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4月1日、親友が「異世界へ異世界へ魔王を倒しに行ってきた」と言いだした
しおりを挟む4月1日、俺の親友は異世界で魔王討伐に行ってきたらしい。
親友に会った時、俺と双子の妹の麗奈は歩きながら昼飯をどうするかで揉めていた。
「絶対、ミスド行きたい。甘いの食べたい」
「いや。マックだ。ハンバーガーは譲らん。ドーナツなんてどこでも食えるだろ」
「ポンデリングは別格なの!あのモチモチ感がいいの!」
「俺の舌はハンバーガーを求めてるんだよ」
「ハンバーガーだってどこでも食べれるもん!」
「いや、あの味は…」
「留衣!麗奈!」
1ブロック先から大声で名前を呼んだのは、同級生の駆だった。
手を振りながら走り寄り、そのまま俺に抱きついた。おい、いつから挨拶が西洋式になったんだ?
「俺のことが好きなのは分かったが、とりあえず離せ」
「やっぱり、駆と留衣はそういう関係だったのね。お邪魔虫は消えた方がいいかな?」
「留衣ー!!!会いたかったよ親友!!あ、嬉しくって涙と鼻水出てきた」
「離れろ!」
慌てて引き離すと、ほんとに涙目で鼻を啜っている。おや。
「なんか、日に焼けてないか?」
「!気づいたか?いやー2年もいたのに背は伸びなかったし、伸びた髪も帰る前に切ったから気づかれないかと思ったぜ」
「2年?何言ってんの?日本語話せ」
「だから、俺、2年間、異世界に行ってたんだよ!」
「…」
「…ねぇ、留衣。今日ってエイプリルフールだよ」
「ああ。そういうことか。それにしても雑な嘘だな。日焼けしたのは手が混んでるけど」
「いやいやいや!こんな時期に日焼けとかスグできないよね!?
えーと、俺にとっては2年前だけど、確か3月30日…3人でカラオケ行っただろ!」
「一昨日のことも忘れたのか?やばっ。つーかエイプリルフールのために日サロ行くとかひくわー」
「ダメだよ。正直に言ったら駆がかわいそうだよ。ちょっとは騙されたフリしないと」
「おまえ駆に甘いんだよ」
「だってぇ」
「本当だって!信じてくれよ」
駆は鼻をすすりながら強く訴えてくるが、いきなり異世界話を信じろっていうのは難易度高いぞ?
「とりあえずマックで話そーぜ」
「ミスドがいい!」
「ハンバーガーにポテトにコーラだろ」
「俺、コーラ飲みたい!氷の入った炭酸なんて夢みたいだ!」
「ハイ決まり」
麗奈は不満そうだが、多数決は正義だ。3人並んで近所のマックまで歩き始めた。
その間の話題は「異世界に行った件」だ。
「2年前の4月1日…ってか2人にとっては今日なんだよな。ややこしい。その日の朝、俺は日課のランニングしようと家を出たんだ。その直後、なんかビカーって光って、地面が揺れた感じがして、気がついたらRPGに出てきそうな城の大広間にいたんだ」
「説明が下手ね」
「騙されたフリするってお前が言ったんだろ。もう少し聞いてやれよ」
「はいはい。RPGってことはヨーロッパのお城みたいな感じ?」
「お前ら全部聞こえてるからな。とにかく、そこで王子様に会ったんだ」
「お約束だな」
「お約束ね」
駆のエイプリルフールのはじまりは、愉快なものだった。
「なんだなんだ…夢?え、俺起きてるよな。走りに出てなんか光って…あれ?今の車のライト?俺ひかれた!?ここ天国か!?」
駆は自分の身体をベタベタ触り、怪我がないことを確認するとようやく周囲に目を向けた。
「っ!なんだあんたら!ていうかどこーー!」
「ようこそ。異世界の方。あなたを待っていました。共に魔王を倒しましょう?」
一番近くにいた真っ白な男は、そう言ってにっこりと微笑んだ。目が覚めるような美男子なのに、なぜか黒いオーラを感じる。逆らってはいけない。そんな気がした。
しかし、了解しましたと簡単に言えはしない。
「異世界ってどこ。魔王って何。俺まだ寝てるのか?」
「痛くないか試してみます?」
「ごめんなさい。結構です。その剣しまってください」
「遠慮しないでください」
魔王は知らないが、ここには白い悪魔がいた。
悪魔…ねぇ。
「ツッコミどころ多すぎ。とりあえず白い男ってなんだ?」
「全体的に白なんだよ。肌白いし、髪も銀色。あと着ている服が基本白。目は空色。あー口じゃ伝わらないだろうな。でも一言で言うなら、美人かな」
「イケメンなのね」
「イケメンって響きも違うんだよな。もっと高貴な感じ?そいつレオナルドって言うんだけど、レオは俺らの1個上で、国営教会のトップ神官なんだよ。しかも、第3王位継承者。王子様」
「神官で王子ね。ずいぶん込み入った設定作ってきたな。麗奈、シェーク、一口くれ」
「ナゲットと交換」
「仕方ないな」
「俺の話聞いてる?」
「きいてる。で、神官で王子で悪魔なそいつと魔王倒しに行ったのか?」
駆は首を振ってため息をつく。
「それができたら2年もかからなかったさ。初めの1年半は修行で終わった」
「は?修行しに異世界行ったの、お前?」
「駆…その嘘はつまらないないよ」
「だから嘘じゃないって!俺だって、異世界で魔王倒せとか言われたら、漫画みたいに「なんかチートもらえるの?」とか思ったよ!剣を握っただけで戦えるとか、魔法バンバン使えるとか!」
「チートなかったの?」
「なかった。城の兵士と一緒に訓練したり、森でザコ魔物討伐してレベル上げた。ぜっっったい、俺じゃなくてもよかったはずだ!」
駆の熱の入った語り口調と時々脱力する感想に、俺と麗奈は適当に相槌を打ちながら、でも実は笑いを堪えて聞いていた。話上手ではないのに、駆の話はつい引き込まれてしまう。
「スライムとか最悪なんだよ。レベル低いからすぐ倒せるようになったけどさ。でもあっちの世界の奴ら、なんと倒したスライムを食べるんだ!ありえねぇだろ!」
「そうか?スライムって水クラゲみたいなもんだろ?イメージだけど」
「美味しそうよね。イメージだけど」
「見てないからわからないんだ…スライムって透明感あるイメージだろ?違うんだ。個体差があるけど、基本は黒。あと紺色とか、レア種で黄色とか」
話しているうちに何かを思い出したのか、駆は口元を手で覆う。
「火を通すとまた色が変わるんだ。それみた時、いちばん異世界に来たって実感したわ」
スライムで異世界を認識するって理解に苦しむな。
俺は最後のナゲットを駆譲り、話を促した。
「まぁ、1年半はそうやって終わった。あとの半年は魔王討伐の旅なんだけど」
旅の同行者は何人かいたが、うち2人が王族ということに、駆は驚いた。
1人は白い悪魔、第三王子のレオ。もう1人はレオ双子の妹でルーナピアという愛らしい姫だ。ルーナピアは髪は白金色だが、目の色と雰囲気はレオそっくりだった。
2人も魔王討伐すると聞いた時は、「王様何考えてんの?」と思ったものだが、実際旅を初めて見ると、そこには白い悪魔、いや、2人の赤い悪魔がいた。
「何それ?愛らしい姫も悪魔なの?」
「ちゃんと考えてから話せよ。誰が敵で味方なのかわからないだろ」
麗奈と俺のクレームに、駆はハンバーガーを握りつぶしそうな勢いで答える。
「あの戦闘見たらそんなこと言えないからな!?にこにこ微笑みながら、魔法で木っ端微塵にしたり、剣で切り刻んでいくんだ。白い服が返り血でぐっしょり濡れてるのに平気なんだぜ?その姿で「綺麗なお花畑があるわ」と姫に言われてもさ…」
はぁ。
ため息が重いな。血まみれの姫…考えてみれば確かにホラーだな。
ふと麗奈は身を乗り出して、質問する。
「旅の間に恋は生まれなかったの?姫って可愛いんじゃないの?」
「ないなー。生き残るので精一杯だったし。確かに可愛いけど、そうだな。麗奈の方が俺は好みだな」
「え?」
麗奈は予想外の返しに動揺しているが、駆はそれに気づかず話を続ける。罪な男だ。
「あの兄妹はさ、戦闘方法はともかく、性格は気さくでいい奴らなんだ。でも王族だから、俺みたいな素性の知れない奴が近づくのは周りが許さないんだ。レオもルーナピアも仲良くなりたいけどなぁ」
「お前らしくない。諦めたのか?俺らとはすぐに親友になったのに?」
「立場とか、駆は気にしないと思ってたわ」
俺たちは去年、高校の入学式で会ったのが始まりだ。俺と駆の席が近かった、というだけで仲良くなって今では麗奈も含めて3人で毎日馬鹿みたいに遊んでいる。親友歴1年。でも駆の距離の詰めかたが、そう思わせないのだ。
「俺は立場なんて気にしないよ。でも困るのはあいつらだ。誰よりも苦労して役目を果たしてるのに、俺みたいな異世界人とつるんで、評判を落としたらもったいないんだよ。それくらい頑張ってるんだよ」
「悪魔と貶したり褒めたり、忙しいな」
「どっちも本当だからな。きっと会えばわかるよ。留衣たちも気があうと思う」
「駆がそういうなら、そうだろうな」
「ああ!でも一番の親友は留衣と麗奈だからな!」
「…ありがとう」
「礼を言うのもおかしいだろ!」
俺まで駆の不意打ちを喰らってしまった。つい照れてしまったではないか。横目で見ると麗奈も少し頬が赤い。くらったな。
駆は俺たちの様子に気づかないまま、コーラを一気に飲み、ご満悦だ。
「あー!これだよ!!最高。ほんと幸せ!」
「大袈裟だな」
「異世界にはコーラはないんだよ!この辛さがわかるか」
「ハイハイ。わかるわかる」
「適当に言うな!」
駆の異世界話はその後も続いたが、なんとオチだけはなかった。
「魔王倒さずに帰ってきた?」
「何しに行ってきたのよ?」
「俺が知りたいよ。なんか、レオが突然俺を一度元の世界に返すって。別に怪我してないし。ホームシックでもなかった。むしろ2年もたつと少し開き直りもあったから、倒す方向に気持ち切り替えてたんだよ。だから嬉しいより「え、今?」って感じだった」
「理由は聞かなかったの?」
「レオもルーナピアも、そのうちわかるとは言ってた。むしろ気づいてないの?とか聞かれた」
「心当たりないのか?」
「全く」
「駆は鈍感だから気づいてないだけかもよ」
「ええー。そうなのかなぁ」
駆は少し悩み、でもすぐに諦めたようだ。
「まぁ、次あったら聞いてみる」
「また行くの?」
「そ。この勾玉に願うともう1回向こうに行けるんだ。本当は行かないって選択肢もあるけど、このまま投げ出したくないんだ。だから行ってくる。今度こそ魔王倒してから帰ってくる。今日は里帰りみたいなもんさ」
「里帰りでマックか。安いな」
「いや、お前たちに会いにきたんだよ。すぐ戻るつもりだけど、その前にどうしても会いたかったんだ。やっぱり時々は寂しくてさ。留衣と麗奈が恋しかった」
「…」
「…」
「人たらしだな」
「ええ」
「ん?何か言った?」
駆の無意識は最強だ。いつも俺と麗奈は勝てないんだ。
「よーし。じゃ次はミスドに行くわよ」
「まだ食べるのか?」
「テイクアウトにする」
「はいはい。駆は?」
「2人に会えたし、あっちに戻ろうと思う。時間の流れは調整するとか言ってたけど、戻ったら2年経ってましたとか笑えないし」
「へぇ。異世界でもガンバッテ」
「気をつけてネ」
「やっぱ信じてないな…よし。じゃあお前たちの前で勾玉使ってやる!目の前で消えれば納得するだろ!」
駆に促され、俺たちは近所の公園に移動した。木々で死角になってるところを見つけると、意気揚々と勾玉を取り出す。
「ここならいいか。よく見てろよ。あ。多分びかーって光るけど、俺に触るなよ。巻き込むかもしれないし」
「「ハイハイ」」
「心無いなー。ま、いいさ。見てろ。で、驚け?俺が魔王倒して帰ってきたら謝ってマック奢りな?」
駆は右手に勾玉を握りしめ、何かを唱えた。
すると強く光り、駆の姿が消え…ることはなかった。
「消えないねぇ」
「消えないな」
「えええええええええ!!何それ!帰れない?俺リストラされた!?」
リストラって。どんな驚き方だよ。
激しく動揺する駆に、麗奈は満面の笑みで言い放つ。
「じゃ、ミスド行こっか」
3人でミスドへの道のりを歩き始める。
駆はまだ動揺から覚めない。だがこれ以上、麗奈のリクエストを無視するのも後が怖い。
「駆、まだ落ち込んでるのか?ただのエイプリルフールじゃないか」
「笑って終わりーでいいじゃない」
「よくない!異世界は本当にあるんだ!嘘じゃない!だって俺は2年間…」
あまりの落ち込みように、なんだか可哀想な気もしてくる。まぁ、もういいか。
麗奈も多少は罪悪感があるのか、小さく頷いた。
俺はポケットからそれを取り出すとか駆に手渡した。
「やる」
「ん?え、これ、勾玉?俺のと同じやつ!?なんで留衣が持ってんの!?」
「こっちは本物。さっきのは偽物だ」
「はあ!?」
「駆は騙しやすいっていうより、騙し甲斐がないなぁ」
「騙す?」
「駆は鈍いわねぇ。つまり、白い悪魔に嘘つかれたの。ただの勾玉渡されてね」
「向こうにはエイプリルフールの概念はないから、気づかないかもしれないとは思っていたけどな。しかしうまく騙されてくれたよ。おもしろい話も聞けたしな」
駆の肩に手を回し、俺は耳元で囁いた。
「まさか駆が私を悪魔だと思っていたとは、心外ですね。向こうに戻ったら話し合いましょう?」
駆はカッと目を見開いて俺から距離をとった。あーこれこれ。この姿が見たかったんだ。
「…留衣、喜びすぎ。声に出さなくても顔に出てるわよ」
「麗奈こそ笑いが漏れてるからな」
ニヤニヤが止まらない俺と麗奈に挟まれた駆は、恐る恐る聞き返す。
「本当に留衣と、麗奈か?それとも夢?まさか気付かないうちにホームシックになってて夢に出てきたとか」
「痛くないか、試してみましょうか?」
「!そのセリフ前に聞いた…まさか。………レオ?」
「やっと気づいたか。バーカ」
「え。留衣?でもレオなんだよな?待て、理解が追いつかない!」
「あーあ。混乱させちゃって。やっぱりエイプリルフールはシンプルな嘘の方が良かったのよ。レオの嘘はややこしいわ」
「ルーナピアも面白がってたじゃないか。地球メシ食べに行くって言ったらついてきたし」
「だってご飯はこっちの方が美味しいもん。レオだけ食べるなんてズルいわ」
「じゃあルーナピアも同罪だな」
2年ぶりに飲んだコーラは美味かった。駆も言っていたが、向こうの世界に炭酸水は存在しない。せっかくだから、ペットボトルで持ち帰ってみんなを驚かせてみようか。ルーナピアもドーナツを持ち帰るみたいだからな。このくらいの異文化交流は悪くないはずだ。
「留衣がレオで、麗奈が…ルーナピア?はぁああ!?なんだそれ!ってそれ、エイプリルフールとかいうレベルの嘘じゃないだろ!」
「そうか?俺はたった1つしか嘘ついてないけど」
「1つだけ?」
「そう。レオは向こうで会った時に言ったか?俺は留衣じゃありませんって」
「そりゃあ言ってないけど…」
「ルーナピアも麗奈じゃないとは言ってないわ」
「そうだけど!」
「ま、言わないことはたくさんあったかな。でも嘘は1つだけだ」
「言わないことが多すぎる!そこが一番問題だからな!で、その1つの嘘ってなんだよっ」
俺は駆の握りしめた手を指さした。
「勾玉が偽物ってこと」
「やっぱり異世界は…」
「私たちと過ごした2年間忘れたの?あんなに修行してたのに?」
「魔王は…」
「俺たちがマック食べてる間に討伐されてなければ、まだいるだろうな」
「王子と姫…」
「厄介な立場だけど…お前は気にしないんだろ?なぁ親友?」
「そうそう。向こうでも遠慮しなくていいのよ?」
「俺も敬語やめようと思ってたし」
「…」
「疑問はそれだけね、じゃあ今度こそ、ミスド行くわよ!」
「……ハイ」
俺たちの親友は、エイプリルフールに嘘もつけない、しかも魔王討伐まで手伝ってくれるお人好しだ。
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