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その旗がみえるか

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 日陰の濃い鬱蒼とした森の中に、風が服を揺らして通り過ぎて行く。そのまま木々が揺らされ、静寂の中に葉擦れがやけに耳につくと感じた。

 それはそうだろう。一方的に身の危険を感じる恐慌状態での問答。いや、尋問と言ってもいい。その中で私は嘘偽りなく、目の前に存在する絶対的強者の問いに答えた。

 しかし返ってきた。返ってきたのだ。
 一字一句違わず全く同じ、返答した問いが、だ。
 
 はたして目の前の生き物は本当に意志疎通できるモノなんだろうか?

 疑問が浮かんで、でも直ぐに打ち消した。そんな考えを真っ先にした自分自身に舌打ちしたくなる。自分の持ちえる常識範疇に当てはまらないからすぐさま相手を疑う、反吐が出る。
 結局、見た目と反する年齢を信じず冗談と決めつける考えと、同じじゃないか。
 
 よく考えろ、私。時間はある。
 目の前のドラゴンは返答を急かすでもなく、じっと待って居てくれてる。
 考えに行き詰ったら聞けばいいだけ。
 だから問われた言葉をよく噛み砕こう。


 『何を成す為、ここにいる』


 これに対して私は森でしていた現状、目的を答えた。結果、不正解。
 何を成す為、これの真意が掴めれば答えが出ると思うが……ここいる目的?
 そこまで考えて私の中で警鐘が響く。しまったと思い、自分の問いかけに慌ててブレーキをかける。かけているのに応えたくて仕方ない。

 ここいる目的? 私が聞きたいくらいだ!!

 ああ、まずい。今この先を考えては駄目だと理性が必死に押し止めようとしているのに、頭に血が上る感覚がする、目の前が赤く染まる錯覚が私を襲う。


 なぜ私はここにいるのだろ? なんで居なくちゃいけないの?

 ここ(異世界)に!!


 止まらない。視界を染める速度と比例するように、感情に飲み込まれ、溺れていく。もう、止めたくない。

  
 簡単だ! 喚ばれたからだ! 

 私の結論は、いつもそこに辿り着く。

 
「魔王を倒す為、私はここに来させられた!」

 言うつもりはなかった。しかし気が付いたら私は目の前いっぱいに広がるドラゴンの目にこう答えていた。

 いやに心臓が重く強い不快な鼓動をしてるのが耳について、ふと思う。きっと私は不条理に嘆くばかりの濁った汚らしい目をしてるのだろう。寝支度前いつも鏡に映る、あの目を他人事の様に思い浮かべた。

 眼前に広がるドラゴンの目の、黒く垂直なスリット型の瞳孔がますます細まる。そのまま徐々に私との距離があいていき、私の首が限界まで反り返って見上げなくてはならないほど、問いを投げつけるドラゴンの顔が上空に戻る。 


 「……愚かなものだ」


 死亡フラグ成立したっぽいけど、もう正直どうでもよくなってきた。



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