それでも俺は悪くない!

ネメシス

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パーティを脱退させられたけど、それでも俺は悪くない!

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ある日のこと。
それはいつものように、仲間たちと冒険者ギルドの依頼を終えた帰り道。
俺達のパーティのリーダーであるユーリが、あまりにも唐突に非情な言葉を投げつけてきた。

「アカシア……悪いが、お前にはパーティを抜けてもらう」

「……は、はぁ!? ちょ、ちょっと待ってくれよ、リーダー! 抜けろって、なんで、そんないきなり!」

リーダーの言葉に俺は抵抗する。
このパーティを結成したのは、今から3年前。
辛い時も苦しい時も、そして楽しい時も一緒に分かち合ってきた仲間じゃないのか?
それなのに、こんないきなりパーティを抜けろだなんて……。

「リーダー、いや、ユーリ! 俺とお前の関係を言ってみろ!」

「同じ村出身。家は隣どうしで、小さい頃から一緒に遊んでた幼馴染」

「一緒に冒険者になった理由は!?」

「英雄譚に出てきた主人公みたいに、でっかい冒険者になるため」

「旅に誘ったのは!?」

「俺からだったな」

あの頃が懐かしいな、そう言い昔を懐かしむユーリ。
そう、俺とユーリはこのパーティ以前からの付き合い、幼馴染というやつなのだ。
小さい頃から英雄譚に憧れていたユーリはいつも枝を剣に見立てて振り回して、いつの間にか村一番の剣士になっていた。
そして俺は親が神官として勤めていた村の小さな教会で、小さい頃に洗礼を受けた神官の卵。
前衛と後衛、剣士と神官、最初のパーティとしては悪くない組み合わせだ。

「……今更思うけど、なんでお前女じゃないんだよ。普通幼馴染って言ったら、可愛い女の子だろうが」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。というか神官なんて職に就いてるんだから、なおのことお前が女の子だろ普通は」

「……俺は、女だった?」

「いや、お前は男だ」

だろうな。
小さい頃、一緒に水浴びに行った時、よくアレのデカさ比べとかしてたし。
ちなみに俺の方が僅差で勝っていた。
数少ないこいつに勝てる部分で、ちょっとした自慢だ。

「って、そんな話はどうでもいいんだよ!」

「お前が先にふって来たんじゃないか」

「説明! 納得のいく説明をしてくれ!」

「説明? そんなの……」

リーダーはキッと俺を睨みつけながら言った。

「お前、いつまで経っても回復魔法、初級しか使えないじゃん!」

「……うぐぅ!」

リーダーの言葉に、俺はぐうの音も出なかった。
うぐぅ、という呻き声は出たけど。

「そ、それは、だって……お、お前たちだけで、いつも敵を倒し切っちまうのが悪いんだろ!? 俺は悪くない!」

自身の力を上げるためには鍛錬で地道に自身の地力を上げていくか、もしくはこの世界に蔓延る魔物を倒すかである。
大抵の者はある程度鍛錬で力を付けたら、もっと強くなりたければ魔物を倒すのが一般的だ。
魔物を倒せばその魂の一部が、倒した者に取り込まれて力となる。
一般的に、その取り込まれる力を、経験値と呼んでいる。
この経験値を得ることで、人は通常の鍛錬とは比べ物にならないくらい成長することが出来るのだ。
しかもある程度成長すると、その人に合ったスキルや魔法が唐突に使えるようになる。
これはこの世界や多くの神々を生み出した神様がいつも俺たちを見守っていて、使えるようになるスキルや魔法は成長への祝福だと子供の頃に教えられた。

かくいう俺の使う初級回復魔法ヒールもそれだ。
ちなみにヒールは俺が成人(俺たちの国では15歳からが成人)した時に使えるようになった。
これは俺だけというわけではなく、神官職は神官になって成人した時に、それぞれの崇める神様から祝福として初級の回復魔法を与えられるのだ。

蛇足が入ったが、経験値の話しに戻ろう。
この経験値、厄介なことに受け取ることが出来るのは、ただ一人。
その魔物に対し、とどめを刺した者のみなのだ。

「いつもお前たちだけで、とどめ差しちゃうくせに! それで俺に強くなれって、流石に無理だろ常識的に考えて!」

正論、この圧倒的正論でもって俺はリーダーに咬みつく。
魔物にとどめを刺させてもらえない関係上、俺は他の仲間たちに比べて成長は遅い。
それこそ、リトルトータスの歩みのごとく。
まったく俺たちを見守ってくれていると言いながら、神様もケチな法則を作ってくれたものだ。
せめてパーティメンバー全員に平等に分け与えてくれたら、俺もこんな苦労しなくて済んだものを。
そう神様に不満を漏らす俺に対し、リーダーは呆れ気味に口を開く。

「だってお前、敵にトドメさせないじゃん」

「……あぐぅ」

ぐうの音も出ない正論だった。
あぐぅ、という呻き声は出たけど。

“トドメがさせない。”

ささないではなく、させないというのがまさに肝だ。

「それ、は、だって……」

ユーリの言葉に、俺は視線を彷徨わせながら、なんと言ったらいいか考える。

「まぁ、理由は理解してるけどさ」

「また大変な宗派に属してしまったものと、私も可愛そうに思いますよ」

「あんたが悪いわけじゃない、それはわかってんのよ」

重いため息を漏らすユーリに、仲間の二人、魔法使いのサーシャと格闘家のリリアンも同調する。
そう、俺がとどめを刺せないのは俺が属している教会の教えのせいなのだ。
別の宗派の教会に属する神官職なら、3年も冒険者を続けていれば中級、もしくは才能のある者ならば上級の回復魔法だって使えるようになっているだろう。
回復魔法だけではない、それこそ様々な支援魔法でパーティの活躍に貢献しているはずだ。

しかし、俺は3年も冒険者を続けていて、覚えているのは初級回復魔法であるヒール1個のみ。
別に俺が自己鍛錬を疎かにするような怠慢な者だったわけでも、魔物と戦う勇気のない臆病者だったわけでもない。
実際に、小さい頃に村の近くに出たゴブリンを、ユーリと一緒に戦ったし。
まぁ、とどめを刺したのはユーリだけど。
一体なぜ、俺は魔物にトドメがさせないのか。

「フェミリアン教、だっけ。殺生をしてはならないなんて、冒険者になるなって言ってるみたいなもんだろ」

フェミリアン教、それは神フェミリアンを祭る宗教で、その教えは“命はみな等しく尊い、故に殺生など言語道断”というものがあった。
普通の魔物を討伐することでさえ罰則があるというのに、ある特定の魔物に対しては殊更厳しい罰則が科される。
特定の魔物、それはドライアドといった人型、特に女性の見た目をした魔物に対してだ。
魔族で言えばサキュバスとかが該当する。
いや、その時点で命はみな等しく尊いとかいう教えから離れてね? 贔屓してね? と何度思った事か。
まだまだ小さいかった子供の時、子供心にすらそう思ったものだ。

「……アカシア。お前も知ってる通り、俺の夢は昔見た英雄譚みたいな、でっかい偉業を作る事だ」

押し黙る俺の肩を掴み、ユーリは神妙な表情で言葉を紡ぐ。

「この3年間、一緒にやってきた俺だって辛い。2人だってそうだ。でも、それでも、俺は先に進みたい。いつまでもこんなところで、足踏みしていたくないんだ」

「あたし達の力なら、もう2ステップは先に進めるはずなのよ」

「そのためには更に強力な回復、支援をしてくれる仲間が必要なのです」

「く、うぅ……っ!」

「アカシア、お前がいたらこれ以上先に進むことが出来ない。下手にお前を連れて行けば、守り切れずに死ぬかもしれない……だからすまん。アカシア、このパーティを抜けてくれ」

申し訳なさそうに見つめてくるパーティメンバー、しかしその意志は固いのか誰も俺の残留は望んでいないようだ。
それを知り、悔しくて悲しくて……。
俺は目の前が真っ暗になった。


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