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俺の義妹は面倒臭い
後編
しおりを挟む「あぁ~、買った買った!」
「結局、浴衣一式そろえやがって。なんだかんだ言いつつも買うんだから、いい性格してるよ。てか、余計なもん買いすぎだろ」
浴衣を買い終えた後、行きたかったところを含めてデパートを色々見て回っていたら、結構たくさん買ってしまっていた。
ちなみに玩具屋では登場人物のガチャガチャはやっぱりなかったけど、好きなアニメのフィギュアが出てたから何度も回した。
私の財布の中は、かなり寂しくなっているけど、後悔はしていない。
「女の子はね、腹が立ったら美味しいものを食べるか、衝動買いするか、誰かに愚痴をこぼすものなのよ。覚えておいてね」
「あんまり煩く言うつもりはないけど、程々にな。食べ過ぎれば太るし、買い過ぎれば金は無くなるし、愚痴も言い過ぎれば人に嫌われるぞ」
「……もう煩く言ってるじゃん」
「こんなの全然だろ?」
「……うー」
小言を言われてむくれるけど、実際その通りだから否定できなかった。
沢山買い物をして、私の心は軽くなったけど、同時に財布の中も軽くなっているのだから。
……改めて考えれば、夏祭りの時に使う分、ちゃんとあるだろうか?
そんな心配をしながら、私達は沢山の荷物の入った買い物袋を両手に帰路についていた。
とはいっても、買い物袋は全部義兄さんが持ってくれているけど。
私も自分で持つとは言ったのだけど、義兄さんは女の子にあまり重いものを持たせるもんじゃないとか言って、私の持つ分を肩代わりしてくれているのだ。
口では女の子を気遣っているように聞こえるけど、多分さっきの失言を少し気にしてるだけじゃないかと思う。
さっきは自分でも結構本気で怒ってたという自覚はあるし、義兄さんもそれを察して、ささやかな御機嫌取りをしているというところだろう。
いつもの義兄さんなら、多少重くても自分で買ったものは自分で持たせる人だから。
その時の気分で買い過ぎた私のせいだから、文句なんて言えないのだけど。
「……いつもから、もう少し女の子に優しくしてくれないと、義兄さんも女の子にモテないよ?」
「そうか? そんな厳しく当たってるつもりはないんだけどなぁ」
まぁ、確かに義兄さんはどちらかと言えば優しい方だとは思う。
なんだかんだで無茶じゃないお願いは聞いてくれるし、それに私が病院生活をしていた時だってほとんど毎日お見舞いに来てくれたし。
改めて思えばどちらかと言えばではなく、普通に妹想いの優しい義兄さんだ。
とはいえだ。
「もっと私を甘やかせー! 妹が可愛くないのか―!」
「可愛くない妹のために、あれこれしてやる兄貴はいないだろ。ほれ、見ろ見ろ」
両手を上げて買い物袋を見せつけてくる。
しかし荷物を持ってくれてる理由なんて、さっきのことで察しがついている。
私は誤魔化されないぞ。
「私はね、ぬくぬくと甘やかされて育つタイプなのですよ。栄養をたくさん与えられて、優しさをたくさん貰って、やがて綺麗な花を咲かせるのです」
「だけど花ってさ、結構強いんだぜ。水の少ない荒野にだって、アスファルトに塗り固められてる所にだって、健気に花を咲かすんだから。むしろ水とか栄養をやり過ぎる方が枯れるって聞くな」
「……人それぞれだと思うなぁ」
「優子、甘やかされて育った奴ってのは、得てして碌な大人にならないもんだ。物語の定番だな」
「……むー」
確かに私のよく読む漫画でも、そういう人に限って碌な成長はしてないけど。
しかし納得はしても自分が言われていい気はせず、この野郎と頬を膨らませて義兄さんを睨む。
「まぁ、これも優子にちゃんとした大人になってほしいっていう、兄心ってやつだ。厳しさも、有り難く受け取るがいい」
そう言い、私の頭を軽くポンポンと叩いてくる。
片腕だけでも結構重い荷物を持っているはずなのに、全然辛そうな様子を見せない。
私ならその半分でも同じことは出来ないだろう……ただ私が非力なだけか。
「……あ」
「ん? どした?」
しばらく歩いて、丁度白百合学園の近くを通りかかった時のこと。
私は学園を見て、ふと思い出した。
「ごめん、義兄さん。悪いんだけど、先に帰っててくれない? ちょっと忘れ物したの思い出して」
「忘れ物?」
「うん、小説を図書室に。本当は今度学園に行った時でいいかなって思ってたけど、せっかく近くに来たから」
丁度読んでいる途中で、続きが気になっていたのだ。
次に学園に行った時だと明後日になるし、出来れば近くに来た今のうちに取ってきておきたい。
「そうか。んじゃ、そうするけど……あんまり遅くならないようにな」
「大丈夫だよ、まだ明るいんだし。それにもっと遅い時間に帰る事だってあったじゃない」
今はデパートで思ったよりも時間をくったせいで、空は青から茜色に変わっている途中。
だけど、もっと薄暗い時間に1人で帰る事なんて、今までに何度もあった。
「……まあ、そうなんだけどな」
「でしょ?」
そう言って、少し神妙な顔をする義兄さん。
その表情から、私のことを心配してくれていることは何となくわかる。
義兄さんだけでなくお義父さんやお母さんもだけど、あの事故以来私のことを必要以上に心配してる節がある。
確かに事故にあって意識不明なんてなったら心配するだろうけど、そう何度も事故になんてあってたまるかというのだ。
「私も忘れ物を見つけたらすぐ戻るつもりだし、あんまり心配しないでよ」
「……別に、そんな心配はしてないけどな」
ふいっとそっぽを向く義兄さんに、私は少しだけ頬が緩む。
義兄さんは比較的、お義父さんやお母さんよりは心配してないそぶりを見せている。
家族みんな揃って心配していたら、私に悪いと思ってくれているのだろうか。
不思議なことに、そんな些細な気遣いが意外にうれしかったりするのだ。
◇
図書室に向かうと、すんなり入ることが出来た。
時間的に図書委員も帰るか帰らないかという微妙な所だったけど、鍵が開いているということはまだいるのだろう。
職員室に鍵を借りに行く手間が省けてよかった。
「……って、あれ? 誰もいないじゃん」
図書室に入ると、電気はついていたが誰もいる気配がない。
鍵を閉め忘れたのか、少し出かけているだけか。
そういえば、今日の当番は誰だっただろう。
「まぁ、いいや。さっさと見つけちゃお……えっと、流石にここにはないか。昨日の今日だもんね」
最後に小説を読んでいた場所、図書委員のいつも座っているテーブルを見ると、そこには委員会で使う書類や道具以外に何もなかった。
私以外の図書委員も来てるだろうし、多分、忘れ物置き場にでも置かれているのだろう。
「……探してるのって、これ? 吉永さん」
「ひゃぁ!?」
ふいに静かにかけられた声に、思わず驚きの声を上げる。
咄嗟に声のした方を見ると、そこには女の子が両手で本を大事そうに抱えながら私の方を見つめていた。
「あ、い、いたんですね、深雪さん」
「……うん。驚かせて、ごめんね?」
薄く笑みを浮かべて、静かに言葉を紡ぐ少女。
彼女の名前は、岡園深雪(おかぞのみゆき)さん。
私と同じ図書委員で、2年生の先輩だ。
深雪さんは私より少し身長が高く、夏凛ちゃんより物静かな少女だ。
いや、最近の夏凛ちゃんはなんちゃって物静かな少女だけど。
それに深雪さんは物静かというより、影が薄いという方が合ってる気がする。
だから今日みたく、そこにいても存在に気付かなかったということは何度かあった。
深雪さんは委員会がない日でも、図書室に入り浸っていて本を読んでいる。
実家も古本屋をしてるらしく、仕事の合間も本を手放さない根っからの読書好きらしい。
物静かで影が薄く、小柄で、読書好きな少女とか、少し前の私を見ているようだ。
自分のことを言うわけではないけど、そういう少女って物語のヒロインとして1人はいそうな存在だ。
……まぁ、実際その通りなのだが。
何を隠そうこの深雪さんも、ゲームにおけるヒロインの1人だったりする。
どういう因果か、私って“あたし”が入る前から、主人公やヒロイン達と色々関りがあるようなのだ。
しかも深雪さんもそうだけど、普通に仲がいいと来た。
ほんと、どういう立ち位置なのだろうか私は
ちなみに深雪さんとは、図書委員会に入ってからの付き合いだ。
といっても入ってから、すぐ仲良くなったわけではない。
放課後の図書室で気になる本を見つけて手に取ろうとした時、偶然にも深雪さんと手が触れあったという、どこぞの恋愛小説にありそうな切っ掛けだった。
それから好きな本の話をしたり、おすすめの本を教え合ったりしている。
灯里ちゃん達のように一緒に出掛けたりといったことはしてないけど、普通に友達と呼べるくらいの仲だと私は思っている。
「……それで、吉永さんが探してるのって、これであってる?」
「あ、はい、それです」
深雪さんが本を少し上げて見せてくる。
それは確かに私が探していた小説だった。
その本を丁度深雪さんが持っているということは、もしかして読んでいたのだろうか。
「……勝手に悪いかなって思ったのだけど、本のタイトルを見てから少し気になって。ごめんなさいね」
「いえいえ、気にしないでください。それにその本、今度深雪さんに紹介しようかなって思ってたやつだったので」
「……そう、だったの。それは少し残念ね」
「え? 残念、ですか?」
「……えぇ、今度はどんな本を紹介してくれるのかなって、いつも楽しみにしてたから。紹介してもらう楽しみ、減っちゃった」
眉を少しハの形にして残念そうにしている。
小柄な体型のせいもあるのか、そういう仕草をされると抱きしめて慰めてあげたい衝動に駆られる。
……いや、私の方が小柄なのだけど。
「安心してください、別の本でも色々おすすめはあるんですから!」
「……そう、なの? ……ふふ、それなら、今度紹介してくれるのを楽しみにしてるわ」
そう言って嬉しそうに微笑む深雪さん。
同じ物静かなタイプでもクール系な夏凜ちゃんとは違う、深雪さんの素朴な微笑み。
それを向けられて私も嬉しくなり、思わずグッと拳を握ってしまう。
「……?」
意味が解らず小首を傾げる所もまた良しである。
よくわからない行動をしてる私を見て何を思ったのか、少し考える仕草をして深雪さんは遠慮がちに口を開く。
「……吉永さん、変わったわよね」
「……へ?」
“変った”
そう言われて、少しだけ胸がドキッとした。
確かに以前の私を知ってる人が今の私を見たら、変わったと思うかもしれない。
“あたし”の影響が多分に含まれているから仕方ないのだけど、とはいえ別に私が“あたし”に成り代わられたわけではない。
私自身いまだによくわかってはいないけど、合う表現としては私と“あたし”が融合したような状態なのだ。
だから別に変わったわけではない。
なのだが、私を知ってる人に会って、別人に見られてしまったらどうしようとは、たまに考えてしまう。
今の私の状態を家族にだって話していないけど、それはまず信じられないだろうという思いがある。
だけどそれ以上に、もしこのことを家族に知られたら「偽物だ!」「優子を返せ!」なんて言われるのではないか? そんな考えが浮かんできて、すごく怖くなってしまう。
それなのに必死で隠してきたのを家族でもなく、ただ仲がいい人に見破られたのかと……。
「……なんというか……うん、元気になったっていうのかな? いい変化なんだと思う」
「あ、そ、そう、です?」
どうやら違ったらしい。
密かに安堵の息を漏らす。
そりゃそうだ、私の中に“あたし”が入っているなんて発想、普通はしないだろう。
我ながら怖がり過ぎだ。
「……うん。ちょっとだけ、羨ましいかな。私は、吉永さんみたいに変われないから」
「……あー」
さっきとは違い、どこか物悲しそうに微笑んでいる。
その理由に心当たりがあった私は、なんと言ったらいいか思い悩む。
そもそもゲームにおける深雪さんのルートはどういうものかというと、これは灯里ちゃんの主人公視点でフラグを立てることは出来ないものだった。
なぜならフラグ自体は、もう最初から立っていたのだからだ。
というのも、その最初のフラグが立った瞬間というのが、ゲームが始まる前の段階なのである。
これは後々ルートを進めていくうちに、深雪さんの回想話しで知ることになるのだが。
ある昼下がりに中庭でいつものように1人で読書をしていると、友達と楽しそうに話している灯里ちゃんの姿を見つけた。
それが深雪さんにとって、運命ともいえる瞬間だったのだ。
深雪さんは昔から内気で、何事にも自信が持てず友達らしい友達も作れなかった。
そんな自分が嫌で変わろうと思っても中々勇気が出せず、結局は一歩を踏み出せず、大好きな本の世界に今まで以上にのめり込むようになっていった。
そんな本だけが生きがいという生活を続けて高校2年のある日、灯里ちゃんの姿を目にした。
自分とは違い元気いっぱいで、周りを引き付ける魅力があって、笑顔がとても素敵で。
そんな灯里ちゃんを見てから、ふとした時に灯里ちゃんの姿が脳裏に浮かび、近くを通れば目で追うようになっていた。
所謂、一目惚れというやつである。
だから特に誰とのフラグも立てずにそのまま共通ルートを進んでいくと、なんとか勇気を出して話しかけてくる深雪さんルートに突入することになる。
そのまま深雪さんとのコミュを中心に進めていくと、何の問題もなくエンディングを迎えるわけだ。
攻略難易度の低さ、ありがちな影の薄い系ヒロインというところから、深雪さんは灯里ちゃんの正ヒロインとまでネットでは言われていた。
……まぁ、私は春×夏カプ推しだから、私にとっての正ヒロインは夏凛ちゃんなんだけど。
で、ここで本題に戻る。
今、深雪さんが私に感じている感情、それは本人が言ったように、羨ましいという感情だ。
内気で、物静かで、本が好きな少女。
そんなまるで鏡で自分を見ているような後輩が、いつの間にかかつて自分が憧れたような性格に、まるで別人のように変わっていたのだから。
そりゃあ、羨ましいと思うだろう。
だけどそれは私が変わろうと思って変わったわけでも、何か努力をしたわけでもない。
ただ、“あたし”という存在の影響に他ならない。
偶然の賜物というか、悪く言えばズルとも言えてしまうものだ。
だから私から偉そうに、こうすればいいなんて深雪さんにアドバイスなんて出来るはずないのだけど……。
「……」
「え、えーと、ですね……」
羨ましいという思いとともに、どこか諦めに似た雰囲気をその表情から感じる。
その時、ゲームでの深雪さんの事を思い出した。
そして理解してしまった。
きっと深雪さんは、「自分は変われない」、「ずっとこのままなんだ」と、そう思っているのだろう。
そうやって、深雪さんは小さい頃から諦め続けてきたのだから。
そんな深雪さんに何か言いたくて口を開くも、なんと言っていいかわからなくて、そのまま口を閉じてしまう。
それでも何か言わないと、そういう思いで頭は一杯だった。
何かないか、何か気の利いたセリフは……そして、咄嗟に私は口を開いていた。
「……『変われますよ』」
「……え?」
「『深雪さんはちゃんと変われます。だって、私と友達になれたじゃないですか』」
「……あ」
「『まだまだ小さな一歩かもしれないけど、それでも一歩は一歩です。その踏み出せた一歩に、胸を張ってください』」
「……」
「『ちゃんと隣で見守ってます。だから、一緒に歩いていきましょう』」
私の口から出てきたのは、ゲームで灯里ちゃんが深雪さんに言っていた言葉だった。
それはある程度仲が進展して、自分の心の内を、弱さを曝け出した深雪さんに、灯里ちゃんが送った励ましの言葉。
本来なら、ただゲームの知識で知っているだけの私なんかが口にするべき言葉ではないのだけど、何とか元気づけたいと思ったら自然と口から出てきてしまった。
何の事情も知らないはずの私にこんなことを言われて、怒ってないだろうか。
そう思って深雪さんを見ると。
「……うん!」
深雪さんは目の端に涙を浮かべながら、嬉しそうに微笑んでいた。
「……これからも、ずっと、ずっと、私の友達でいてね。吉永さん……ううん、優子ちゃん」
「あ、はい」
突然の名前呼び。
ゲームでは一気に好感度が上がった時の表現に、私はただ頷くしかなかった。
これ、もしかして私が深雪さんのルートに突入しちゃったかなと、内心やっちゃったという思いで一杯だった。
とはいえゲームで、ここで深雪さんが返してくる言葉は。
『……これからも、ずっと、ずっと、そばにいてね』
である。
あれは恋人という意味で、“そばにいて”と言っていたのだろうと予想出来る。
しかし私の場合は“友達でいてね”と言っていたし、まだ大丈夫だろう……大丈夫だといいなぁと思う。
可愛い女の子同士の百合は好きだけど、自分がそうなるのはなんか違うのだ。
涙を拭っている深雪さんを気まずい思いで見ていたら、ふと気になったことがあった。
「あ、そう言えば深雪さん。灯里ちゃんのことって、知ってます?」
「……灯里、ちゃん? ……テニス部の子、だったかしら? 確か、優子ちゃんの友達よね? クラスで噂には聞いたことあるけど」
それがどうしたの? と首を傾げてくる。
その様子に、ゲームで語られたような一目惚れしたような雰囲気は感じない。
「……えっと、会った事は?」
「……直接はない、と思うけれど。優子ちゃんが一緒にいる所を見たことがあるくらいかしら」
「……そっかー」
「……?」
不思議そうに見ている深雪さんに、私はただゆっくりと視線を外す。
この時、私は気づいてしまった。
この世界の深雪さんは、灯里ちゃんに一目惚れはしていないだろうということに。
多分、中庭で灯里ちゃんの姿を目にする前に、私という友達が出来たことで心境に何らかの変化が起きてしまったのではないだろうか。
春×夏カプを目指す私としては、嬉しい誤算ではあるのだけど……。
◇
「うあああああああ!」
学園から急いで家に帰り、そのまま自分の部屋のベッドにダイブ。
何も知らなかった頃のかつての自分がしてしまったことに、なぜか激しい後悔が湧いてきて、ベッドの上でゴロゴロ転がりながら奇声を上げ続ける。
「原作ブレイク、原作ブレイクだよね!? いいの、これいいの!? 何も知らなかった頃のやらかしだけどさぁ!」
原作ブレイク。
それは原作のある作品の世界に転生、憑依した人物が、本来の話しの流れから逸脱した流れへと変えてしまうこと。
ある意味、私の美弥子先生へしようとしていたことも、原作ブレイクにあたることかもしれない。
けど、どうせ目的のルートに入れば、別のヒロインは別の人生を歩むのだからと、どこか楽観視していたのだ。
それが実際に原作と異なる展開になってしまっているのを目の当たりにして、これで本当にいいのか? と、今更ながらに不安になってきた。
いや、本当に、私の意図してない所で起きていたことなのだけど。
「う、うぅ……うああああああああ!」
「優子、うっさい! なに騒いでるか知らないけど、隣近所にまで聞こえるだろ!」
勢いよく部屋のドアを開けて、義兄さんが乱入してきた。
私は義兄さんに飛びついて、その足に縋りつく。
「うわ、ちょ、なんだ一体!?」
「義兄さん! 義兄さんは原作ブレイクってどう思う!?」
「はぁ? 原作? ……なんだかよくわからないけど、とりあえず放せ!」
「お願いだよ義兄さん、私に何かいい知恵を!」
「いや、そんな知恵なんて言われても、って、あっ、おま、ズボン引っ張るな! 脱げる、脱げるから! ……あぁ、もう! めんどくせぇ!」
「義兄さ、あがっ!?」
その時、私の頭に衝撃が襲った。
「う、うごおおお……!」
「はぁ、はぁ……とりあえず、もういい時間なんだから、あんまり騒ぐなよ! あと、もう飯だからさっさと降りてこい!」
そう言って、珍しく息を乱しながら義兄さんは部屋を出て行った。
「……う、うぅ……い、いたひ」
頭に手を当てて床に座り込み、涙を浮かべながら痛みが過ぎるのを待つ。
見えなかったけど、多分、義兄さんにゲンコツをされたれたのだろう。
ツッコミをされたことは何度もあるけど、ここまで痛いのは初めてだった。
混乱していたとはいえ流石にやり過ぎたかと、ちょっと反省。
「……あー、うん。まぁ、あれね」
痛みのせいか、不思議とさっきまでの混乱は落ち着いていた。
少し冷静になった頭で、自分なりに考えを巡らせて。
「……もう、なるようにしかならないよね」
そう結論を出した。
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