33 / 58
本編
32 運命のお茶会
しおりを挟む
「お嬢様、いかがでしょう」
「ありがとう。とても素敵だわ」
鏡に映る自分を確認してから、私は鏡越しに侍女に笑顔を向けて満足していることを伝えた。
今日は緑色のドレスを選んだ。
上半身には白や金糸で編んだレースがふんだんに使われていて、ドレスと同色のエメラルドのネックレスをつけても単調にならない。
上品で大人びた雰囲気の装いが、小柄で幼く見える私に似合うか不安だったけれど、そこはさすが我が家の侍女。
髪を結いあげて上手くバランスを取ってくれた。
今日はとうとうお茶会当日。
ゲームと現実は違うとは分かっていても、やはり不安になってしまう。
(大丈夫……私は悪役令嬢じゃない)
自分に言い聞かせて、私は迎えに来た護衛のマチューと共に会場である食堂へ向かった。
いつもなら中央に並ぶテーブルは片隅へ置かれ、その上には菓子や茶器が並んでいる。
他の令嬢たちは既に集まり、会話を楽しんでいた。
「リナ様」
ソフィア様に声をかけられそちらへ向かう。
「今日のドレスも素敵ですわ」
「ソフィア様も。とてもお似合いです」
青いドレスに身を包んだソフィア様は、女神のような美しさだ。
(さて……ゲームでは誰が毒を盛られるのだろう)
それはこの選考会が始まってから気になっていたことだった。
ゲームでは令嬢の一人が倒れたあと、すぐにコゼットが騒ぎ出してその間に令嬢は運ばれてしまうので、名前が分からないのだ。
誰なのかが分かればその人を見守るなり、逆に近づかないなり対策が取れるのに。
(とりあえず……ソフィア様の側にいよう)
単独行動をすれば、万が一疑われた時に否定しにくくなる。
しばらくソフィア様と談笑していると、殿下の到着を告げる声が響いた。
胸元に二輪の王家のバラを挿した黒のフロックコート姿の殿下が姿を現した。
髪を後ろに撫でつけ額を出したその顔はいつにも増して凛々しく見える。
(わあ、本物!)
何度か殿下とはお会いしているけれど、ゲームの画面と同じ姿を見るとミーハー心が出てしまう。
――やはりここはゲームと同じ世界なのだと改めて思い出して緊張と不安を覚えた。
殿下は室内をゆっくりと歩きながら、令嬢たちと会話をしていく。
一通り話を終えると最後に私たちの前に立った。
「リナ嬢。ここでの生活は慣れたかい」
「はい」
殿下の言葉に私は頷いた。
「皆様のおかげで充実した日々を送らせていただいております」
ここに来るまで不安だった。
それまで家族以外の貴族と接することはなかった私に交流ができるのかと。
けれどソフィア様を始めとして、何人もの令嬢と親しくなることができた。
王妃様にもお会いして、実の母親のことを知ることもできた。
そして……ゲームの中の住人と思っていたエルネスト殿下とお会いできた。
殿下からのお気持ちは……まだ自分の中では消化できていないけれど、嬉しいと思っている。
「それは良かった。リナ嬢は審査官たちからの評判が最も高く、私も貴女の振る舞いを好ましく思っている」
そう言って殿下が胸元のバラに手をかけると、周囲からキャア、という声が聞こえた。
「どうか残りの日々も、貴女が充実して過ごせるよう願っている」
「ありがとうございます」
ゲームとは台詞が違うのね、と思いながら私はバラを受け取った。
そして言葉が違うことを嬉しく思っていることに気づいた。
――そう、ゲームの台詞はヒロインに向けられるものだから。
私のための言葉が嬉しかった。
「そしてソフィア嬢。貴女も妃としての素質が素晴らしいと評価を得ている」
殿下はソフィア様に向くと、もう一輪を差し出した。
「光栄ですわ」
バラを受け取りソフィア様は微笑んだ。
(そうか。ソフィア様も他の人たちからお妃に相応しいと認められることで、ニコラ殿下のお妃に近づけるんだ)
殿下の言葉を聞いて、どうしてソフィア様にもバラを渡したのか理解した。
「ありがとう。とても素敵だわ」
鏡に映る自分を確認してから、私は鏡越しに侍女に笑顔を向けて満足していることを伝えた。
今日は緑色のドレスを選んだ。
上半身には白や金糸で編んだレースがふんだんに使われていて、ドレスと同色のエメラルドのネックレスをつけても単調にならない。
上品で大人びた雰囲気の装いが、小柄で幼く見える私に似合うか不安だったけれど、そこはさすが我が家の侍女。
髪を結いあげて上手くバランスを取ってくれた。
今日はとうとうお茶会当日。
ゲームと現実は違うとは分かっていても、やはり不安になってしまう。
(大丈夫……私は悪役令嬢じゃない)
自分に言い聞かせて、私は迎えに来た護衛のマチューと共に会場である食堂へ向かった。
いつもなら中央に並ぶテーブルは片隅へ置かれ、その上には菓子や茶器が並んでいる。
他の令嬢たちは既に集まり、会話を楽しんでいた。
「リナ様」
ソフィア様に声をかけられそちらへ向かう。
「今日のドレスも素敵ですわ」
「ソフィア様も。とてもお似合いです」
青いドレスに身を包んだソフィア様は、女神のような美しさだ。
(さて……ゲームでは誰が毒を盛られるのだろう)
それはこの選考会が始まってから気になっていたことだった。
ゲームでは令嬢の一人が倒れたあと、すぐにコゼットが騒ぎ出してその間に令嬢は運ばれてしまうので、名前が分からないのだ。
誰なのかが分かればその人を見守るなり、逆に近づかないなり対策が取れるのに。
(とりあえず……ソフィア様の側にいよう)
単独行動をすれば、万が一疑われた時に否定しにくくなる。
しばらくソフィア様と談笑していると、殿下の到着を告げる声が響いた。
胸元に二輪の王家のバラを挿した黒のフロックコート姿の殿下が姿を現した。
髪を後ろに撫でつけ額を出したその顔はいつにも増して凛々しく見える。
(わあ、本物!)
何度か殿下とはお会いしているけれど、ゲームの画面と同じ姿を見るとミーハー心が出てしまう。
――やはりここはゲームと同じ世界なのだと改めて思い出して緊張と不安を覚えた。
殿下は室内をゆっくりと歩きながら、令嬢たちと会話をしていく。
一通り話を終えると最後に私たちの前に立った。
「リナ嬢。ここでの生活は慣れたかい」
「はい」
殿下の言葉に私は頷いた。
「皆様のおかげで充実した日々を送らせていただいております」
ここに来るまで不安だった。
それまで家族以外の貴族と接することはなかった私に交流ができるのかと。
けれどソフィア様を始めとして、何人もの令嬢と親しくなることができた。
王妃様にもお会いして、実の母親のことを知ることもできた。
そして……ゲームの中の住人と思っていたエルネスト殿下とお会いできた。
殿下からのお気持ちは……まだ自分の中では消化できていないけれど、嬉しいと思っている。
「それは良かった。リナ嬢は審査官たちからの評判が最も高く、私も貴女の振る舞いを好ましく思っている」
そう言って殿下が胸元のバラに手をかけると、周囲からキャア、という声が聞こえた。
「どうか残りの日々も、貴女が充実して過ごせるよう願っている」
「ありがとうございます」
ゲームとは台詞が違うのね、と思いながら私はバラを受け取った。
そして言葉が違うことを嬉しく思っていることに気づいた。
――そう、ゲームの台詞はヒロインに向けられるものだから。
私のための言葉が嬉しかった。
「そしてソフィア嬢。貴女も妃としての素質が素晴らしいと評価を得ている」
殿下はソフィア様に向くと、もう一輪を差し出した。
「光栄ですわ」
バラを受け取りソフィア様は微笑んだ。
(そうか。ソフィア様も他の人たちからお妃に相応しいと認められることで、ニコラ殿下のお妃に近づけるんだ)
殿下の言葉を聞いて、どうしてソフィア様にもバラを渡したのか理解した。
81
お気に入りに追加
3,861
あなたにおすすめの小説
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。
のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。
けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。
屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」
そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。
ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。
私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。
いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。
「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」
「お姉様、ごめんなさい。」
いやいや、好きだったことはないですよ。
ハロルド様と私は政略結婚ですよね?
そして、婚約破棄の書面にサインをした。
その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。
はっきり言って居心地が悪い!
私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。
平屋は快適だった。
そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。
滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。
そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。
困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。
小説家になろう様でも投稿しています!
4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。
→4/12日間ランキング3位→2位→1位
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。
そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。
死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません
野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、
婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、
話の流れから婚約を解消という話にまでなった。
ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、
絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる