる事件を始まるストーリーです。
もちろん特殊作戦群の銃火器、装備、編成はフィクションです。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる