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二度はない、って信じていた時もありました
しおりを挟む――いやだ。簡単に諦めたくない。どうしよう、どうしよう!
終わりを覚悟したのにそう思う自分がいた。
少し離れた左側には正面から倒れてきた木、すぐ右にもついさっき倒れてきた大きな木。障害物と化した木に囲まれる形になった私が逃げたとしても、逃げ切れるのだろうか? ああっ分からない! 行動する前にまず考える事が最善なのか、考えるより行動がいいのか、判断が付かない。そもそも何を行動すればいいのか?! 逃げ道は塞がれているのに!
「――ひっ!」
黒い塊が動いた。視線だけ倒木越しのドラゴンと思われる黒い塊から離さず思案にふけるも、頭上から降りてくる塊に私の中にあった全ての考えが跡形もなく消え、私は目をつぶってその時を待った。
「女、私が見えているな」
やってきたのは牙や痛みではなく、問いかけを含んだ、声。平坦な、感情の見えない声音。違う、この感じは耳じゃない、頭に響いてるんだ。
言葉を持っているなら意思疎通がはかれると望みを持ち直し、私はきつく閉じた目を無理やり開けて、顔を上げた。
「――っ、ぁ、ぅ」
問いかけに応えようとした言葉は、意味のなさない声になって私の口から零れた。
目が合う。正確に言うと目しか合わない。開いた視界いっぱいにドラゴンの、目。
蛇に睨まれた蛙の気持ちなど分かりたくないが今の私は蛙より酷いのではないだろうか。
「見えているな」
今度は確証を得たと納得する言葉が私の頭に響き、ドラゴンは私の目の前にある黒に限りなく近い瞳を細めた。固まった私は視線を離せられずにその変化をただ見ていると、音も立てずにゆっくりとドラゴンの目が離れていく。
「女、人間か」
どこをどう見たら人間以外に見えるのか問い詰めたい。女と分かっているのに、わざわざ聞くな! そう言えるほどこの場で私の立場は優位ではないのを理解しているから言わない。心で思うだけで、ドラゴンのこの問いかけと思える言葉に私はなんとか「はい」と返事をした。頭上へと顔を移動させたドラゴンの目がまた、細まる。
そしてドラゴンは次の問いかけをまた私に響かせた。
「何を成す為、ここにいる」
え? それは正直に言っていいのだろうか? 力をつける為に修行してます、なんて答えて、ふははは! 人間の女などに私を倒せると思うてか! とかのフラグ立ちませんか? それって立派な死亡フラグですよね? 散歩にとか誤魔化しても平気だろうか。
誤魔化そうか? その考えがよぎった瞬間、ドラゴンが顔――正確にはまた目――を近付けて来た。最初から私には偽りを語る権利など与えられていないと、間近に戻ったドラゴンの視線を浴び、理解した。
「ち、力を、っける為……に、しゅ、修行、してまし……た」
私は死亡フラグ回収としか思えない答えを、予想以上に突っかかりながらなんとか言い終えた。生きるか死ぬか、私の人生を決める嘘偽りなく述べたその答えに返ってきたのは、ドラゴンの予想外な言葉。
「何を成す為、ここにいる。答えろ、人間の女」
今っ! 決死の覚悟でっ!! 命運を分けるっ!!! 答えをっ!!!!
言ったじゃねーーーーか!!!!!
これはツッコんでいいんですか?
ツッコミは死亡フラグ立ちますか?
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