5 / 14
第5話 深まる友情
しおりを挟む
「ピョン太っていうのは、どう?」
『海の上をピョンピョン飛び跳ねるから?』
「そうだよ。でもダサいかな」
『うぅん。ピョン太って名前、最高!』
「じゃぁ、いつもガーガー鳴いているプテラノドンは……」
『ガー子!』
「ガー子!」
二人の口から同じ名前が同時に飛び出したので、ボクたちはしばらくの間、ベッドの上で笑い転げた。リトルの友だちの恐竜たちに名前をつけようと言いだしたのはボクだったが、二人ともこんなにも熱中してしまうなんて。海竜のピョン太に翼竜のガー子。それにトリケラトプスのドン助、パラサウロロフスのプリプリ。おかげで、夕飯に遅れて、姉さんにまた嫌みを言われるところだった。
「最後にあいつだけどさ」階段を下りながら、ボクは自分にだけ見える友だちに問いかけた。「あの大きなブラキオサウルス」
『あぁ。あいつなら、チビでいいかな』
「なんで?」
『だって仲間の中で一番小ちゃかったんだよ』
「えっ?! あれだけ大きいのに。それにチビっていったら……」
『なにが言いたいんだよ、モトヒコ?』
「リトルだって小さいくせに」
『言ったな』
ボクとリトルは声をあげて笑った。
「一人でなにを騒いでるの? そんなところにいないで、早く降りてらっしゃい」
母さんが忙しそうに声をかけてくる。そして「ほら。あんたもテレビばかり観てないで夕飯の支度を手伝いなさい」と、夕食時には珍しく居間でテレビにかじりついてた姉に小言を言った。
「テレビじゃなくて宿題してんの!」
「あら。遊んでるようにしか見えないわよ。さぁ、早く手伝って」
「これは『英会話番組』。宿題で必要なんだから。もう!」
文句を言いながら台所に入ってきた姉は、すれ違いざまにボクの頭を小突くと挑戦的な視線をぶつけてきた。
「受験生と違って、小学生はのん気でいいわね」
「八つ当たりだ!」
『そうだ、そうだ! そんなんじゃ、モテないぞ』
「なんだって?!」
「いい加減になさい!」
母さんの一喝で姉さんとは休戦。母さんは姉さんと仕事を交代して庭で望遠鏡の調整をしている父さんを呼びにいった。
その間、ボクは居間のソファに腰掛けて見るともなしにテレビを眺めていた。画面の中では外国人がテレビセットの喫茶店で、なにやら大げさに手を振り回してしゃべっている。
「リトルはテレビの中で、なにしゃべってるか、わかるの?」
「うん。この前の続きからすると……」
リトルの学習能力にも驚かされるけど、知識欲はもっとスゴい。居間でボクが居眠りしている間も、ボクの耳を使ってテレビでいろいろな勉強することだってある。しかも一度勉強したことは忘れないんだから、宿題に追いまくられたときなんか、特にこのリトルの能力がうらやましくなる。あぁ、こんな力がボクにもあれば……。そうだ!
「ねぇ、リトル」
*
母さんが庭から父さんを早々と引っぱってきてくれたおかげで、家族四人、いや、リトルを含めて五人は、やっと夕食にありつくことができた。
「美味しいね!」
『うん! この肉じゃがは、なんとも言えないよ!』
「黙って食べな」と不機嫌そうな姉。
それを無視して、隣の席にいるリトルに応えるボク。
「特に、玉ねぎと肉の、しっとり感…」
『それにジャガイモのほろほろ感…』
「あら、そう」
母さんは、ボクらの会話を一人言だと思って嬉しそうに返事をする。でも母さんは父さんには油断のならない視線を投げかけ続ける。たまりかねたように父さんが口を開く。
「なぁ、中継だけでも……」
「ダメです」
「私だって我慢してんのよ、父さん。しかも宿題のためでもだよ」
「でも、こんな機会は……」
「『夕食の時はテレビもスマホも使わないこと』これは、あなたが言い出したことです」
「でもなぁ……」
『モトヒコ。お父さんは、そんなにテレビを観たいのかなぁ?』
「男のロマンなんだってさ」
ソワソワし続けだった父さんは食事時間から解放されるや否や、庭に出した望遠鏡までボクを引っぱっていった。
居間ではボクとリトルのいたずらに姉さんが裏返った声で「ありえない!」という言葉を連発している。そりゃそうだろ、あの短時間でリトルが解いた英語の完璧な答えを見たら。
宿題を手に目を白黒させている姉さんの姿が目に浮かぶ。
やったね!
「モトヒコ。これ見てみろ」
「『男のロマン』?」
「その通りだ!」
父さんに促されてボクは望遠鏡をのぞき込んだ。視界の中に小さな火花が散って夜空を駆け下りてくる。と同時に側にいるリトルの気持ちが強ばるのが感じられた。
そうか。隕石の衝突を思い出しちゃったんだな。
「大丈夫だよ」と心の中でボクはリトルに語りかける。
ほどなく、父さんが誰に言うともなく、こうつぶやくのが聞こえた。
「はるばる帰ってきたんだよ、やっと……」
ボクが生まれる遥か前に小惑星探査のため、宇宙へ打ち上げられた探査機ウラシマ3号。ハヤブサやハヤブサ2号、それにオオトリに続いて冒険に出た宇宙の旅人だ。今では、すっかり珍しくなくなってしまった宇宙探査機の帰還。でもウラシマは、たった一人で長い旅を続け、そして、いまやっと故郷に帰ってきたんだ。安らぐことのできる、ただ一つの場所。みんなが待ってる所に。
ボクは思った。あの宇宙探査機はリトルと同じだと。
でも、リトルはいったいどこへ帰っていくんだろう、それとも帰る場所もなく、このままずっと長い旅をし続けるんだろうか……。
もちろんボクの時間がリトルといっしょの旅を許さなくなる時が来ることくらいわかっている。でも、かなうことなら、ずっといっしょに旅をしていたい。そしてリトルが帰るべき場所は、ここであってほしい。
『海の上をピョンピョン飛び跳ねるから?』
「そうだよ。でもダサいかな」
『うぅん。ピョン太って名前、最高!』
「じゃぁ、いつもガーガー鳴いているプテラノドンは……」
『ガー子!』
「ガー子!」
二人の口から同じ名前が同時に飛び出したので、ボクたちはしばらくの間、ベッドの上で笑い転げた。リトルの友だちの恐竜たちに名前をつけようと言いだしたのはボクだったが、二人ともこんなにも熱中してしまうなんて。海竜のピョン太に翼竜のガー子。それにトリケラトプスのドン助、パラサウロロフスのプリプリ。おかげで、夕飯に遅れて、姉さんにまた嫌みを言われるところだった。
「最後にあいつだけどさ」階段を下りながら、ボクは自分にだけ見える友だちに問いかけた。「あの大きなブラキオサウルス」
『あぁ。あいつなら、チビでいいかな』
「なんで?」
『だって仲間の中で一番小ちゃかったんだよ』
「えっ?! あれだけ大きいのに。それにチビっていったら……」
『なにが言いたいんだよ、モトヒコ?』
「リトルだって小さいくせに」
『言ったな』
ボクとリトルは声をあげて笑った。
「一人でなにを騒いでるの? そんなところにいないで、早く降りてらっしゃい」
母さんが忙しそうに声をかけてくる。そして「ほら。あんたもテレビばかり観てないで夕飯の支度を手伝いなさい」と、夕食時には珍しく居間でテレビにかじりついてた姉に小言を言った。
「テレビじゃなくて宿題してんの!」
「あら。遊んでるようにしか見えないわよ。さぁ、早く手伝って」
「これは『英会話番組』。宿題で必要なんだから。もう!」
文句を言いながら台所に入ってきた姉は、すれ違いざまにボクの頭を小突くと挑戦的な視線をぶつけてきた。
「受験生と違って、小学生はのん気でいいわね」
「八つ当たりだ!」
『そうだ、そうだ! そんなんじゃ、モテないぞ』
「なんだって?!」
「いい加減になさい!」
母さんの一喝で姉さんとは休戦。母さんは姉さんと仕事を交代して庭で望遠鏡の調整をしている父さんを呼びにいった。
その間、ボクは居間のソファに腰掛けて見るともなしにテレビを眺めていた。画面の中では外国人がテレビセットの喫茶店で、なにやら大げさに手を振り回してしゃべっている。
「リトルはテレビの中で、なにしゃべってるか、わかるの?」
「うん。この前の続きからすると……」
リトルの学習能力にも驚かされるけど、知識欲はもっとスゴい。居間でボクが居眠りしている間も、ボクの耳を使ってテレビでいろいろな勉強することだってある。しかも一度勉強したことは忘れないんだから、宿題に追いまくられたときなんか、特にこのリトルの能力がうらやましくなる。あぁ、こんな力がボクにもあれば……。そうだ!
「ねぇ、リトル」
*
母さんが庭から父さんを早々と引っぱってきてくれたおかげで、家族四人、いや、リトルを含めて五人は、やっと夕食にありつくことができた。
「美味しいね!」
『うん! この肉じゃがは、なんとも言えないよ!』
「黙って食べな」と不機嫌そうな姉。
それを無視して、隣の席にいるリトルに応えるボク。
「特に、玉ねぎと肉の、しっとり感…」
『それにジャガイモのほろほろ感…』
「あら、そう」
母さんは、ボクらの会話を一人言だと思って嬉しそうに返事をする。でも母さんは父さんには油断のならない視線を投げかけ続ける。たまりかねたように父さんが口を開く。
「なぁ、中継だけでも……」
「ダメです」
「私だって我慢してんのよ、父さん。しかも宿題のためでもだよ」
「でも、こんな機会は……」
「『夕食の時はテレビもスマホも使わないこと』これは、あなたが言い出したことです」
「でもなぁ……」
『モトヒコ。お父さんは、そんなにテレビを観たいのかなぁ?』
「男のロマンなんだってさ」
ソワソワし続けだった父さんは食事時間から解放されるや否や、庭に出した望遠鏡までボクを引っぱっていった。
居間ではボクとリトルのいたずらに姉さんが裏返った声で「ありえない!」という言葉を連発している。そりゃそうだろ、あの短時間でリトルが解いた英語の完璧な答えを見たら。
宿題を手に目を白黒させている姉さんの姿が目に浮かぶ。
やったね!
「モトヒコ。これ見てみろ」
「『男のロマン』?」
「その通りだ!」
父さんに促されてボクは望遠鏡をのぞき込んだ。視界の中に小さな火花が散って夜空を駆け下りてくる。と同時に側にいるリトルの気持ちが強ばるのが感じられた。
そうか。隕石の衝突を思い出しちゃったんだな。
「大丈夫だよ」と心の中でボクはリトルに語りかける。
ほどなく、父さんが誰に言うともなく、こうつぶやくのが聞こえた。
「はるばる帰ってきたんだよ、やっと……」
ボクが生まれる遥か前に小惑星探査のため、宇宙へ打ち上げられた探査機ウラシマ3号。ハヤブサやハヤブサ2号、それにオオトリに続いて冒険に出た宇宙の旅人だ。今では、すっかり珍しくなくなってしまった宇宙探査機の帰還。でもウラシマは、たった一人で長い旅を続け、そして、いまやっと故郷に帰ってきたんだ。安らぐことのできる、ただ一つの場所。みんなが待ってる所に。
ボクは思った。あの宇宙探査機はリトルと同じだと。
でも、リトルはいったいどこへ帰っていくんだろう、それとも帰る場所もなく、このままずっと長い旅をし続けるんだろうか……。
もちろんボクの時間がリトルといっしょの旅を許さなくなる時が来ることくらいわかっている。でも、かなうことなら、ずっといっしょに旅をしていたい。そしてリトルが帰るべき場所は、ここであってほしい。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる