10 / 58
本編
09 候補者たち
しおりを挟む
今日の予定は、候補者たちの顔合わせを兼ねた晩餐会だけだという。
候補者たちは合計十五名。
広い食堂に色とりどりのドレスが並ぶ様は華やかだ。
(ゲームと同じ光景だわ)
内心テンションが上がるのを隠すように、澄ました顔を作る。
「リナ様、緊張なさっていますの?」
隣に座るソフィア様に声をかけられた。
「……ええ」
実際は緊張半分、興奮半分だ。
「こういう場では堂々となさった方がよろしいですわ。リナ様は一番立場が上なのですから」
「そうなのですね」
堂々と……それは難しそうだ。
前世では人見知りではなかったけれど、この世界に生まれてから家族や親戚、教会関係者くらいしか接したことがないのだ。
知らない貴族令嬢たちを前にすると緊張してしまうのは仕方ないと思う。
それでも背筋だけは伸ばした。
「では、まず今回の候補者の方々を紹介いたします」
文官らしい男性が口を開いた。
「リナ・ロンベルク嬢」
「……はい」
立ち上がると軽く礼をとる。
お母様から教わった通りにしたつもりだけれど……大丈夫だろうか。
「ソフィア・ドルレアク嬢」
「はい」
次々と令嬢たちが名前を呼ばれていく。
「コゼット・ヴィトリー嬢」
「はい」
心臓が跳ね上がった。
コゼット……私の実の妹。
やはり彼女もこの場にいたのか。
その顔を見る勇気はない。
ろくに視線を合わせたことがないから実際の顔はよく分からないし、それは向こうも同じだ。
それに私は元孤児という設定だ。
――関わらなければ、向こうには気づかれないないはず。
私の動揺に関係なく紹介は進んでいき、最後の令嬢となった。
このゲームのヒロイン、アリスだ。
ゲームでは、実はこの晩餐会、陰で王太子が観察している。
そしてアリスは名前を呼ばれた時、一人だけ大きな声で『はい! よろしくお願いします!』と挨拶するのがこの場での正解となっている。
貴族令嬢らしくない元気な姿に王太子が興味を持つのだ。
「アリス・デュパール」
「……はい」
けれど他の令嬢同様の挨拶に、おやと思い思わず声の主を見た。
肩下までの長さのローズゴールドのふんわりとした髪に、丸くて大きな青い瞳。
それは確かにヒロイン、アリスだった。
(まあ……この場で一人だけ目立つようなことをする勇気はないわよね)
あれはゲームだから出来る選択だ。
納得していると、先刻の文官が一同を見渡した。
「それでは、今回の選考会について説明いたします。これからひと月の間皆様はここで過ごしていただきます。その間の行動などを見てお妃となられる者が決まれば選考会は終了。決まらなければ、人数を絞った上で継続となります」
(基本的にはゲームと同じのようね)
ゲームでも最初に同じ説明があった。
その後もゲーム同様、定期的に能力を図る試験があること、決められた時間以外は自由だがこの離宮から出ることは禁じられていると説明された。
「それから皆様の行動は審査官と呼ばれる者が見ており、随時審査いたします。どうか未来のお妃に相応しい行動をお願いいたします」
この審査官が厄介だ。
審査官であることを明かす者もいれば、隠している者もいて正確な人数は分からない。
侍女や庭師といった者も審査官だったりするのでどこで見られているか分からず、気は抜けないのだ。
――ほとんどの候補者はそれを知らないので色々と問題が起きたりするのだけれど。
候補者たちは合計十五名。
広い食堂に色とりどりのドレスが並ぶ様は華やかだ。
(ゲームと同じ光景だわ)
内心テンションが上がるのを隠すように、澄ました顔を作る。
「リナ様、緊張なさっていますの?」
隣に座るソフィア様に声をかけられた。
「……ええ」
実際は緊張半分、興奮半分だ。
「こういう場では堂々となさった方がよろしいですわ。リナ様は一番立場が上なのですから」
「そうなのですね」
堂々と……それは難しそうだ。
前世では人見知りではなかったけれど、この世界に生まれてから家族や親戚、教会関係者くらいしか接したことがないのだ。
知らない貴族令嬢たちを前にすると緊張してしまうのは仕方ないと思う。
それでも背筋だけは伸ばした。
「では、まず今回の候補者の方々を紹介いたします」
文官らしい男性が口を開いた。
「リナ・ロンベルク嬢」
「……はい」
立ち上がると軽く礼をとる。
お母様から教わった通りにしたつもりだけれど……大丈夫だろうか。
「ソフィア・ドルレアク嬢」
「はい」
次々と令嬢たちが名前を呼ばれていく。
「コゼット・ヴィトリー嬢」
「はい」
心臓が跳ね上がった。
コゼット……私の実の妹。
やはり彼女もこの場にいたのか。
その顔を見る勇気はない。
ろくに視線を合わせたことがないから実際の顔はよく分からないし、それは向こうも同じだ。
それに私は元孤児という設定だ。
――関わらなければ、向こうには気づかれないないはず。
私の動揺に関係なく紹介は進んでいき、最後の令嬢となった。
このゲームのヒロイン、アリスだ。
ゲームでは、実はこの晩餐会、陰で王太子が観察している。
そしてアリスは名前を呼ばれた時、一人だけ大きな声で『はい! よろしくお願いします!』と挨拶するのがこの場での正解となっている。
貴族令嬢らしくない元気な姿に王太子が興味を持つのだ。
「アリス・デュパール」
「……はい」
けれど他の令嬢同様の挨拶に、おやと思い思わず声の主を見た。
肩下までの長さのローズゴールドのふんわりとした髪に、丸くて大きな青い瞳。
それは確かにヒロイン、アリスだった。
(まあ……この場で一人だけ目立つようなことをする勇気はないわよね)
あれはゲームだから出来る選択だ。
納得していると、先刻の文官が一同を見渡した。
「それでは、今回の選考会について説明いたします。これからひと月の間皆様はここで過ごしていただきます。その間の行動などを見てお妃となられる者が決まれば選考会は終了。決まらなければ、人数を絞った上で継続となります」
(基本的にはゲームと同じのようね)
ゲームでも最初に同じ説明があった。
その後もゲーム同様、定期的に能力を図る試験があること、決められた時間以外は自由だがこの離宮から出ることは禁じられていると説明された。
「それから皆様の行動は審査官と呼ばれる者が見ており、随時審査いたします。どうか未来のお妃に相応しい行動をお願いいたします」
この審査官が厄介だ。
審査官であることを明かす者もいれば、隠している者もいて正確な人数は分からない。
侍女や庭師といった者も審査官だったりするのでどこで見られているか分からず、気は抜けないのだ。
――ほとんどの候補者はそれを知らないので色々と問題が起きたりするのだけれど。
77
お気に入りに追加
3,860
あなたにおすすめの小説
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる