うちのばあちゃん

ネメシス

文字の大きさ
上 下
4 / 6

ばあちゃんは素直じゃない

しおりを挟む


「まったく、毎日毎日ご飯や水をあげる身にもなれってんだよ。ほんと、死んでも手間かけさせる人だよ、このじいさんは」

憎まれ口をたたきながら、ばあちゃんは仏壇にこんもりと盛ったご飯とお水を供えて両手を合わせる。
朝に一度、炊いたご飯やお水を交換してるだけだけど、毎日となるとちょっとしたことでも面倒に感じるものだ。
それでもばあちゃんは違う。
うちに来てからというもの毎朝ちゃんとご飯を炊いて、じいちゃんの写真を飾った仏壇に欠かさずご飯とお水をお供えしている。
多分、実家にいた時からの、ばあちゃんの朝の日課なのだろう。

「(口ではああ言ってても、ちゃんとじいちゃんの事が好きだったんだろうなぁ)」

「……なんだい、その目は」

「いや、別に何も?」

「まったく、じいさんに似てふてぶてしい顔だよ」

ばあちゃんはそう言うと、僕の手を取って仏壇の前に連れて来た。

「ほら、見なよ。このムスッとした仏頂面」

仏壇に置かれたじいちゃんの顔写真を見る。
ばあちゃんの言う通りムスッとしていて、少し怒ってるんじゃないかと思える顔だ。
でも、こんな顔でも別に怒ってるわけじゃないらしい。

「子は親に似るっていうけど、じいさんにもよく似るもんだよ。ほら、じいさんの顔をよく見ときな。将来こんな仏頂面にならないように、顔をしっかり覚えてくんだ。そうすりゃ、こうならないようにって少しは自分で直せるだろ」

「……僕、じいちゃんだけじゃなくて、ばあちゃんの血も入ってるんだけどなぁ」

「じゃあ、あたしをよっく見て育ちな。そしてあたしに似た、賢い大人になるんだよ」

「……ばあちゃんに似たら、めんどくさい大人になりそうだよ」

「はんっ! じいさんに似て、口の減らない子だよ! ……じいさん、あんたがもう少し素直だったら、この子もこうはならなかったんだよ? バカ息子もバカ息子だし。まったく、ほんとどうしようもないね、うちの男どもは」

「……」

口ではそう言うばあちゃんだけど、その顔は少しだけ笑っているように見えた。
いつものような意地悪そうな笑みじゃない、もっと穏やかな笑み。
やっぱり、ばあちゃんは素直じゃない。

「(きっとこんなばあちゃんに、じいちゃんも苦労させられてたんだろうなぁ)」

そう思いながら、僕も仏壇に向かって両手を合わせる。

「(じいちゃん。ばあちゃんは昔と変わらず意地悪で素直じゃないけど、それでも僕によくしてくれてるよ。だからじいちゃんも、天国でも変わらずムスッとした顔のまま僕たちを見守っててね)」

きっとその方が、ばあちゃんも嬉しいと思うから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

私の日常

友利奈緒
青春
特になし

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

続編&対のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

処理中です...